私を今、包むのは、やわらかな光。
遠くから聞こえる小鳥のさえずりと共に
朝日は、私を歓迎する。
秋空は、天高く
それでいて、案外小さい。
かと思えば、途方もなく遠かったり。
貴方と私をきっと祝福する、やわらかな光。
光のヴェールを纏い、今日も靡かせながら歩く。
秋の少し冷たい風に靡いたヴェールは、私の心を温かく包みこんだ。
やわらかな光
ふとした時に、泣きたくなる瞬間は、誰にだってあるでしょ?
朝起きて、フカフカの布団の中にいる時、友達と何気ない会話をしている時、ひとりぼっち夕暮れを見ながら佇んでいる時
その涙に理由(わけ)なんかないだろうし、でも実は、何か隠れていたりするのかもしれないし…
自分にすら嘘を吐く私は、今日も周りと自分に言い聞かせる。
理由、なんかないんだよ、たぶん
そんなの聞いてくるぐらいなら、
助けてよ
涙の理由
1時間寝坊した
家に定期を忘れた
就業前に突然パソコンが壊れた
イヤホンのゴムが片耳だけ無くなった
帰りの電車が1時間半、遅延していた
こんな地味な不運が続く日だってあるよね。
まさに今日なわけだけど。
人が押し詰めている電車のホームで、ただ電車を待つ。
タクシーで帰ろうにも、財布の中にはジャラジャラとギリギリ電車に乗れる硬貨しか無いし、電子マネーも先程スマホの充電が切れたから使えない。
はぁ。
まあでもさ。
きっと明日もくるから、おいでとも言ってないけどくるから、どうにかなるでしょ。
……多分、
今夜は満月でもなんでもなくて、ほっそい三日月だったけど、あの満月もこの三日月もおんなじ月だよね。
大丈夫。きっと。
きっと明日も
もし、明日世界が終わるとして
世界に一つだけ何かを残しておけます、と言われたら貴方は、何を残しておく?
人生の大半を共に過ごした家族
莫大な時間をかけて創った、物語たち
大切なあの人
何を残すのが正解なんだろう。
こんな選択は迫られたくないな。
だって、困るじゃん。
大切なものたちが多すぎて、そのどれ一つにとっても失いたくなくて。
だからさ、ごめんね。
こんな事考えなくて良くなるように、終わりは自分で決めるよ。
大切なものを失う前に。
ばいばい。
──彼女の遺書には、こう記されてあった。
少し古びた紙の匂いが、鼻の奥に詰まっていくようだ。
息が、しにくい。
世界に一つだけの温もりをくれた彼女は、
世界に一つだけの苦しみを僕に刻みつけて逝った。
『世界に一つだけ』
踊るように笑って
踊るように泣いて
踊るように怒って
踊るように微笑んで
貴方の一挙手一投足に目が離せないでいた。
親愛なる貴方の舞台が終わるなら、私は絶対スタンディングオベーションで歓声を送ろう。
そう思っていたのに。
静かな病室の中。
無機質なベッドの上に横たわる姿ごと、どこまでも広がる白に溶けてしまったようだ。
踊るように動いていた貴方は、今やその目を開けることもない。
思っていたよりも早く迎えてしまった閉幕。
まだまだクライマックスは訪れていないはずなのに。
こうも、神とは残酷なのか。
誰もいなくなった舞台上、そこに残ったのは誰も照らすことはないスポットライトのみ。
私は、そのまばゆい明かりを黙って見つめていることしかできなかった。
踊るように、貴方と毎日を過ごせたら
それだけでよかったのに。