chihare

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8/6/2023, 3:37:30 PM

私は鏡でしかなかった。
彼の光を受けるから、人の目にとまるだけの銀板。立ち去ればもう、誰も覚えていない。

だから灼かれるのを許していた。痛みも、辛さも、切り離して沈めれば感じなくなる。
私に顔はない。私に声はない。私は鏡でしかないのだから、誰が覗き込んでも自分のことしか映らない。眩しいほどの光を浴びて、ようやく形だけが記憶される。

「なので、困ります」

手を掴まれれば、手があることを思い出す。
引きとめられれば、足があることに気づいてしまう。
鮮烈な光は、ふたつあってはならないのに。

「君は星だよ。彼もまた、星であったように」

うっそりと、形ばかりは穏やかに告げてくる。
王位継承の第一位は、私であるべきなのだと。

【太陽】

8/5/2023, 1:02:05 PM

鎮魂の音が響く。

祈りは何も変えられない。
変化は行動だけが起こすものだから。

それでも鐘は響く。人は祈る。
78年後の今も、届け、届け、と。

変わらないことでしか、変えられないことがある。

【鐘の音】

8/3/2023, 2:27:42 PM

眩しい。
そう一言で終わらせたら、そこで止まってしまうのはわかっている。
でも、そう一言こぼすことしかできないような眩しさも確かにあるんだ。

朝日が白光に転じる。海がてりてりと波間に輝く。
風に潮が交ざり、港の喧騒が届く。

久しぶりに触れる病室(へや)の外は、あまりに綺羅綺羅しかった。

【目の覚めるような】

8/1/2023, 3:00:56 PM

「それは、記録更新だな」
過去数十年、雲ひとつない空が見える確率が高い日を、街の目印がよく見える日を、彼らは選んだ。
灼熱の太陽が十落ちても足りない熱と、ハリケーンが二十ぶつかっても届かない暴風と、長く続く見えない力で、一人ひとりの身体を壊し尽くすために。

だから8月の快晴は、いつも少し息が詰まる。

【明日、もし晴れたら】

7/31/2023, 1:09:54 PM

優しさは時に息苦しさになる。
まめな手から逃れて、あのとびらを開いて、シンとつめたい個室で毛布にくるまっていたい。何も心配はないから、たまご粥もポカリもいらないから、静かであるだけで構わないから。
……そんな言葉が通じるまでと、相手がこちらを棄てるまでと、どっちが早いかなって、腕と胸のすき間でわらう。

【だから、一人になりたい】

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