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10/24/2023, 9:46:14 AM

「どこまでも続く青い空、白い砂浜。くぅ~、サイコー」
「こんなんで喜ぶなんてすげーな、お前は」
「だって、仕方ないよ。こんなに綺麗な砂浜なのに、誰もいないんだよ」
「そりゃそうだ。もう秋だぞ。泳ぐには寒すぎる」
「沖縄ではまだ入れると聞きましたが?」
「そりゃ沖縄の話ですから」

今朝、彼女がどうしてもと言うので、海へ連れてきた。
その彼女は、楽しそうに波打ち際で波と格闘していた。
だけど、どこか無理しているようにも見える。

「それで?相談あるんだろ」
「‥太郎君にはお見通しか」
「突然海に来たいと言われれば怪しむさ」
そう言って、俺は彼女に歩み寄り隣に立つ。
彼女は水平線を見ていた。
俺もそれにならう。

「実はさ、親から彼氏に会いたいって言われてんだよね」
「そうなのか。俺は御両親に会ってもいい。でも、なんか会って欲しくないように聞こえるけど?」
「‥今まで秘密にしてたけど、あたし実は鬼なの」
「前に言ってたな。由来が分からないけれど小鬼の末裔だって」

警備の仕事の時に、酒に酔って暴れた彼女を取り押さえたが馴れ初めだ。
人化の術を使って、初めての人里で慣れない酒(鬼ころし)を飲んだかららしい。
鬼というのはその時聞いた。

「違うの。由緒正しい鬼の末裔なの」
嫌な予感がして彼女を方を見る。
彼女は真剣な顔でこちらを見ていた。
「由緒正しいって、まさか」
「そう、鬼ヶ島の鬼なの」
思わず天を仰ぐ。
一面青い空だった。

とりあえず深呼吸しよう。
最悪のケースだった。
「俺が桃太郎の末裔なの知ってるよな」
俺は桃太郎の家系として生まれた。
俺のご先祖様は鬼ヶ島の鬼退治をして、その功績が認められた。
それから桃太郎の家系は、代々人に害をなす妖怪を捕まえたり、懲らしめたりしており、俺もその仕事をしている。

「うん。だから言い出しづらかった」
ごめんねと彼女は言って言葉を続ける。
「こういう時代だから、桃太郎に興味あるひと、あんまり居ないの。お母さんも応援してくれてるし。でもお父さんがね」
「お父さんが?」
「バリバリの桃太郎アンチです。ハイ」
「ああー」
口から変な声が出る。

「今まで色々理由付けて、会わせないことができたの。お父さんは人化の術を使えないし」
「じゃあ、何かあったのか。人化の術が使えるようになったとか」
しかし、彼女は首を振った。

「お父さん、桃太郎嫌いを拗らせて、人間の文化もよく知らなかったんだけど、この前ハロウィンの事知ったの」
なるほど、ハロウィンか。
ハロウィンなら鬼の格好でも怪しまれないだろう
「それに合わせてこっちに来る、と」

突然彼女が俺の手を掴む。
「お願い、会って欲しいの」
「そう言われても、桃太郎じゃあ反対されるだけだよ」
「そこは大丈夫。天狗の末裔ってことにしてあるから。お母さんも全面協力。天狗のフリしてやり過ごせばいいの」
準備万端だった。
「駄目かな?」
彼女が上目遣いで見てくる。
俺はこいつのコレに弱い。
「分かったよ」
というと、満面の笑顔になり、そのまま海の方に走って行き、はしゃぎ始めた。
現金なものである。

俺は、ため息をこぼす。
一週間後のハロウィン。
それまでにボロを出さないよう特訓しなければいけない。
あの日は警備の仕事が有ったが、休むことにしよう。
忙しいが頼み込むしかない。

今から気が重い。
もう一度空を仰ぐ。
どこまでも続く青い空。

鬼退治のほうが絶対に楽だよ。

ハロウィンまであと8日

10/23/2023, 9:34:55 AM

我々はがしゃどくろ。
骸骨の妖怪である。
そして私は、そのがしゃどくろを率いるファッションリーダーである。

我々には長らく服を着る習慣がなかった。
しかし、個体数が増えるに連れ、個体識別出来ないと不便という声が出てきた。
そこで人間のマネをして、服を着ることにした。
初めは適当にシャツを着るだけであったが、次第にファッションに目覚める個体が出てきた。
その中でも特に優れたセンスを持つのが、この私ということである。

ファッションとは不思議なもので、気合を入れると見せびらかしたくなる。
しかしなんの用意もなく街へ行けば、陰陽師や霊媒師などに祓われてしまう。
恐らく嫌われているのだろう。
なので身内で楽しんでいた。

そんな我々にも衣替えの季節がやってきた。
もちろん我々には、衣替えの必要などない。
人間は服で気温変化に対応しているらしいが、我々は気温の影響を受けないからだ。
実際ほとんどの個体は行わないし、やっても上着を着るだけである。

しかし今年は違う。
去年の今頃、命知らずの個体が街へ出た。
無事に帰ることはないと思われたが、普通に帰ってきた。
そしてある情報を持ち帰った。
ハロウィンである。
その日は怪物が街を練り歩いても問題ないというのだ。

それを聞いた我々は興奮した。
そうファッションを見せびらかす事ができるのである。
今までファッションに興味を持たなかった個体も、オシャレし始めた。
そして多くの個体が衣替えを期に、ハロウィンを視野に入れたコーディネートで着替える。

みんなで出ていく街を話し合ったが、渋谷に決まった。
どうやら、どこでもやっているわけでもない様で、今回は無難にということで、規模の大きい渋谷ということになった。

最近は、ファッションに不慣れな個体のサポートで忙しいが、全く苦にならない。
みんながファッションに興味を持ってくれて嬉しいのもある。
それ以上にハロウィンの事が楽しみなのだ。

あと一週間ほどでハロウィン。
その日ばかりは、ファッションの中心は我々だ。

10/22/2023, 8:32:25 AM

僕は登山が趣味である。
山を登頂したあとは必ず行うことがある。
「ヤッホー」
そう山彦である。
せっかく高い山に登ったのだから、これをしないのはマナー違反であろう。

しかしその日はおかしかった。
山彦が帰ってこないのである。
「ヤッホー」
もう一度、大声を出してみる
やはり山彦が帰ってこない。
信じられないことだった。

確かに場所によっては帰ってこないこともある。
しかしここはヤッホーポイント百選に選ばれた場所だ。
少しの間思案する。
山彦の調子が悪かったのかもしれない。
もう一度すれば、きっと返してくれるはず。
そう思って息を大きく吸った時、突然肩を掴まれる
驚いて後ろを振り向く。

そこにはガタイのいい中年の男性がいた。
「止めな、坊主。無駄だよ」
その男性は諭すように言う。
「あなたは?」
「俺か?俺はこの山の管理人だ」
男性の方に向き直る。
「何かあったんですか?」
「ああ、ヤマビコ様の喉が潰れたんだ」

男性の発言に耳を疑う
「待ってください。神様が返すというのはおとぎ話です」
「カモフラージュというやつだ。信じられないのは分かるが、実際に山彦は帰ってこないだろう?」
ありえない話なのだが、実際そうなっている。
もしかして本当の話なんだろうか。

「続けるぞ。最近ヤッホーポイント百選に選ばれただろ。それで人が増えたんだが、ヤマビコ様は律儀な方でな。たくさんの山彦を返して、声が枯れるまで返し続けてドクターストップ、というわけだ」
「そんな。僕らは無理をさせていたんですか?」
「ヤマビコ様も、人が増えて喜んでいたんだがな。まあ、何事もほどほどが一番というやつだ」

僕は男性に別れを言い、下山していた。
冷静になってみると自分は騙されたんじゃないかと思い始めた。
だが彼が騙す理由と、山彦が帰ってこない理由が分からなかった。
色々考えていると、前の方から老人が歩いてきた。
足取りがしっかりしていて、山登りの経験の多さを物語っている。
「こんにちは」
挨拶をすると、老人の方も笑顔で手を上げて応える。
そうしてすれ違った瞬間。
「ヤッホー、ヤッホー」
かすれた声が聞こえた。
驚いて振り向くと、さっきの老人はどこにもいなかった。
なるほど、律儀な神様である。

10/21/2023, 8:55:58 AM

1日の始まりはいつもVサイン。
元気が出るおまじない。
嫌なことばかりあるこの現代社会で、自らの士気を高めることは必須スキルである。

今日も鏡の前でVサイン。
でも今日は元気になれない。
何故なら、就職の面接があるから。
連敗記録更新中。
私には何の価値もないのだろうか。
世界は価値のない人間に厳しい。
なんて生きづらい世の中なんだ。

「そんな顔をするなよ。俺がいるだろ」
「その声は!」
振り向くと、そこには同棲中の彼くんがいた。
彼は理解のある彼くんだ。
「一人では出来なくても―」
理解のある彼くんが歩み寄り、私の隣に立つ。
「二人で力を合わせれば、出来ないことはない。そうだろ」
彼くんが私の目を見る。
確かに私は自分一人では何もできない。
でも彼くんとなら。
私はコクリと頷き、鏡を見る。

「いくよ、彼くん」
「いつでもいいぜ」
「1日の始まりは」
「いつも」
「「Vサイン」」

決まった。
私と彼くんの息のあったVサイン。
そして鏡には見事なWサインが写っていた。
元気が溢れてくる。
今日の面接はバッチリだ。
「もう大丈夫だな」
彼くんはしんみり言う。
どうしたのだろうと思い、彼くんの方を見ると少し薄くなっていた。
「彼くん!」
「お前はもう俺がいなくても大丈夫だ」
彼がさっきより薄くなっていた。
「無理よ。私一人じゃWサインなんてできない」
「大丈夫だ。お前にはもう一本腕がある。それを使えばいい」
彼くんの体はほとんど透けていた。
「彼くん!」
彼くんを捕まえようとして手を伸ばす。
「大丈夫だよ。君ならできる」
しかし、触れる直前で光の粒子となって消えていった。
「そんな‥彼くん」
彼くんが成仏してしまった。
私の様子を見て満足したのだろう。
つまり彼くんとはもう会えない。
その事実が私を叩きのめす。
崩れ落ちて、目から涙が溢れる。

しばらくして私は立ち上がる。
彼くんは言ってくれた。
大丈夫だと。
頑張ろう。
自分は信じれないけど、彼くんの言葉なら信じることが出来る。
―君ならできる―
その言葉を胸に生きていこう
それが彼くんの望みだから。

1日の始まりはいつもWサイン。
元気が出るおまじない。
嫌なことばかりあるこの現代社会で、自らの士気を高めることは必須スキルである

あの後の就職面接は完璧で、採用を勝ち取った。
でもいつも側にいた理解ある彼くんは、もういない。
でも寂しがってはいられない。
彼くんがくれた言葉で、今日も私は元気です。
見守っててね、彼くん。

10/20/2023, 9:28:38 AM

俺は、アパートに部屋を借りて二人で住んでいる。
SNSで知り合い、そして近所に住んでいると言うことで意気投合し、一緒に住むことになった。
しかし、不思議なことに同居人と一度も会ったことがない。
ニアミスは結構あるのだが、その時いつもすれ違ってしまい、顔を合わせず仕舞いで顔どころか性別も知らない。
メールで連絡を取り合っているし、家賃も折半なのではじめのうちは気にしなかった。

とはいえもう3ヶ月経つ。
いくらなんでもおかしいと思い、正直存在しないのではないかと疑い始めた。
さすが本人に確認するわけにもいかず、何か策を使うことにした。
こういうとき、一番ありきたりなのはカメラの設置である
こうすれば、もう一人の存在を確かめられるはずだ。

その日の晩、家に戻ると人の気配があった。
驚いて部屋を覗くと、バイトの後輩の女の子がいた。
「何してるの?」
「何って、ここに住んでるんですよ。先輩こそどうしましたか?」
「いや、俺もここに住んでる。っていうか同居人はお前か」
「みたいですね。初めまして先輩」
「ああ、初めましてって。そうじゃないだろ、男女で一緒に住めないぞ。間違い起きてしまう」
「え、間違いなんて起きませんよ。3ヶ月も一緒に住んで、何もなかったでしょう」
「あれ、そうなるのか。いやでも―」
「大丈夫です」
そのまま後輩に押し切られ、一緒に住むことになった。

あとでカメラを確認したが、ボタンを押し忘れたらしく何も写ってなかった。
写ってなくて正解なんだろう。
さすがに女の子のプライベートを覗くのは間違いだからな。

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危ないところでした。
先輩がカメラを仕掛けるとは。
防犯のためでしょうけど、さすがにダラダラしたりしているところを見られるわけには行きません。
データを消すだけでは、不審に思われるので、行動せざるを得ませんでした。
先輩とすれ違いを演出することで、ミステリアスな存在としてアピール。
そして機を見計らって、運命の出会いを果たす予定だったのですが、計算が狂ってしまいました。
すれ違う期間は、もっと粘る予定でしたが‥
まあ先輩と同居できたので良しとしましょう。

それにしても、的確にすれ違うために先輩の行動を把握していて、本当に助かりました
カメラを仕掛けておいて正解でした。
あとは先輩に間違いをさせるだけですね

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