SHADOW

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5/26/2024, 11:26:27 AM

月に願いを

 銀歌と共に海辺を歩く。
波が俺と銀歌の足元に、寄っては引いてく。
裸足で歩くから、波の冷たさが丁度いい。
長い長い浜辺を共に歩く。
今日は満月だ。
銀歌の表情は月明かりに照らされて、より美しさを際立たせていた。
俺はその美しさに見惚れていた。
銀歌は俺の視線に気がついたのか、俺にふわりと笑いかけた。
俺は恥ずかしくなり、外方を向いた。
そんな俺が面白いのか、銀歌は俺の頭を撫でた。
「何だよ…。」
『可愛いから。』
「かわいくねーし…。」
そんな会話が続く。
暫く沈黙が続くと、銀歌は俺の目を見て言う。
『ねぇ…傑さん。《“月に願いを”すると叶う》
だから二人でお願いしよ?』
銀歌は手を合わせ、願い事をする。
俺も続けて願い事をする。
《永く…出来るだけ永く一緒にいられますように》
俺は願い事を終えると、銀歌の方を向く。
銀歌はまだ願っているみたいだ。
その横顔が美しかった。
銀歌は願い事を終えると、ゆっくり目を開けた。
その瞳には、波の煌めきが映っていた。
銀歌は何を願っていたのかは、分からない。
俺はずっと銀歌の隣に傍に居られるのならば、この身がどうなっても構わない。
だから、銀歌の“病気”が治りますように…。

5/25/2024, 11:40:57 AM

降り止まない雨

 今日も何時もの様に店内を掃除してから、closeからopenへ看板を変える。カウンターに入り、グラスを磨きながらお客様を待つ。
 「…本日は雨が降ってますね。こういう雨の日って、気分が下がりますね…。」
私は愚痴を溢しながら、自身の髪を弄る。
「雨の日は私の髪も膨らみます…萎えますね…。」
私は溜息を吐きつつ、カクテルを確認していた。
《カランカラン…》
乾いた鈴の音が店内に響いた。
入り口を見ると、お客様が立っていた。
「いらっしゃいませ…。“狐火銀歌”様。」
狐火様は困惑していたが、カウンター席に座った。
「外は冷えたでしょう。これどうぞ。」
ホットチョコレートをお客様の前に差し出す。
狐火様は一口飲み、私の方を見て言う。
『あの…此処は何処なんですか…?私は__したはずなんですが…』
「此処は特別なBARなんです。
“現世”でもなく、“常世”でもないです。
“狭間”…とでも思ってください。」
私が簡単に説明すると、狐火様は何故か悲しそうだった。
『“僕”は…死んでいないんですか…。もう生きるのが辛くて…死のうとしたのに…。』
狐火様は涙を流していた。私は狐火様の頭を撫でた。
狐火様は声が枯れるまで泣いていた。

 「落ち着きましたか。嗚呼冷めてしまいましたね。
入れ直しますね。」
『すみません…。こんな人のために…。』
私は入れ直した、ホットチョコレートを出した。
「狐火様に何があったかは分かりませんが、もう死にたいんですか?」
狐火様はコクンと頷いた。
「もし現世に戻りたくなければ、此処にいても良いですよ。“降り止まない雨”はない。そうですよね。
降り止まなくても、誰かが手を差し伸べれば良いのですよ。」
私は狐火様に手を差し伸べた。
狐火様は躊躇ったが、手を重ねた。

ピッピッピッピ…ピーー…………。
病室に静かに響いた電子音。
狐火銀歌は二度と常世に帰っては来れない。
永遠と“狭間”で生きる。

5/24/2024, 12:21:14 PM

あの頃の私へ

 時々同じ夢を見る。
その夢は、何もない世界で幼い私が泣いている。
私が手を伸ばして、幼い私に触れようとしても、私が触れる前に消えていく。
消えたところには、幼い私が持っていたペンダントが落ちている。
それを拾うと夢から覚める。

今日も同じ夢を見た。
やっぱり幼い私が泣いている。
私は手を伸ばそうとした。
だけど、やっぱりやめた。
どうせ伸ばしても、夢から覚めてしまう。
そう思っていると、幼い私が近づいてきて言う。
『タスケテ…モウ…イヤダ…。』
私はそっと抱きしめた。
「じゃぁ…落ち着くまで一緒にいよう。」

二人で長い長い夢から覚めずにいた。

5/23/2024, 11:43:36 AM

逃れられない

 「ハァ…ハァ…ハァ…」
どれだけ走り続けたのだろうか。
足に感覚がないほど、長い長い距離を走った。
そんな気がする。
「逃げないと…逃げないと…“アイツ”が来る…!」
僕は重い足を、引きずりながら走った。
“アイツ”から逃げないと…。

 「フッ…この俺から逃げ切れると思うか?」
俺は画面越しの、絶望した彼奴の顔を見て楽しむ。
何度脱走しても同じことだ。連れ戻すだけ。
嗚呼…早く絶望した彼奴の顔が見たい…。
「お前は…俺から“逃れられない”からな。」
俺は赤い、とても赤いワインを飲んだ。

5/22/2024, 10:40:48 AM

また明日

 「じゃぁね〜。“また明日”!』
「うん。“また明日”」
友人と別れた後、毎回一人になると考えてしまう。

《明日なんて来るんだろうか》

もし明日が来てしまえば、どんな未来が待っているか分からないから。
もしかしたら、最悪な結果になったり、裏切られたり…そんな事を考えてしまう。
そんな自分が嫌いだ。
友人を信じてあげられてない。

明日が来なければ良いのに…。

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