短歌『富士山』
富士を観て
労苦感じて
飯を喰う
あの春何処へ
迷路を歩む
鼻腔に澄んだ空気を含み佇む
都落ち幾千年の時代の荒波が
荒んだ世界を太古の姿に戻す
たった独りの人間である私が居る
炎を纏う虎、凍てつく梢、風となるガゼル
彼らは明日を憂うことはなく、今を生きる
私は感情を賜うた訳がわからない
他人と話すことは何年先にあるか
心は純白の氷みたく凝固したから
私が朽ち果て幾光年の先にはなにがある
金木犀の香りが忘れられない
貴方の存在を確かめる匂いだった
人類の足跡を探しつつ
私は祠の中で慎ましく眠る
生命の炎環をこの手に包んで…
『想見』
人が蒼い球に住む前
事象、具象だけで満たされてた
名無しの金平、有象無象や
金平糖はとても美味くて美味や
人は何にでも名付け、分類したがる
金平蔵と紺碧子付き合ってるで
二人とも成績優秀、美顔んだ
名無しの紺碧子、顔なし顔梨
梨はとても美味しくて美味や
人は仲間を欲しくなる
愛、友情、絆は全部甘酸っぱい
人は紅の地で踊るおどる
今日は踊らせてくんませえ
金平糖と梨だけじゃ甘すぎる
もうちょい塩っぱいの下せえ
へいお待ち、ラーメン一杯
へいわだ平和だ今日も地球は
『食いもん』
芽吹きそうな種がモグラみたいに奥深く潜ってね、
心に小さな穴が開いたの。
あの穴はあまりにも愛らしく埋めたくなかったの、
歪んでとても醜かったのに。
あたしはね、芽吹きそうな種がすごく憎かったの、
土竜は眼が見えなくて…。
あの日、植えた種を探したよ。故郷で
"魚みたいな瑠璃職人に居場所はありませんよ"。
魚さんはただ佇んでたよ
あたしはね、深く気持ちいい朝を迎えたよ。
なにか足りないの、わかんない。
『しつい』
偽りに濡れた仮面を蒼白い光源は照らす
お互いの本質を見失ったまま
一粒の愛を求め、絶え間なく働く蟻たち
本当の愛が欲しいのに
美しい花ほど摘まれる
高く高く咲き誇りたい
その願いは欲に濡れる
笑顔の仮面を被ったら外に出よう
真夏の太陽がおまえに語る
笑顔の仮面が壊れたら涙を流そう
年の瀬の潤んだ瞳が沈む
涙が枯れたら愛を唄おう
偽りに満ちた横顔を煌々と照らすのは貴い蒼い空
永久に蒼ざめた白樺の樹
おまえの寝顔みたいだな
安らかな夢にいるおまえ
もう会うことはない灯火
わたしは今日も偽りの仮面を被る
変わらない日々の移り変わりは、
地中深くにある本質が芽を出す
其の日の到来を信じて……
『哀愁劇』