マーマレード

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4/11/2025, 2:14:01 PM

「久しぶり。元気だった?」
「、、、うん。」
「ふーん?ま、いいけど。」
「、、、」
「ね、久しぶりに弾いてよ、ピアノ。」
「、、、無理。」
「えー!!なんで!?めっちゃ上手だったじゃん!!」
「、無理。」
「そう言わずにさ!」
「、もう、、、な、、い」


「え、?」

「もう僕に!ピアノを弾く資格なんてないんだ!!」

「え、」

「僕は、お前みたいに、名家出身でも、金持ちの家の子でも、愛想を振りまくアイドルなんかでもない!でも!ピアノを、ただ、無心で引くのがただ、楽しかったっ、それだけが、存在を許されたような気さえした!なのに、なのに、!!」
「、」
「お前が、お前が、、、!」


















「、ねぇ。」
「資格って何?」



「え、」
「君がこだわる資格って、ピアノを弾く資格って何?」
「そ、それは」
「誰かに聴いてもらうこと?誰かに評価してもらうこと?それとも、私に聴いてもらって感想を言ってもらうこと?」
「、、、」
「君はさ、知っちゃったんだよね。誰かと、いるこの良さを。」
「、、そう、」
「多分だけど、君にとっての資格は元々、無心に引くことだった。でしょ?じゃなきゃ旧校舎の音楽室なんて人がいないとこでピアノを弾く人なんていない。でも、私がそこに来ちゃった、場を乱す騒音が。」
「、、自分で言うんだ。」
「ふふっ。でもそうでしょ?1年も続いた平穏に急にやってくる私という美少女。心が乱れちゃうのは仕方がないよね。」
「、、」
「でもさー。よく続いたよね、ピアノを弾く君と横でアイドルの踊りの練習やってる私。最初は受け入れてくれなかったけど、でも、だんだん曲聴いてくれたりファンサしてくれたりしたじゃん?あれ、嬉しかったんだよね。だって、私のファン第1号だったからさ。」
「あれは、なっちゃうよ。」
「私も、色々言われた。頭おかしいとか、叶うわけないとか、現実見ろとか。でも、君の音が、寂しそうだけど優しい音が救ってくれたんだ。それで、思い出したんだよ?なんでアイドルになろうとしたのかって、私、誰かを笑顔にしたかったんだって、元気にしたかったって。」
「でも、そんな日は永くはなかった。」
「私が売れだして、君はコンクールと受験でさらに忙しくなって、会う日がどんどん減って行った。夢を見せたかったのに、いつの間にか現実を見ないと行けなくなった。でも、嬉しかったよ。たまにLINEくれるの。」
「なんで、他にも沢山来るでしよ。かおいいし。」
「これが困っちゃうんだよねー。みんな下心丸出しでさ?対して話したことも無いくせに、私が売れだしたらかわいいねーとか、デートしようとか、付き合ってとか、そうゆうのばっかり。」
「モテモテじゃん。」
「でも、嬉しくないよ。」
「」
「結局私も、君と同じなんだよね。知らない誰かじゃなくて、知ってる誰かから賞賛を得たくなっちゃった。そして、それが目的になっちゃった。ステージの上でキラキラした服をきて、色んな人に作った笑顔を向けても、結局、古びた旧校舎の音楽室で、瓶のケースで作ったステージの上で2人だけのライブをしてた時が、いちばん良かった。」
「」
「ごめんごめん。私ばっかり話しちゃったね。今度は君の番。ほら。」

「僕は、弱くなった。弾いて得られる完成に価値をつけて、ミスの無い演奏を商売道具にした。いつの間にか、ロボットみたいな、録音した音を流すみたいなんの面白みもない機械になった。完成を貰えるのは、賞を貰えるのは嬉しかった。でも、僕はそこにはいなかった。、、君の2畳半のライブはいきいきしてた。輝いてた。僕の表現じゃ到達出来ない生の光を帯びたものだった。」
「」
「君はよく言ってくれただろ?上手かったって。でも、それだけ。他の人も同じ。それ以外の感想がない。言い換えれば感想をいうことが出来ない。技術があっても、空気を変えれても、感情をうめない。」
「」
「、、資格。僕にとっての資格は、心を動かすこと。レコーダーにならず、人がいる音、感動を生む、心を動かす音。でも、ないんだ。いったろ?僕は機械みたいだって。人の心は動かせないんだ。機械じゃ。」
「そんなことない。」
「え、」
「そんなことない!!」
「」
「自分を卑下しすぎ!もっと自分のことを見なよ!それに、私は機械みたいだなんて思ってない!君は、君が思うほど、機械になれてない。だって、悲しいことがあった日は音が沈んでるし、嬉しいことがあっときは、音が踊ってる。」
「君が、いたから。」
「え、?」
「君がいたから、僕は音に気持ちを乗せれたんだと思う。そうしたら、君が気づいて、話しかけてくれるから。ずるいよね。でも、それが本当。資格を無くしたのは君がいなくなったから。本当は、君に聞いて欲しかった。音で会話したかった。それが、本音。ごめん。キモいよね。」



「、、嬉しい。」


「、、なんで、、なんで、泣いてるの?」
「なんでかな、、わかんない。わかんないけど、嬉しいんだ。たぶん、やっと分かり合えた気がするから。あのさ初めて話した時のこと、アイドルになりたいって言った日のこと覚えてる?」
「たしか、転校当日、教室で色んな人に話しかけてたよね。」
「あはは、あの時はあまりいい反応がなかったんだ。みんな馬鹿げてるとか、冗談言ってるとか。」
「はは、そら、普通は信じないよね。」
「君だけなんだよ。ちゃんと聞いて、見て応援してくれたのは。真に受けてくれたのは。だから、ここで君がピアノを引いてるって知った時押しかけたんだ。この人ならそばで見てくれるって思って。」
「どうだった?」
「見てくれたじゃん、結局。」
「、みゃうよ。」
「ね、今日ってなんの日?」
「君と僕らの卒業式。」
「夕日、綺麗だよね。部屋にいい感じに差し込んで、ドラママチック。」
「そうだね。」
「こんな日は、決まってるよね。」
「、、僕から言った方がいい?」
「どうかなー?」
「いじわる。」
「ね、言ってよ。」

「これからは、2人で音を、2人の音を作りませんか?」
「音だけ?」
「えっと、2人で、ふたりの、世界を、作りませんか?」
「ふふっ、なにそれ。もうプロポーズじゃんか。」
「ダメ?かな。」
「こちらこそ、喜んで。」
「行こう、君と僕で」

3/24/2025, 1:50:14 PM

最初の体験、1度目の体験は特別であり、それ以上の驚きや興味深さをそそるものはない。念願の2度目の体験というものですらそれは1度目延長線上に変わり、ただ前回の記憶を呼び寄せるだけのイベントというものになりさがる。
それでも、人というものは何故か1度目を懐古し、2度目を願う。1度目が悪かったのなら2回目はこうしよう、2回目も同じような体験がしたいと、忘れないように、忘れても思い出せるようにと、自分勝手に記憶を辿り、思いを馳せる。しかしながら、それは大切なものであり、必要なものである。
グダグダと語ったが、事実、自分はよく懐古をしてしまう。高校の3年間、中学校での3年間、これまでの人生をこれまでの記憶を辿り、後悔し、懺悔し、楽しみ、歓喜する。2度目がないからこそ、1度目に備え、1度目を楽しむ。去年と同じ服を着ていても、去年とは違う、別の自分になれるように。自分はそうゆうものを大切にしていきたいのである。

3/20/2025, 4:31:44 PM

「ねぇ、てをつないでかえろうよ。」
幼い女の子は屈託のないにこやかとした顔でこちらに手を向けてくる。
「そうだね、なんか、久しぶりだね。」
そういう僕は小さくなった手足と今よりも高い声で無意識にそう言った。どうやら僕は小さい頃の夢を見ているらしい。
「きょうは、ごめんね。」
「いいよ、大丈夫。」
昔の自分は異性に対してこんなにもスムーズに大人ぶったことをいえていたのかと思うと、不思議と自分が自分じゃないような感覚になる。一体何に対してのゴメンだったのか、何がごめんねなのか、以前の記憶が全くと言っていいほど思い出すことは出来なかった。ただ、この子の申し訳なさそうな可哀想な顔を見るにこの子にとってとても大きな事だったんだろう。
「ねえ、こうえん、いこうよ」
「いいけど、暗くなるよ。」
いつの間にか別の話が始まっていた。小さい時、いや、昔に限ったことでは無いが、話題が切り替わる速度はいつだって女の子には勝てない。子供の頃は門限は暗くなる前には帰るという比較的優しいものだった。
「ねえ、そつぎょうしたらいなくなっちゃうってほんと?」
「、、、、うん。」
懐古に浸っていると時間の進みは早く感じる。そう、僕は幼稚園を卒業して親の都合で隣の県に行くことになった。小さい頃は隣の県というのはまるで他の国のような距離感とアウェイさがあった。
「またあえるかな」
「会えるよ、いつか」
綺麗なオレンジ色に照らされた女の子はまるでドラマのワンシーンのように子供ながら大人っぽくしかし、子どものあどけなさを残した顔で首を傾げ、こちらの様子を伺っている。
「おもいでつくろう。おもいで。たくさん。」
そうゆう彼女はドラマの影響なのか少しおませさんなのか顔を近ずけてくる。
「おかあさんがいってたんだ。おもいでがあったらいつかあったときにあいてのことをおもいだせる、って。どこかであえるかもしれない、うんめいって、いうのがあるって。」
「ねえ、わすれないで。わたしのこと。きみを好きってこと」
彼女がそう言うと、他の景色は見えなくなり、影が顔を覆っていく。唇と唇が近づいていく、つまり、マウストゥーマウス、、、


「、、ゆめ、か。」
意識のある夢を、現実味のある夢、それも記憶に元ずくものを見た時の気分というのはあまりいいものでは無い。
「あの子、だれだっけ。、、やばい、完全に覚えてない」
母に聞いてみようとも思ったが、今の僕では気づきもしないのかもしれない。小学校で僕は虐められた。理由は、覚えていたくはないが、恐らく離婚だろう。引っ越してすぐ母と父は離婚した。僕は言われるがままに母について行った。離婚の原因は分からない。聞こうか聞くまいか悩んでいるうちに時間が経ちすぎてしまったのだ。
「あの子も高校生か、キラキラした日々を送ってるんだろうな、きっと。」
諦めたような、自信の無い思想と声の原因は自己肯定感のなさから来るものだろう。母は離婚してから気丈に振舞っていた。だから自分も、何とか学校に行き、何とか進学高に通った。何とかできている日々が続いて言った。それでも、綻びというのは静かにやってくるものであるのはいつだって、変わらない。
母に新しい男ができた。自分が高校にはいり、ある程度落ち着いたからだろう。相手の男は眼鏡の真面目そうでスーツが似合いそうな母と同い年位の見た目だ。母がパートに行っているスーパーであったそうだ。事細かに馴れ初めを話されたが正直、あまり興味がなく母には申し訳ないが覚えていない。

高校に入っても友達は少ない。いや、ともだちはいたのかもしれない。少なくとも僕はそれを友達とは形容出来なかった。部活は中学から吹奏楽をしている。楽器はトロンボーン。トロンボーンを吹く時だけは不思議と自分を出すことが出来た。合奏で音と一体化している時間は何にも変えることは出来ない。友達は少ないがともだちはいる。昔から初対面の相手や、表面だけの付き合いは、上手かった。だからともだちはいる。元々吹奏楽で運動部に入ったことは無いから分からないが、運動部より他の人と話す機会や、知らない人と関わる機会がおおい。だから、ともだちは普通の人よりは多いかもしれない。もしかしたら、知り合いくらいかもしれないが。
僕は居場所というのを求めているような気がする。あるはずなのに、ないように感じる。本当に身をおける場所を探している。

次の休みの日ふと、公園に出かけた。隣町のあの夢で見た公園。そう、隣の県と言っても距離的には隣の街で電車で1時間ほどで行ける距離だ。母は心配していたが携帯は持たせてもらっているし、最悪車もある。何よりここ最近事件もなく平和な日々が続いているので、それほど話すことなく家を出た。
「懐かしいな、でも、知らないものも増えてる」
そんな独り言が出てくるほど、時間の流れというものは心に大きな影響を与える。
「遊具もふえて、知らないところみたいだな。」
今は、昼の時間。でも、お腹は空いていなかった。スマホを見る気にもならなかったのでぼーっと近くで遊んでいるこどもとそれを脇目に井戸端会議をしている大人を見つめすぎないように日陰でそれを見ていた。いつの間にか寝ていたようだ。周りから雨の匂いがしてくる。公園に屋根があったのでそのベンチに座った。次第に雨粒の軍勢は勢いよくなり、土砂降りと言っても過言では無いほど雫がアスファルトを叩きつけ出した。雨が止むまでここにいようと思っていると
「きゃー!ぬれるぬれる!!」
そう言いながら女子高生ほどのずぶ濡れの女の子が屋根の中にやってきた。
「こんにちは。こんなに降るなんて、災難ですね。」
「こ、こんにちは。そう、ですね。」
いきなり声をかけたからか、声をかけられるとは思ってもいなかったのか、びっくりした様子で、それでもしっかりと答えてくれた。
「あの、、」
女子高生がふと、声をかけてきた。
「どこかであったことあります、かね。すみません、変な事聞いちゃって。」
不思議な人だと思った。初対面の人にそれも、異性の人にそれを聞くのはなかなかできることでは無い。
「そうですかね。どこかであったかもしれないですね。」
いつも通り、表面だけの言葉をかえした。
「」
彼女はその返答が気に入らないのか、そんな浅いことが帰ってくると思ってなかったのか黙ってしまった。
「この前、ここにいる夢を見たんですよ。自分が小さかった頃、ここで同じ歳くらいの女の子と思い出って言いながらあの滑り台の上でキスした夢を。忘れてたんですけど、思い出したらここにきたくなっちゃって。なんか変ですよね。」
「そんなことないと思いますよ。」
「え、?」
そういう彼女は何かを確信したような、でも何かを探るような声を、どこかで聞いたことがある声でそう言った。その顔もどこかで見たことがある気がする。そう、まるで夢の中の女の子と重なるような。
「いま、おいくつですか?」
「16です。ことしで」
「そうなんですか、私も今年で16なんですよ。」
何かを確かめ合うように情報を共有していく。
「もしかして、、幼稚園卒業と同時にほかの県に行きました?」
「ええ、はい。」
「夢を見たのっていつですか?」
「えっと、、たしか水曜の夜に見たので木曜?」
「実は私も同じ日に同じ夢を見たんです。まぁ、私は覚えてたんですけど。」
「え!?えっと、、ごめんなさい?」
「この公園まで手を繋いできたのを覚えてる?」
「うん。」
「じゃあ、私がおかあさんに教えられたことは?」
「運命があって、いつか会うことが出来る、だよね?」
「そう、そう。うんめいってあったんだね。やっと、やっと会えた。」
「ごめん。忘れてて。大切な記憶なのに。なんでおぼえてなかったんだろう。でも、良かった。今日ここに来て。雨が降って。たまたま、夢を見て。偶然会えて、良かった。」
「ねぇ、手を繋いで帰ろうよ。」
「どこに?」
「私の家、ママもまだ君のこと覚えてるからさ。ね?行こ」

1/23/2025, 10:11:22 PM

まぶたの裏は赤くて暗い。でも、宇宙のように広がっている。

でも、その宇宙の中に君の姿は写らない。どんなに明るい光を受けても、闇の中で閉じてもその中にはいない。

いつのまにか、姿を探し、迷っていた。

いま、君はどこにいるのか、誰といるのかわからない。

ただ、瞼の裏で君のことをさがしている。

9/23/2024, 6:12:26 PM

「登ってみろよ!ノロマ!!」
「お前なんかにこっち来れるかよ!ははは!!」

ジャングルジム。それは力あるものが上へと進み、力の無いものは下の方にいるしかない。上に行けば行くほど落ちた時の危険は上がる。ただそれでも皆、上を目指す。だが、なかには他者の影響を使って上がる者もいる。ジャングルジムの上を眺める私は幼いながら社会とはこのようなものなのかもしれないと思っていた。
月日が流れ、自分はごく普通のありふれたサラリーマンとなった。会社も社会もジャングルジムと同じだ。しかし、違うところもある。それは全て実力であり、結果のみが答えにしかならないということだ。力なく登ったように見える人にも他者を味方につけるという別の力があり、登ったものが何らかの影響で落ちたのなら、その時見た高さが過去関係なく結果として見られる。未だヒラで結果を出せてない自分はジャングルジムの競走にも参加出来ていない。登るということは踏み台にされる危険性もあるということを孕んでいる。
仕事に、人間関係に疲れた私は夜の公園でジャングルジムに登った。さすがに子供がいる時間に大の大人が占有するのは気が引けた。上から見た景色は子供の頃よりもちっぽけに見え、ビルが建ったからか狭苦しく感じた。それでも心のどこかで何かから解放されるかのような安心感を感じた。今この瞬間子供だったのなら、ジャングルジムの頂上という抗いがたい魅力の虜になっていたことだろう。

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