フィロ

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7/21/2024, 4:10:26 AM

私が子供の頃、女の子の名前には◯◯子と子の付く名前がほとんどだった
ところが、人と同じであることを好まなかった私の親は、私の名には子の付かないものを選んだ

親の気持ちなど知らない私は皆と同じ様に"子が付く名前"が良かったと思ったものだ


名前というのはほとんどの人が一生を共にするもので、「名は体を表す」とか「名のように生きる」等といわれるように名前がその人の人生を象徴すると考える人もまだまだ多いようだ

こんな風に育って欲しいという願いや祈りを込めて親が子の名前を考え、与えることは時代が移り変わってもあまり変わっていないように思う


私の親が願いを込めて与えた名前のように私が生きているかと言えば、風変わりなDNAも受け継いだものの、まあそこそこ実現出来ているのではないかと思う
そういう意味では親に感謝しなければならないし、その名に恥じない生き方をこれからもしようと改めて思う


名前とは、なかなか興味深いものだ




『私の名前』


7/20/2024, 4:32:49 AM

それはちょっとした思い付きだった

コロナ禍で人との交流が制限され、仕事に行くこともままならず、多くの人が抱えていたモヤモヤを俺も少なからず募らせていた頃だった

暇潰しに何気なく観ていた「メイク動画」
すっぴんの女の子があれよあれよという間に美女に変身していくアレだ


元々姉貴には良く言われていた
「あんたが良い要素全部持って行っちゃったのよね…」

二つ上の姉貴とは似ているところが全く見つからないほどお互い別の造りをした顔立ちだった
「私はあんたが母さんが過ちを犯して出来てしまった子供なんじゃないかって、未だに私は少し疑っているのよ」
と恐ろしいことを姉貴は真顔で良く俺に言った

確かに自分でもキレイな顔立ちだとは思ってきた
日本人離れした彫りの深さ、180cmを越える背の高さだったが9頭身には見える小さな顔、大きいながらも涼しげな瞳、薄からず厚からずのバランスのとれた形の良い唇
化粧品のCMに出てきそうな綺麗な肌をしていた


その動画を眺めているうちに、
「俺ならもっとキレイになるかも…」
なんていうイタズラ心と好奇心が頭をもたげたのだ

姉の使いかけの化粧道具を借りて、見様見真似で丁寧に施していく
元々手先は器用で美的センスも持ち合わせていたから、それほど難しいことでもなく、キャンバスに絵を描いていくように筆やラインを走らせた

ハイライトの入った顔はより彫りを深く見せ、ブラシで整えた眉は涼しげな瞳をより際立たせ、マスカラをつけた睫毛はその瞳に憂いを与えた
唇はラインを引くと整い過ぎる感じがして、あえて無造作にリップクリームで艶を乗せるだけにした 
それがむしろあでやかさをより演出した

鏡の中の自分は思わず身震いするほど美しかった


日頃の俺は冴えない研究者としての日常を送っている 
1日パソコンの前でデータと睨めっこしているには高すぎる身長を持て余し、コンタクトレンズが体質的にに合わない眼には牛乳瓶底メガネをかけ、
年に2度ほどしか散髪に行かない髪は伸び放題
ヒゲも気が向かなければ剃らない日もある
人付き合いの苦手さもあって、女性との交際もほとんど経験はない

だから、周りの人間も俺の存在すら気にしていないし、まして俺がそんな美貌の持ち主であることに気付くほど俺を見る人もいないのだ


「これが俺か? ヤバ過ぎる美しさだ
化粧の魔力がこれほどとは!」
ほんの遊びのつもりだったが、このまま誰にも見せないで終わるのは勿体ない!
誰かに見せたいという衝動が抑えきれず、慌てて髪を水で濡らしてオールバックにし、姉の黒のワンピースを体に巻きつけて動画を作った

もちろん何もかもが初めての経験だったが、以前観たこのとあるパリコレモデルのイメージでポーズをとり、怪しげな表情でカメラを睨みつけた


反響は想像を遥かに超えた
「この美女は誰?」
「この美しさは神なんですけど!」
「この人は彼女?彼? もう、そんな事どっちだって良い美しさに平伏してま〜す」
「一体、どこから出てきたの?
今までこんな人どこに埋もれてたの?!」

その反響はとても把握しきれない数に上った

体中の血が逆流する様な興奮を生まれて初めて経験した


この動画を観ている人々の視線の先に映っているのはもちろん本当の俺ではない
でも例えそれが虚像であっても、それが真実かどうかなんて彼らにはそれほど重要なことではないのかも知れない
信じたいものがあることこそきっと強いパワーになるのだ


あれから半年が経ち、増え続けるファンに応えるように定期的に動画を配信する生活を続けている

人の興味なんて何れ失われていくものだ
だから、それまでの間、彼らひとりひとりがそれぞれにその視線の先に描く夢や憧れの象徴として俺が仮の姿でそこに存在してみるのも、それなりに意味のあることかも知れないと思っている

少なくとも背中を丸めながらパソコン相手にデータ収集に追われる自分よりは俺自身が遥かに生きている実感がある

そして俺の視線の先にあるものが、この経験が自分の可能性を広げた未来であることを信じている




『視線の先に』

7/19/2024, 2:11:38 AM

「私だけ」の世界に没頭したくて、ここで書き始めたつもりだった

描きたい世界を描きたいように、誰に邪魔されることなく批判されることなく自由に書くことを楽しむはずだった

もちろん日々綴るなかでその思いは確実に形になっているし、思いも遂げている
それなのに、何か物足りなさを感じてしまう自分も見え隠れしてしまう


放っておかれたいはずだったのに、他の人の描く世界にも触れたくなって覗いてみれば、その力に圧倒されて自分の力の無さに打ちのめされる…
そういう事が嫌で見つけた「私だけ」の世界だったはずなのに、やっぱり覗いてしまっている

人の評価なんて気にしないで、そんな物には囚われないで書くことを純粋に楽しむはずだったのに、自分の作品に♡がつくと「嬉しい!」と無邪気に喜ぶ自分がいる


自由とか、私だけの世界を味わい尽くすのにも、それなりの強い心が必要ということなのだろうか…
その時点でもう自由じゃないのに



そんな当たり前のような、実は深いテーマの「私だけ」を探りながら、私にしか紡ぎ出せない世界「私だけ」の物語をこれからも綴っていきたいと思う




『私だけ』

7/17/2024, 12:45:02 PM

尚美は最近奇妙な夢をみるようになった

その夢の中では何故か自分はいつも中年の男性になっている
ただ、夢の内容は決して不快なものではなく、むしろ幸せに溢れた夢だ

その男性は家族にも仕事仲間にも恵まれ日々を丁寧に生きている人物のようで
もちろん、その夢に出てく人物を尚美自身は全く知らないし、景色も訪れた記憶の無い所ばかりが登場する
まるで、全く別人の人生を垣間見ているような不思議な夢なのだ

そんな夢を度々見るようになった


そして今朝はとうとうこの夢が何を意味するかを示すような決定的な夢を見たのだ

今までは、尚美自身がその夢の中ではその中年の男性であったはずが、今朝の夢ではその男性が尚美自身に゙語りかけたのだ

「私の人生は順風満帆なとても素晴らしいものでした
まだまだこれからやりたいことも沢山ありました
愛する妻や子供達と楽しい思い出を沢山沢山作って生きていくはずでした

だから、どうか私の分まで、その命が尽きるまで毎日を丁寧に゙幸せに生きてください   お願い致します」
と懇願したのだ 


尚美には思い当たることがあった
それはまだ尚美が結婚前の学生時代のことだ

尚美は生まれつき心臓に重い病いを抱えていて、移植をしなければ長くは生きられないと言われていた
その移植の手術をその頃受けている
ドナーの素性は明かされていないが、交通事故に遭った中年男性だったということだけは教えて貰うことが出来た


臓器にはその人の生前の記憶が残る事があるらしい
その記憶が新たな体で蘇ることが有るということも聞いたことがある

尚美は今自分の体の中で鼓動を打っている心臓自身が覚えている記憶が私の体を借りて生き続けていることを、まさに実感したのだ
不思議と怖いとか、気持ちが悪いという感情は一切生まれなかった
むしろ、この記憶も含めて一緒に生きていける喜びが湧き上がって来るのを感じ、この心臓が私に新しい命を宿らせてくれたことに改めて感謝した

この心臓が持つ遠い日の記憶と共に日々を大切に生きることをその夢が決意させてくれたのだ


手術当時「佐伯尚美」だった私が、「木村尚美」になって15年
この心臓との付き合いももうすぐ20年になる
まだまだしっかり働いてもらわないと…

尚美は早速定期検診の予約を入れた




『遠い日の記憶』


7/15/2024, 10:44:44 PM

「終わりにしよう」


世界中のほとんどの人が、あなたに向けてこの言葉を送っています

どうか、この言葉があなたに届きますように、プーチン




『終わりにしよう』

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