G14

Open App

1日の始まりはいつもVサイン。
元気が出るおまじない。
嫌なことばかりあるこの現代社会で、自らの士気を高めることは必須スキルである。

今日も鏡の前でVサイン。
でも今日は元気になれない。
何故なら、就職の面接があるから。
連敗記録更新中。
私には何の価値もないのだろうか。
世界は価値のない人間に厳しい。
なんて生きづらい世の中なんだ。

「そんな顔をするなよ。俺がいるだろ」
「その声は!」
振り向くと、そこには同棲中の彼くんがいた。
彼は理解のある彼くんだ。
「一人では出来なくても―」
理解のある彼くんが歩み寄り、私の隣に立つ。
「二人で力を合わせれば、出来ないことはない。そうだろ」
彼くんが私の目を見る。
確かに私は自分一人では何もできない。
でも彼くんとなら。
私はコクリと頷き、鏡を見る。

「いくよ、彼くん」
「いつでもいいぜ」
「1日の始まりは」
「いつも」
「「Vサイン」」

決まった。
私と彼くんの息のあったVサイン。
そして鏡には見事なWサインが写っていた。
元気が溢れてくる。
今日の面接はバッチリだ。
「もう大丈夫だな」
彼くんはしんみり言う。
どうしたのだろうと思い、彼くんの方を見ると少し薄くなっていた。
「彼くん!」
「お前はもう俺がいなくても大丈夫だ」
彼がさっきより薄くなっていた。
「無理よ。私一人じゃWサインなんてできない」
「大丈夫だ。お前にはもう一本腕がある。それを使えばいい」
彼くんの体はほとんど透けていた。
「彼くん!」
彼くんを捕まえようとして手を伸ばす。
「大丈夫だよ。君ならできる」
しかし、触れる直前で光の粒子となって消えていった。
「そんな‥彼くん」
彼くんが成仏してしまった。
私の様子を見て満足したのだろう。
つまり彼くんとはもう会えない。
その事実が私を叩きのめす。
崩れ落ちて、目から涙が溢れる。

しばらくして私は立ち上がる。
彼くんは言ってくれた。
大丈夫だと。
頑張ろう。
自分は信じれないけど、彼くんの言葉なら信じることが出来る。
―君ならできる―
その言葉を胸に生きていこう
それが彼くんの望みだから。

1日の始まりはいつもWサイン。
元気が出るおまじない。
嫌なことばかりあるこの現代社会で、自らの士気を高めることは必須スキルである

あの後の就職面接は完璧で、採用を勝ち取った。
でもいつも側にいた理解ある彼くんは、もういない。
でも寂しがってはいられない。
彼くんがくれた言葉で、今日も私は元気です。
見守っててね、彼くん。

10/21/2023, 8:55:58 AM