SHADOW

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降り止まない雨

 今日も何時もの様に店内を掃除してから、closeからopenへ看板を変える。カウンターに入り、グラスを磨きながらお客様を待つ。
 「…本日は雨が降ってますね。こういう雨の日って、気分が下がりますね…。」
私は愚痴を溢しながら、自身の髪を弄る。
「雨の日は私の髪も膨らみます…萎えますね…。」
私は溜息を吐きつつ、カクテルを確認していた。
《カランカラン…》
乾いた鈴の音が店内に響いた。
入り口を見ると、お客様が立っていた。
「いらっしゃいませ…。“狐火銀歌”様。」
狐火様は困惑していたが、カウンター席に座った。
「外は冷えたでしょう。これどうぞ。」
ホットチョコレートをお客様の前に差し出す。
狐火様は一口飲み、私の方を見て言う。
『あの…此処は何処なんですか…?私は__したはずなんですが…』
「此処は特別なBARなんです。
“現世”でもなく、“常世”でもないです。
“狭間”…とでも思ってください。」
私が簡単に説明すると、狐火様は何故か悲しそうだった。
『“僕”は…死んでいないんですか…。もう生きるのが辛くて…死のうとしたのに…。』
狐火様は涙を流していた。私は狐火様の頭を撫でた。
狐火様は声が枯れるまで泣いていた。

 「落ち着きましたか。嗚呼冷めてしまいましたね。
入れ直しますね。」
『すみません…。こんな人のために…。』
私は入れ直した、ホットチョコレートを出した。
「狐火様に何があったかは分かりませんが、もう死にたいんですか?」
狐火様はコクンと頷いた。
「もし現世に戻りたくなければ、此処にいても良いですよ。“降り止まない雨”はない。そうですよね。
降り止まなくても、誰かが手を差し伸べれば良いのですよ。」
私は狐火様に手を差し伸べた。
狐火様は躊躇ったが、手を重ねた。

ピッピッピッピ…ピーー…………。
病室に静かに響いた電子音。
狐火銀歌は二度と常世に帰っては来れない。
永遠と“狭間”で生きる。

5/25/2024, 11:40:57 AM