『飛翔するもの』
宮沢 碧
「あぁ!また下向きだ!」
笑子が悔しそうにカメラの液晶パネルを見るので、怪訝そうに桜もそれを覗き込む。
「何が撮りたかったの?」
紅葉の進む山中の一角である。文化祭の写真展に出すのだと言って、空に向けて笑子は何度もカメラを向けていた。
「鳥がね、上向きに飛ぶのを撮りたいのよ。翼をバッと上に羽ばたかせるところ」
「そっかー、そういうピンポイントが撮りたかったんだね。さっきからずっとやってるもんね」
「そうなのよ。上昇していくってかっこいいじゃない!鳥らしくて、最高の瞬間よ。」
「わかるかも。自分の力で世界を切り開く瞬間みたいな?」
イヤカフをして寒さに頬を染めながら朝から大型の鳥を狙っていたのはそういうことかと、周りの木々の赤に負けないくらいの燃えたぎる熱意を感じてほわっと桜は笑って頷くと、ふと思いついて突然自分のカメラで笑子のことを撮る。
「何よ、いきなり」
「えー?私は今、撮れたよー」
「えっ、今?どれ見せてよ。後ろに今、鳥が飛んでたっていうの??!あー、惜しいことを」
慌てて自分の後ろを振り返ってから笑子は桜が自分に向けてくれた画面に目をうつす。
「ちょっとこれっ…!」
「上向きに世界を切り開く翼」
桜は笑子をちょんちょんちょんと指差して微笑みかける。
「大空を飛び立とうとしてて、自分の世界を創り出そうとしてて、上っていく姿で最高に美しい!」
そこには撮りたい写真を力説する笑子が写っていた。
2023/12/21
お題 大空
12/22/2023, 10:07:22 AM