センチメンタル・ジャーニー
ある日突然不老不死になった。
別に望んでなったわけじゃない。
気づいたら自然にそうなっていた。
違和感に気づいたのは何も自分は変わらなかったのだ。
周りは歳を重ねていく。
それからだ、当てもなく根無し草になった。
暫くは街に居着く、そしてその街で暮らす。
しかし誰かと仲良くなっても違和感を持たれる前に去る。
そんな生活を続けて何年が経っただろう?
恐らく自分の親類は亡くなったのだと思う。
親しい人の連絡は断ち切った。
こんな姿の変わらない化け物なんて忘れてほしい。
自分がこの世に生を享けてから百年は経ったと思う。
相変わらず自分は青年の姿で時が止まってる。
もう自分のことを覚えてる人は故郷には居ないだろう。
大切だった家族や友人のことが懐かしくなった。
根無し草になってから何年経つか分からない。
だから自分が生まれ育った故郷に旅しに行こう。
知ってる店も家もきっともう無いだろう。
当たり前だ数十年は経つのだ。面影はきっともう無い。
それでも行こうと思ったのは皆を忘れたくなかったから。
あんなに忘れたくなかったはずなのに、顔や匂い声がどんどん記憶から薄れていく。
仕方ないけど、それはやっぱり寂しく悲しいのだ。
では行こう。思い出を探す旅へ
君と見上げる月…🌙
ピコン!
こんな夜更けに誰?私は勉強していた手を止めた。
時刻は日付を跨いだ頃、普通なら寝る時間だ。
不思議に思いながらも私はスマホ開いた。
恋人からのメッセージだ。
普段メッセージを小まめに寄越す人じゃない。
何かあったのか、不安に思いながらメッセージ確認する。
良かった。悪い知らせじゃなかった。
思わず胸を撫で下ろした。
『月が大きくて丸いよ起きてるなら見てみて!!』
窓を開けて月を見た。
なるほど、確かに今日は綺麗な満月だ。
『本当だ、今日は大きくて丸いね!
何だか得した気分になれたよ!
教えてくれてありがとう』
よし、送信。
窓辺から暫くぼんやりと月を見上げてみる。
本当に今日は月が大きくて丸い。
君もきっとこの月を見てるんだろうな。
君のことだからきっと綺麗だ!見せてやりたいって思っちゃったんだろうな。
君ならこうするのかなと想像すると思わず笑みが溢れる。
でも、少しだけワガママ言えるなのなら
私は君と一緒にこの月を見たかったな。
ピコン!
またメッセージ。
『俺もこの月をあゆむと一緒に見たかったな』
私と彼は遠距離恋愛、本音いつも彼には会いたい。
一緒にデートしたりしたいし、一緒にご飯を食べたい。
でも頻繁に言えばきっと重いから言えなかった。
彼には彼の夢の為頑張ってるのを私は知ってる。
私だって自分の夢のため勉強してるもの。
でも、今なら言っても大丈夫だよね?
『私もね、これからもずっと月を君と見てたいな』
少しだけ震える指で私は送信ボタンを押した。
空白
書けなかった君への恋文。
あんなに大切だった筈なのに。
恥ずかしさから好きと言葉にできなかった。
宛先が空白になるなら好きと言葉にしたら良かった…
台風が過ぎ去って
本日3月1日、〇〇高校の卒業式だ。
〇〇高校3年2組は問題児クラスだ。
いやもう台風のようなクラスだったと言っていいだろう。
そして俺はこの問題児クラスの担任をしていた。
高校生とは思えない程に奴らは幼稚だった
けれど虐めをする様な奴らではなかった。
根はいい奴らばかりだった。
思えばこの一年は本当に怒涛の日々だった。
奴らは勉強は得意じゃない、授業中は私語が多い。
俺は何度他の人教員に頭を下げたかも分からない。
でも、あの子達を見捨てようとは思わなかった。
今日からあの子たちは自分の人生を歩んで行くのだろう。
あの子達はまるで台風のような子たちだった。
この一年はあの子達といると家に帰り着く頃はもう疲れて
ヘロヘロだった。
確かに天災だった。でも辛いことだけでもなかったのだ。
台風の様な子たちだった。
あの子たちが去った学校は少しばかり静かになった。
もうあんな強烈なクラスを暫く持つことはないだろう。
教員歴6年目の俺はあの子達のおかげで、自分の未熟差を痛感させられたのだ。
「でもな、流石に台風の日に傘で飛べるかって聞かないよな?」
少しだけあの子たちを卒業させてよかったのか?
そう思いながら、俺は青く晴れ渡った空を見上げた。
ひとりきり
ひとりきりになると落ち着く。
誰にも邪魔されない時間は大切だ。
のんびりゆっくりしよう。
読書をしようかな?映画でも観ようか?
それとも大好きなおやつを食べながらお茶でもしようか?
今日はひとりきり、いつも頑張る自分を労る日にしよう。