マーマレード

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「久しぶり。元気だった?」
「、、、うん。」
「ふーん?ま、いいけど。」
「、、、」
「ね、久しぶりに弾いてよ、ピアノ。」
「、、、無理。」
「えー!!なんで!?めっちゃ上手だったじゃん!!」
「、無理。」
「そう言わずにさ!」
「、もう、、、な、、い」


「え、?」

「もう僕に!ピアノを弾く資格なんてないんだ!!」

「え、」

「僕は、お前みたいに、名家出身でも、金持ちの家の子でも、愛想を振りまくアイドルなんかでもない!でも!ピアノを、ただ、無心で引くのがただ、楽しかったっ、それだけが、存在を許されたような気さえした!なのに、なのに、!!」
「、」
「お前が、お前が、、、!」


















「、ねぇ。」
「資格って何?」



「え、」
「君がこだわる資格って、ピアノを弾く資格って何?」
「そ、それは」
「誰かに聴いてもらうこと?誰かに評価してもらうこと?それとも、私に聴いてもらって感想を言ってもらうこと?」
「、、、」
「君はさ、知っちゃったんだよね。誰かと、いるこの良さを。」
「、、そう、」
「多分だけど、君にとっての資格は元々、無心に引くことだった。でしょ?じゃなきゃ旧校舎の音楽室なんて人がいないとこでピアノを弾く人なんていない。でも、私がそこに来ちゃった、場を乱す騒音が。」
「、、自分で言うんだ。」
「ふふっ。でもそうでしょ?1年も続いた平穏に急にやってくる私という美少女。心が乱れちゃうのは仕方がないよね。」
「、、」
「でもさー。よく続いたよね、ピアノを弾く君と横でアイドルの踊りの練習やってる私。最初は受け入れてくれなかったけど、でも、だんだん曲聴いてくれたりファンサしてくれたりしたじゃん?あれ、嬉しかったんだよね。だって、私のファン第1号だったからさ。」
「あれは、なっちゃうよ。」
「私も、色々言われた。頭おかしいとか、叶うわけないとか、現実見ろとか。でも、君の音が、寂しそうだけど優しい音が救ってくれたんだ。それで、思い出したんだよ?なんでアイドルになろうとしたのかって、私、誰かを笑顔にしたかったんだって、元気にしたかったって。」
「でも、そんな日は永くはなかった。」
「私が売れだして、君はコンクールと受験でさらに忙しくなって、会う日がどんどん減って行った。夢を見せたかったのに、いつの間にか現実を見ないと行けなくなった。でも、嬉しかったよ。たまにLINEくれるの。」
「なんで、他にも沢山来るでしよ。かおいいし。」
「これが困っちゃうんだよねー。みんな下心丸出しでさ?対して話したことも無いくせに、私が売れだしたらかわいいねーとか、デートしようとか、付き合ってとか、そうゆうのばっかり。」
「モテモテじゃん。」
「でも、嬉しくないよ。」
「」
「結局私も、君と同じなんだよね。知らない誰かじゃなくて、知ってる誰かから賞賛を得たくなっちゃった。そして、それが目的になっちゃった。ステージの上でキラキラした服をきて、色んな人に作った笑顔を向けても、結局、古びた旧校舎の音楽室で、瓶のケースで作ったステージの上で2人だけのライブをしてた時が、いちばん良かった。」
「」
「ごめんごめん。私ばっかり話しちゃったね。今度は君の番。ほら。」

「僕は、弱くなった。弾いて得られる完成に価値をつけて、ミスの無い演奏を商売道具にした。いつの間にか、ロボットみたいな、録音した音を流すみたいなんの面白みもない機械になった。完成を貰えるのは、賞を貰えるのは嬉しかった。でも、僕はそこにはいなかった。、、君の2畳半のライブはいきいきしてた。輝いてた。僕の表現じゃ到達出来ない生の光を帯びたものだった。」
「」
「君はよく言ってくれただろ?上手かったって。でも、それだけ。他の人も同じ。それ以外の感想がない。言い換えれば感想をいうことが出来ない。技術があっても、空気を変えれても、感情をうめない。」
「」
「、、資格。僕にとっての資格は、心を動かすこと。レコーダーにならず、人がいる音、感動を生む、心を動かす音。でも、ないんだ。いったろ?僕は機械みたいだって。人の心は動かせないんだ。機械じゃ。」
「そんなことない。」
「え、」
「そんなことない!!」
「」
「自分を卑下しすぎ!もっと自分のことを見なよ!それに、私は機械みたいだなんて思ってない!君は、君が思うほど、機械になれてない。だって、悲しいことがあった日は音が沈んでるし、嬉しいことがあっときは、音が踊ってる。」
「君が、いたから。」
「え、?」
「君がいたから、僕は音に気持ちを乗せれたんだと思う。そうしたら、君が気づいて、話しかけてくれるから。ずるいよね。でも、それが本当。資格を無くしたのは君がいなくなったから。本当は、君に聞いて欲しかった。音で会話したかった。それが、本音。ごめん。キモいよね。」



「、、嬉しい。」


「、、なんで、、なんで、泣いてるの?」
「なんでかな、、わかんない。わかんないけど、嬉しいんだ。たぶん、やっと分かり合えた気がするから。あのさ初めて話した時のこと、アイドルになりたいって言った日のこと覚えてる?」
「たしか、転校当日、教室で色んな人に話しかけてたよね。」
「あはは、あの時はあまりいい反応がなかったんだ。みんな馬鹿げてるとか、冗談言ってるとか。」
「はは、そら、普通は信じないよね。」
「君だけなんだよ。ちゃんと聞いて、見て応援してくれたのは。真に受けてくれたのは。だから、ここで君がピアノを引いてるって知った時押しかけたんだ。この人ならそばで見てくれるって思って。」
「どうだった?」
「見てくれたじゃん、結局。」
「、みゃうよ。」
「ね、今日ってなんの日?」
「君と僕らの卒業式。」
「夕日、綺麗だよね。部屋にいい感じに差し込んで、ドラママチック。」
「そうだね。」
「こんな日は、決まってるよね。」
「、、僕から言った方がいい?」
「どうかなー?」
「いじわる。」
「ね、言ってよ。」

「これからは、2人で音を、2人の音を作りませんか?」
「音だけ?」
「えっと、2人で、ふたりの、世界を、作りませんか?」
「ふふっ、なにそれ。もうプロポーズじゃんか。」
「ダメ?かな。」
「こちらこそ、喜んで。」
「行こう、君と僕で」

4/11/2025, 2:14:01 PM