chihare

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私は鏡でしかなかった。
彼の光を受けるから、人の目にとまるだけの銀板。立ち去ればもう、誰も覚えていない。

だから灼かれるのを許していた。痛みも、辛さも、切り離して沈めれば感じなくなる。
私に顔はない。私に声はない。私は鏡でしかないのだから、誰が覗き込んでも自分のことしか映らない。眩しいほどの光を浴びて、ようやく形だけが記憶される。

「なので、困ります」

手を掴まれれば、手があることを思い出す。
引きとめられれば、足があることに気づいてしまう。
鮮烈な光は、ふたつあってはならないのに。

「君は星だよ。彼もまた、星であったように」

うっそりと、形ばかりは穏やかに告げてくる。
王位継承の第一位は、私であるべきなのだと。

【太陽】

8/6/2023, 3:37:30 PM