私は、私の心の中で渦巻く、言葉にできないドス黒い感情の正体を探しつづけている。
重いおもりがついているような、爪でギイっと引っかかれているような、そんな感覚。
焦りでもあり、嫉妬でもあり、諦めでもある、不思議な感情。
こんな気持ちになるのは、初めてだ。
いままで、それなりになんでもできたから、のらりくらりと人生を生きてきた。
だけれど、今周りを見渡すと、成長した人だらけだ。
私は現状維持しかできていないが、私がつまづいている瞬間にも、周りは成長している。
何かに一生懸命になれる、強い心を、皆持っている。
私だけが、取り残されている。
何も感じることができない。
何も、思わない。
私は、欠陥した凡人にすぎなかったのだ。
この気持ちは、なんなのだろう。
誰か、名前をつけてくれ。
私は、誰よりもずっと、未知に憧れている。
誰も見たことのない海の底や、誰も知らない宇宙の果て、大昔にいた古代生物に、古代文明の謎。
そこに何があるのか、どんな世界が広がっているのか。
自分の手で解き明かして、自分の目で見て確かめたい。
そんな憧れが、止まらなかった。
止まらない憧れを現実にしたいけれど、未知を解き明かすなんて、やっぱり夢物語のようで、嘘っぽい。
だから私は、夢の中にいるようにだらだらと、平凡な生活を送るのみ。
そんな私だが、今年、人生のターニングポイントに立ってしまった。
現実をみる生徒だらけのこの教室で、私だけが、子供のように、まだ夢を見ていた。
でも私に普通なんて無理だった。未知への憧れを捨てきれなかった。
私は、知りたかった。
それだけでなく、同じような志を持つ仲間と共に、未知を解き明かしてみたい。
だから私は、自分の夢へ進むことにした。
数年後の自分の姿なんて、わからないし、知る理由もない。
未知への憧れは、まだ始まったばかりなのだから。
私の家のベランダからは、大きな山が見える。
春になると、山の頂上だけに桜が咲くので、山のてっぺんだけ桃色に染まる。
夏になると、青々とした葉が沢山茂り、遠くからみるとまるで、ふわふわとしたまりものようにみえる。
秋になると、真っ赤になった紅葉や、茶色くなった木、綺麗な黄色の銀杏など、暖色の山になる。
冬になると、枝が丸見えになった木や、深緑色の葉が目立ち、寒色の山になる。
四季が移り変わるたび、山はさまざまな性格に染まる。
夕方、学校から帰った私は、ふと山を見て驚いた。
春だというのに、山は真っ赤に染まっていたのだ。
よく見てみると、後ろにはまん丸の大きな太陽が、存在を激しく主張するように、神々しく光を放っていた。
太陽に照らされているのは、山だけではなかった。
空も、街も、道も、さらには私も、いつのまにか真っ赤に染まっていた。
私は、全てを自分色に染めている太陽が、何故か少し自慢げに笑っているように見えた。
誇り高く、自信満々に光を放ち、周りすら変えてしまう。
そんな人間が、私は羨ましかった。
どこに行っても、カリスマ性溢れる天才はいるものだ。
そんな天才と自分を比べてしまう私だが、さすがに太陽と自分を比べることはできない。
だからだろうか。
太陽の光に当たっていると、心穏やかになる。
私は初めて、嫉妬ではなく憧れを抱いた。
私は、人の目を見ると、なんとなくその人の気持ちが分かる。
[目は口ほどに物を言う]とは、本当のことなのだ。
だけど何故だろうか。
鏡に映る私の目を見ても、何もわからない。
周りに圧倒されて、自分が小さく見える。
自分はどうすればいいのかわからない。
未来への道に迷う私は暗い気持ちで、誰もいない夜道を歩いていた。
ふと、空を見上げた。
爛々と輝くまん丸な月が、夜空と私を照らしている。
‥私に似ていた。
誰かに照らして貰わないと、輝けない人間。
私と月は似た者同士だ。
そうして月を眺めているうちに、月は雲に覆われ、光は消えた。
残ったのは、周りで小さく光る星々だけだった。
月より小さくとも、彼らの、自分で光るその姿は美しかった。
音ひとつしない夜だが、細々と、しかし自分で光を放つ星々は、私から遠く離れた誰も知らない宇宙の果てで生きている。
光ある限り、その身を燃やして。
自分の力で輝き、誇り高く生きる彼らは、まるで太陽のようだ。
彼らは、私より何倍も美しい。