『泣かないよ』
『泣かないよ。』泣き虫な俺に掛けてくれた母の言葉。小さい頃は、大きく感じた母の手は皺が増えて、少し弱々しい。
桜の季節になると、いつも思い出す。
桜の花弁を帽子に集めて、母にプレゼントしたっけなぁ。母は、キャンドルを作りが好きだったから、その桜をめいいっぱいキャンドルに入れて保管してくれていた。
そのキャンドルを、俺は今撫でている。
桜の季節。出会いの季節。別れの季節。
俺の今年の桜は、別れの季節らしい。
母は言った。『男の子が泣いて良いのは、失恋をした時とお財布を落とした時。』だと。
では、大切な人を亡くした俺は泣いてはいけないのか。
『あぁ、泣かないよ。泣かない。泣かない。』
泣かない。泣かない。泣かない。
母のキャンドルに、火を付ける。
けれど、消えてしまった。
母に買って貰ったゲームでの、知識だが水は炎に勝つらしい。それは、目から溢れた涙も同じらしいな。
『泣かないよッ…、泣かないッ…、』
もう一度火を付けると、次は茶色くなった桜が出てきた。お前は、植物だから炎に負けたのか。
それとも、時間の流れに負けたのか。
人が枯れてしまうのも、時間の流れに負けてしまったのか。
俺は何度も、『泣かないよ。』と声を溢した。
母に届くだろうか。
24.3.17
3/17/2024, 3:00:38 PM