『それでいい』
不器用でもいいんだよ。
何も出来なくてもいいんだよ。
怪我さえ無ければいいんだよ。
才能なんか無くてもいいんだよ。
おっちょこちょいでもいいんだよ。
健康ならいいんだよ。
特別じゃなくてもいいんだよ。
唯、生きていればいいんだよ。
と、言われた。
それは所詮、宝石を詰めた便の様で美しく、スッキリしない曇り空みたいだった。
そう、所謂、綺麗事と呼ばれるモノ。
苦笑いで済ませた放課後の先生と二人きり特別ホームルーム。
大人って、綺麗事言う割に汚れている。
汚れている割に、綺麗事ばっかり。
教室の机の下、プリッツスカートに爪を突き立てた。何も参考になら無い人生の参考書。
彼女に、『ありがとうございました。』と述べて夕陽に照らされた階段を降りる。
それでいいとか、簡単に言って欲しくない。
けど、『あかんやん』と言われたら、多分、私は更に自分を追い込む。
もう、どうすれば良いのだろうか。
24.4.5
『大切なもの』
命、家族、友人、夢、希望。
そんな綺麗な文字が並ぶ中、俺だけが頭の中で汚い物を書いていた。
"金"
金有っての命。
金有っての絆。
金有っての夢。
金が欲しいという希望、願望。
教卓に立つ俺は、道徳の教科書を読みながらそう感じていた。道徳は正解がないと言う。
だが、数字が付けられる。
大人の俺は、多分、付けられるなら2だろう。(自分で付けるなら、満点だが。)
しかし、思うのだ。
答えは無いのに、数字が付けられる道徳。
"見た目で判断してはいけない"と言う割に、子供達以上に見た目を気にする大人。
多様性と自己中を履き違える馬鹿。
"皆が来やすい学校を"と言いながら、"コンプレックスをさらけ出せ"と言葉を変えて言い張る先生。
そんな嘘の泥を固めて上から金箔を張り付ける大人と、嘘の泥をそのままにする大人。
どちらが、良いのか。
俺は、どうでも良いけれど。
『先生の大切なものは何ですか、?』
そう、生徒に言われた。
大切なもの。金。金。金。
『金だな。』
『えぇ~、w先生ったらぁ、w』
そう、笑い声が溢れる教室。
『お前らも大人になれば、金の大切さが分かるからな。』
24.4.2
『ところにより雨』
『ところにより雨となるでしょう。』
『雨かぁ…、』
雨は好きかい。僕は、あまり好きじゃない。
今日の大阪はところにより雨。
もしかすると、その"ところに"は僕の地域なのかもしれん。
取り敢えず、折り畳み傘と憂鬱な気分を鞄に押し積めて学校へ向かう。今日も、どうせ、好きな子とは話せない。茶髪ボブの、可愛らしい子。ほら、結局話せない。
心も、大雨。空模様まで、号泣中。
呆れながらも、折り畳み傘を手に持ち下駄箱へ。
すると、黒い髪を三つ編みの御下げに黒淵の眼鏡を掛けたクラスの目立たない子。正直、可愛いとは思わない。
『帰らんの、?』
『うん、この大雨は帰れへん。』
俺は、彼女に折り畳み傘を押し付けた。
『え、?』
『女が風邪引くんは可哀想や。』
そう一言だけ残し、俺は鞄を頭上に大雨の中走り去った。彼女の『あッ…、』と何かを言い掛けたのすら、聞かず。そんな、彼女が今じゃ俺の嫁さんなんて、人生、分からんな。
24.3.24
『泣かないよ』
『泣かないよ。』泣き虫な俺に掛けてくれた母の言葉。小さい頃は、大きく感じた母の手は皺が増えて、少し弱々しい。
桜の季節になると、いつも思い出す。
桜の花弁を帽子に集めて、母にプレゼントしたっけなぁ。母は、キャンドルを作りが好きだったから、その桜をめいいっぱいキャンドルに入れて保管してくれていた。
そのキャンドルを、俺は今撫でている。
桜の季節。出会いの季節。別れの季節。
俺の今年の桜は、別れの季節らしい。
母は言った。『男の子が泣いて良いのは、失恋をした時とお財布を落とした時。』だと。
では、大切な人を亡くした俺は泣いてはいけないのか。
『あぁ、泣かないよ。泣かない。泣かない。』
泣かない。泣かない。泣かない。
母のキャンドルに、火を付ける。
けれど、消えてしまった。
母に買って貰ったゲームでの、知識だが水は炎に勝つらしい。それは、目から溢れた涙も同じらしいな。
『泣かないよッ…、泣かないッ…、』
もう一度火を付けると、次は茶色くなった桜が出てきた。お前は、植物だから炎に負けたのか。
それとも、時間の流れに負けたのか。
人が枯れてしまうのも、時間の流れに負けてしまったのか。
俺は何度も、『泣かないよ。』と声を溢した。
母に届くだろうか。
24.3.17
『0からの』
よくもまあ、彼奴は自分勝手な奴だ。
『0から俺はやり直すんだ、!!!』なんて言って、真冬の海の中に飛び込んで行ったらしい。
0からやり直してみても、彼奴の罪は消える訳無いのになぁ。
『0からやり直すというのは、その罪を認めねぇって事じゃねぇのかい。』
そう8歳の娘に呟く。
『死んで償おうなんて、本人が思うもんじゃないよ。本当に。そういうのは、被害者が死ねと言ってから首でも吊るもんでしょうが。』と、皺が増えた顔を赤くして妻が呟く。静かな怒りが沸々と伝わってくる。
『死にたくねぇって呟いてたら、首吊らせて、生きたくねぇって呟いてたら豚小屋で一生働いときゃ良いんだよ。あんな馬鹿。』
つらつらつらつら悪口が溢れてくる。
けれども、娘の遺影は何も口にしない。
まさに、"死人に口無し"と言うことなのだろうか。
少し違うのだろうか。今はそんなのどうでも良いのだ。
連続殺人が、一回死んだだけで許されるのか。
彼奴は8人程殺した極悪人だ。
だったら、8回殺すのが筋ではないのか。
彼奴は、一度。しかも、自分の意思で。
痛め付けられた娘とは違い、海に飛び込むだけで死んだのだ。
『お前の親族から後8人、連れてこい。俺が殺してやらぁ。』
そう、俯いて畳に座っている50半ばの男に吐き捨てた。彼は怯えながら、畳を立つ。
その月の25日を過ぎた辺りで、女を8人連れてきた。次こそ、娘を救うのだ。
やり返す事が娘の遺影を微笑ませる唯一の方法なのだ。
24.2.22