宮沢 碧

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『音で伝えて』

宮澤 碧


注意)ほんのりBL ただの友情のつもりがふんわり確かにそのように見えるので



ドンドンドンドンと何かを叩く音が断続的に聞こえる。
一体何度目だろうか。

俺はとうとうドアを開けた。

「何やってんだ、うるさいぞ」

弟と目が合う。

「ほら通じた」
「ほんとだー」

もう1人と目が合う。それは俺の友人だ。

「ね、なんて聞こえた?」
「なんて、そりゃ騒音だろ」
「もっと繊細にとらえてよ」
「何かを叩く音」
「弟君にね、何かを表現して叩いてみてって言われたんだ。君には伝わるからって」
「で、どんな意味を込めたの?」
「寂しいって」
「…騒音だ。騒音。騒がしいだけだった。寂しさなんて微塵も感じなかった」
「もっと情緒的な感想はないの?」

悪戯半分悲しみ半分の親友をよそに弟が身を乗り出す。

「でもすごいよね!ちゃんとこの音は兄貴を呼び寄せたんだから」
「なるほどね!さすが僕たち。小さい時からの阿吽の呼吸は伊達じゃない」
「兄貴じゃなくてもいずれ近所の誰かがうるさい!って来てそうだったよね。だからこの音はちゃんと誰かを呼び寄せて1人を2人にする寂しさを解く魔法がかかってたんだ」


こいつの『さびしいよ』が、ちゃんと俺を引き寄せた。音として騒音だから来てみたけれど、不思議なものだ。

「でも、表現って難しいね。僕の寂しいは、ちゃんと言語として捉えてもらえるほどには音に気持ちがのらないんだから。僕はドラマーを尊敬するなぁ。物を正確に伝えるのは難しいよ」

「そりゃ、プロだもん。ね、じゃぁ、練習とかしてみちゃう?また兄貴を引き寄せたりして」
「また来てくれるかな。でも別の人にも伝えてみようか」


俺はどこかモヤモヤして、至極真っ当なことを言うしかないような気がした。

「うるさいからやめとけ」



2023/12/19
お題 寂しさ





12/19/2023, 2:42:22 PM