2023/12/31
お題 良いお年を
いつも場所とお題のご提供そして彩り豊かな作品をどうもありがとうございます。私の作品を読んで下さってどうもありがとうございます。
皆様、良い年をお過ごし下さい。
来年また、作品にてお会い致しましょう。
宮沢 碧
『飛翔するもの』
宮沢 碧
「あぁ!また下向きだ!」
笑子が悔しそうにカメラの液晶パネルを見るので、怪訝そうに桜もそれを覗き込む。
「何が撮りたかったの?」
紅葉の進む山中の一角である。文化祭の写真展に出すのだと言って、空に向けて笑子は何度もカメラを向けていた。
「鳥がね、上向きに飛ぶのを撮りたいのよ。翼をバッと上に羽ばたかせるところ」
「そっかー、そういうピンポイントが撮りたかったんだね。さっきからずっとやってるもんね」
「そうなのよ。上昇していくってかっこいいじゃない!鳥らしくて、最高の瞬間よ。」
「わかるかも。自分の力で世界を切り開く瞬間みたいな?」
イヤカフをして寒さに頬を染めながら朝から大型の鳥を狙っていたのはそういうことかと、周りの木々の赤に負けないくらいの燃えたぎる熱意を感じてほわっと桜は笑って頷くと、ふと思いついて突然自分のカメラで笑子のことを撮る。
「何よ、いきなり」
「えー?私は今、撮れたよー」
「えっ、今?どれ見せてよ。後ろに今、鳥が飛んでたっていうの??!あー、惜しいことを」
慌てて自分の後ろを振り返ってから笑子は桜が自分に向けてくれた画面に目をうつす。
「ちょっとこれっ…!」
「上向きに世界を切り開く翼」
桜は笑子をちょんちょんちょんと指差して微笑みかける。
「大空を飛び立とうとしてて、自分の世界を創り出そうとしてて、上っていく姿で最高に美しい!」
そこには撮りたい写真を力説する笑子が写っていた。
2023/12/21
お題 大空
『ごめんください』
宮沢 碧
まるで絵に描いたようにビクッと背筋が揺れる。
「熱っ!」
持っていたカップがテーブルに跳ねて床にダイブし、見事にホットミルクを溢した。出窓の陽だまりにいた猫は棚の下に飛び込み、猫がいた窓辺は土が散らばって、割れた鉢からにょろりとのびたサルベリアの根っこと私の目が合う。
台拭きを取りに行くべきか、扉を開けるべきか。
もう1匹の白猫は興奮で部屋を走り回っている。爪がすごい勢いで床を奏でている。
私の心臓はバクバクだ。
ものすごい音で鳴り響いた玄関ベルは、家人を素っ頓狂にさせた。引っ越してから初めて鳴ったが、設定が爆音だったようだ。…驚いた。早く直そ。
この汚れた有り様で出るわけにもいかないというのに2度目のベルが鳴る。
2023/12/20
お題 ベルの音
『音で伝えて』
宮澤 碧
注意)ほんのりBL ただの友情のつもりがふんわり確かにそのように見えるので
ドンドンドンドンと何かを叩く音が断続的に聞こえる。
一体何度目だろうか。
俺はとうとうドアを開けた。
「何やってんだ、うるさいぞ」
弟と目が合う。
「ほら通じた」
「ほんとだー」
もう1人と目が合う。それは俺の友人だ。
「ね、なんて聞こえた?」
「なんて、そりゃ騒音だろ」
「もっと繊細にとらえてよ」
「何かを叩く音」
「弟君にね、何かを表現して叩いてみてって言われたんだ。君には伝わるからって」
「で、どんな意味を込めたの?」
「寂しいって」
「…騒音だ。騒音。騒がしいだけだった。寂しさなんて微塵も感じなかった」
「もっと情緒的な感想はないの?」
悪戯半分悲しみ半分の親友をよそに弟が身を乗り出す。
「でもすごいよね!ちゃんとこの音は兄貴を呼び寄せたんだから」
「なるほどね!さすが僕たち。小さい時からの阿吽の呼吸は伊達じゃない」
「兄貴じゃなくてもいずれ近所の誰かがうるさい!って来てそうだったよね。だからこの音はちゃんと誰かを呼び寄せて1人を2人にする寂しさを解く魔法がかかってたんだ」
こいつの『さびしいよ』が、ちゃんと俺を引き寄せた。音として騒音だから来てみたけれど、不思議なものだ。
「でも、表現って難しいね。僕の寂しいは、ちゃんと言語として捉えてもらえるほどには音に気持ちがのらないんだから。僕はドラマーを尊敬するなぁ。物を正確に伝えるのは難しいよ」
「そりゃ、プロだもん。ね、じゃぁ、練習とかしてみちゃう?また兄貴を引き寄せたりして」
「また来てくれるかな。でも別の人にも伝えてみようか」
俺はどこかモヤモヤして、至極真っ当なことを言うしかないような気がした。
「うるさいからやめとけ」
2023/12/19
お題 寂しさ
『朧は今日も生きる』
宮沢 碧
ゆったりとした椅子。真っ暗で星だけが見える空間。数多の星に囲まれて、僕は君と隣に座っている。どこからかいい匂いがして、これがふぅん、これが宇宙の香りなんだ、と思った。天も地も右も左も全てが暗闇と星に埋め尽くされて、自分も暗闇の中に溶ける。
星々が時にぶつかり、時に爆発をし、誕生と死を繰り返す様を黙って見続ける。これほどまでに星があったのかと星の川を眺める。ふと隣を見れば彼女も僕をチラッと見てくれる。世界はまるで僕と彼女だけの気分になる。
星々の光は何億光年離れたたところにも届き、何千年先に届く。残念ながら今のこの瞬間の瞬きは、僕らには到底見ることは出来ない。
僕たちには何千年に渡るものを届ける力はない。少なくとも僕は何百年と残せるものを何一つ持っていない。今日この瞬間を僕の生命の記憶としてせいぜい百年保たせられるかどうか位の力で、紙に書き残したとしても何千年とは行かないだろう。その上、星ほどに長生きでもない。
星々からしてみたら僕らは一瞬にも満たない存在で、むしろ小さくて、人間は個ではなく全人類合わせてやっと存在証明出来る位の微々たる一瞬の連なりのようなもので、チカチカと小刻みにフラッシュする一つの光のようなものなのかもしれない。いや、それでも存在証明できないような朧?
それでも朧は今日も生きながら、彼女を好きだと思うのだ。一瞬だというのに明日もあると疑わず、生きるのだ。
僕らの生は星からしたら瞬きで、常に世界の終わりなのかもしれない。僕らは死に向かい生きていて、いつも世界の終わりに生きている。春、夏、秋、冬、巡る僕らと星。それもほんの1秒の出来事だとしたら。
「本日のプログラムはこれで終了です。どなた様もお気をつけてお帰り下さい。ありがとうございました。」
ただのプラネタリウムのはずなのに僕は壮大な旅をした。世界の終わりに君と。僕はそっと手を握った。ありきたりの彼氏の振る舞いの一つだとしても。僕は今、それがしたかったから。
2023/06/08
お題 世界の終わりに君と
最近、宇宙の匂いを再現したという香りを嗅が機会がありました。ふぅん、これが宇宙の匂いなんだ。と思いました。フルーティー。
昨日、一昨日お題は「最悪」「世界の終わりに君と」。
今日のお題ももう更新されちゃうらしい。あぁ、これはもう昨日のだよ!