名無し

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「…結構、冷えてきたね」

独り言のように呟く。

朝から降り続いている雨は未だ止みそうにない。

一粒ひと粒、意思を持っているかのような音色を奏でる。

靴も髪もぐっちゃぐちゃ。
だから雨なんて嫌いだった、のに

「………そろそろなんか言ったらどう?」

せっかくこの中でしか会えないんだから。

「ごめん、久々に会えたから噛み締めてた」

そういうところだよ
私は、絆されてばっか

淡い鼓動を抑えるように彼に話しかける。

「でもさ、これから梅雨だからたくさん会えるよね?」

「………そうだね」

彼は、雨に濡れない。

否、濡れることができない。

水は、生を持つものにしか反応できないらしい。

それでも、わざわざ傘の中のに入ってきてくれると

私は雨に隠されているワンダーランドにでも行けた気分になる。

「…雨、止みませんね。」

貴方が言うのは、すこしずるいんじゃない?

雨が止んだら、私を、おいていっちゃうくせに


傘の中の秘密

6/3/2025, 2:55:12 AM