『朧は今日も生きる』
宮沢 碧
ゆったりとした椅子。真っ暗で星だけが見える空間。数多の星に囲まれて、僕は君と隣に座っている。どこからかいい匂いがして、これがふぅん、これが宇宙の香りなんだ、と思った。天も地も右も左も全てが暗闇と星に埋め尽くされて、自分も暗闇の中に溶ける。
星々が時にぶつかり、時に爆発をし、誕生と死を繰り返す様を黙って見続ける。これほどまでに星があったのかと星の川を眺める。ふと隣を見れば彼女も僕をチラッと見てくれる。世界はまるで僕と彼女だけの気分になる。
星々の光は何億光年離れたたところにも届き、何千年先に届く。残念ながら今のこの瞬間の瞬きは、僕らには到底見ることは出来ない。
僕たちには何千年に渡るものを届ける力はない。少なくとも僕は何百年と残せるものを何一つ持っていない。今日この瞬間を僕の生命の記憶としてせいぜい百年保たせられるかどうか位の力で、紙に書き残したとしても何千年とは行かないだろう。その上、星ほどに長生きでもない。
星々からしてみたら僕らは一瞬にも満たない存在で、むしろ小さくて、人間は個ではなく全人類合わせてやっと存在証明出来る位の微々たる一瞬の連なりのようなもので、チカチカと小刻みにフラッシュする一つの光のようなものなのかもしれない。いや、それでも存在証明できないような朧?
それでも朧は今日も生きながら、彼女を好きだと思うのだ。一瞬だというのに明日もあると疑わず、生きるのだ。
僕らの生は星からしたら瞬きで、常に世界の終わりなのかもしれない。僕らは死に向かい生きていて、いつも世界の終わりに生きている。春、夏、秋、冬、巡る僕らと星。それもほんの1秒の出来事だとしたら。
「本日のプログラムはこれで終了です。どなた様もお気をつけてお帰り下さい。ありがとうございました。」
ただのプラネタリウムのはずなのに僕は壮大な旅をした。世界の終わりに君と。僕はそっと手を握った。ありきたりの彼氏の振る舞いの一つだとしても。僕は今、それがしたかったから。
2023/06/08
お題 世界の終わりに君と
最近、宇宙の匂いを再現したという香りを嗅が機会がありました。ふぅん、これが宇宙の匂いなんだ。と思いました。フルーティー。
昨日、一昨日お題は「最悪」「世界の終わりに君と」。
今日のお題ももう更新されちゃうらしい。あぁ、これはもう昨日のだよ!
6/8/2023, 10:16:12 AM