銀の人

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5/9/2024, 11:05:59 AM

忘れられない、いつまでも。

 

 嗚呼…なんて人間は醜い生き物なのだろうか。


 私がいくら彼に恋焦がれようが、私はあの人には伝えたくない。伝えてしまえば、彼は優しいから断らないだろう。人の命は桜の花みたいに短命だ。
人は美しく生き、美しく死んでゆく。
九尾の私は人の命の何百倍も長い。
今まで恋なんてしてこなかった。そもそも人と関わりもしなかった。だから、人はいつの間にか私のことを恐れる様になっていった。

それでよかったのに…彼は私に歩み寄ろうとした。
何日も何年も…。
人は歳をとり、見た目も変わってゆく。
それに比べて私は永遠に変わらない。
私が一年と感じた時間は、人にとっては十年の時間
だんだんと彼も見た目が変わってゆき、気づいた時は老人になっていた。

 そして彼は私の横で永遠の眠りについた。

妖怪は難儀な生き物だ。
こんな永い命なんてなくなればいいのに。
人に憧れた九尾は人にはなれない。

“忘れられない、いつまでも。”私は彼を待つ。

5/8/2024, 12:08:02 PM

一年後

 『どーも!こんにちは!僕だよ!僕!え?僕が誰だかわかんない?ひどいなぁ…。泣いちゃうよ?まぁいいか。これを見ているみたいだからね!』
今映ってる人は一年前に死んだ義理の父親だ。

 元父親は幼い俺とお袋を置いて…
浮気女と一緒に蒸発した。
お袋は幼かった俺を養うために朝から晩まで働いた。
そして今の彼奴は、そんなお袋に惹かれて結婚した。
その時の俺は反抗期真っ只中だ。お袋が彼奴の事を紹介しても俺は無視を決め込んだ。そんな俺を彼奴は笑顔で俺に「よろしくね」なんて言った。
俺は気に食わなかった。お袋を最初から狙っていたみたいなタイミングで結婚なんてしたから。俺なんて愛されないって思った。俺は彼奴が嫌いだ。

 彼奴は俺と仲良くしたいのか、マシンガントークをしてきたが、俺は無視を決め込んだ。
それでも諦めない彼奴がうざかった。俺がどんなに悪口を言っても、無視をしても彼奴はずっと笑顔だ。
なんとなく俺はその笑顔に恐怖を感じていた。
彼奴はお袋と一緒にいる時が一番楽しそうだった。
俺は必要とされていないような気がした。
その日食べた彼奴の料理は味なんてしなかった。

 ある日のことだ。俺はお袋と喧嘩をした。
きっかけは些細なことだったが、徐々にヒートアップしていった。俺はつい言ってはいけない事を言った。
「彼奴と再婚なんてしなきゃ良かったのに!」
その場がシン…となった。俺はその場に居たくないと思って外に駆け出した。背後からお袋が俺の事を呼んでいる事に気づかないふりをした。

 俺はいつの間にか道路まで出ていた事に気づいて、戻ろうとしたが向かってくるトラックに気づかなかった。轢かれる寸前俺を何者かが突き飛ばした。
俺は突き飛ばされて地面に転がった。痛みに耐えながら先ほどの方を向くと、そこには血だらけの彼奴がいた。そこからはあまり覚えていないが、彼奴は即死だったらしい。お袋は泣き叫んでいたが、俺は涙なんて出なかった。

 葬式が済んだ数日後、俺は彼奴の遺品整理をした。
お袋は彼奴が死んだ後俺の事を恨んだりはしなかった。しょうがないみたいな表情をしていた。俺がお袋を呼ぶと、お袋はいつもの笑顔で俺の方を向く。
なんとなく申し訳ないと思ってしまう。

 ある程度遺品整理が終わると、一つの白い何も書いていないDVDを見つけた。
俺は気になり、DVDをつけてみた。そこには彼奴の姿が映っていた。彼奴がいた場所は病室…?
俺が不思議そうに眺めていると、画面の中の彼奴が話し始めた。
『どーも!こんにちは!僕だよ!僕!え?僕が誰だかわかんない?ひどいなぁ…。泣いちゃうよ?まぁいいか。これを見ているみたいだからね!』いつもの彼奴もテンションだ。彼奴はドッキリでも仕込んで知るのか?と思った。
『__?なんで僕がこんな場所にいるかわかんないよね。実はね僕はあまり長くないんだって…__はもうこの意味が分かるよね?』
俺は焦った。彼奴に限ってそんなことはないと思っていたからだ。予想外な言葉に俺が息を呑んでいると彼奴は続けて話す。
『本当はね…__や彼女ともっと一緒にいたかった。
だけどね…話すとより__は毛嫌いしそうだなって思って彼女にしか話さなかった。本当にごめんね…。いつかね…__達と旅行とか、買い物とかしたかった。
でも僕が彼女を救えるって思ったタイミングが、__の反抗期と重なってしまったから、より__の心を傷つけてしまったね…。ごめんね…。あっと!まだ話したい事沢山あるけど、カメラが限界に近いから簡単に話すね。』
俺はいつの間にか涙を堪えるのが限界だった。
『僕は先に逝ってしまう。また寂しい思いをさせちゃうけど、僕はいつまでも彼女や__の事を愛してるからずっと傍にいるからね。』
画面の中の彼奴は涙をこぼしながら言っていた。
もうカメラの限界が近づいていた。動画が終わる前に彼奴の最後の声が聞こえた。
『もっと生きたかった…』
それで動画は終わった。
俺はなんてひどい事をしたんろうか。“父さん”って最後くらい呼べば良かったのに…。
俺は父さんの部屋の中で、涙が枯れるくらい泣いた。
「本当に父さんごめんね…」
俺の声だけが何もない空間に響き渡った。

5/7/2024, 10:52:47 AM

初恋の日

 私は好きな人ができた。
だけど私の好きな人は、私の事なんて見ていない。
あと…あの人は私の事なんて知らない。
関係性もないし、私は目立つような人ではない。
なのになんで好きになったんだろう。
一目惚れ?かな。私が入学した時に迷子になったのを助けてくれたからかな。でもさ…あの人はモテる。いつも困っているけど、やっぱり嬉しいのかな…。
この想いに蓋をしてしまおう。伝えてしまえば、噂が流れるかもしれないし、あの人も困ってしまうかも。
あの人とすれ違う時も目立たないようにしている。
本当になんで恋なんか…。
初恋の日が忘れられたら、どれだけ良かったのだろうか。

 俺は恋なんてしたことがなかった。
いろんな女が言い寄って来ているけど、俺は興味がなかった。俺に言い寄ってくる女は金・顔だけで、俺の中身を見てくれる人なんていなかった。
だけど、入学式の時迷子になっていた女の子を助けた。その女の子は、小柄で色白、長髪に整った顔。でもその泣き顔がとっても印象的だった。
俺は初めて恋をした。
俺は卒業前には告白したいな…なんて思った。
この初恋の日を俺は忘れないだろうな。

5/6/2024, 11:47:13 AM

明日世界が終わるのなら

 戦争中に貴方に向けて零した言葉は届きもしない。
だって貴方はこの国の総統。私は貴方の僕。
“好き“だって言葉すら言えない。もし明日世界がおわるのなら、私はこの戦争を放棄して貴方の元に走って、言えなかった言葉を伝えるかもね。
今私達の方は優勢だけど何時逆転するか分からない。
だからこんな事を考えてる暇はないはずなのに、考えてしまう自分がいる。多分死にたくないんだろうね。
リングホルダーネックレスを取り出す。
(貴方が総統になる数年前にくれたよね…。
もう貴方は覚えてないだろうけど…。
私は貴方が言ってくれた事は今でも覚えてる。)
そんな事を考えながら敵国の奴らを一掃する。
一通り一掃し終えて気を抜いていたら、背後から来た裏切り者に刺されてしまった。
消えゆく意志の中で私は後悔した。
(嗚呼…。まだ伝えたいことが残っているのに…。)そこで私の意思は途切れた。

 俺は少し焦っていたが相手の国が降参を選んだ。
俺は優越感に浸っていると、いきなり扉が開いた。
何事かと思い振り返るとそこには、信頼している自身の右腕が肩で息をするほど疲れ切っていた。
どうしたのかと思い近づくと、右腕が衝撃的な事を言った。
「総統!“最終兵器”が裏切り者にやられて、今救護班が治療しているもようです!」
俺は言葉を失った。急いで俺は走った。
右腕が俺を制する声も聞かずに。
どうして…どうして…最終兵器が…“彼奴”なんだ…!

 救護室に辿り着いた。
心配していると医療長が俺の元にやってきた。
「総統様…。誠に申しづらいのですが…。“最終兵器”は…助かりません。」
俺は膝から崩れ落ちた。この国で一番強い奴を失った悲しみより、“最愛の人”を失った悲しみが一番強かった。初めて俺は皆の前で泣いた。声を出して泣いた。
何故彼奴なんだ。死の運命は自分じゃないのか。俺は彼奴の顔を撫でた。もう目を開ける事ない顔を何度も撫でた。互いに愛し合ったはずなのに。そもそも俺は彼奴を遠ざけていたのかもな。『総統』と『僕』と言う枠に。彼奴は俺の元に居たかったはずなのに、俺が突き放していた。最後に話したのはいつだろうか。そもそもまともな会話をしていたのかと考えてしまう。
「すまない…。__の事を“最終兵器”と呼んでしまっていた事も、__の事を愛していたのに、突き放していたことも…。」俺はこれ以上言葉が出なかった。
いや、言葉が分からなかった。
俺は__が何かをしっかり握っているのを見つけた。
そっと取ってみると、俺が総統になる前にプレゼントした、リングホルダーネックレスだった。
俺は涙が枯れるまで泣いた。
もう明日世界が終わっても良いから…。
__を返してくれ…。

5/5/2024, 11:25:58 AM

君と出逢って

時は戦争時代
この国は負け知らずの国で、毎日が充実した暮らしを
遅れているが、とある男の子はいつも死んだ魚の目をしていた。
その男が運命的な出逢いをした物語である。



 僕の世界はいつも色がない世界だ。
面白味のないつまらない人生。よく『自分の人生の主人公は自分自身だ!』なんて言う人もいるけれど、僕なんかは“脇役”としか言いようがない。
いつもも自分なんか必要がないって思ってしまう。
そんな自分が嫌いだ。

 今日もいつもものように学校に向かう。
友達なんていない。寧ろ僕と関わりたい奴なんていないだろう。朝のHRが始まって、いつも通りの日常が始まろうとしていた。
だけど今日は違った。転校生が来るらしい。噂によるとかなり変わった人らしい。(まぁ…僕には関係ないけど…)そう思いながら転校生を見た。
その転校生は、高身長金髪で少し長い髪を結んだ、格好良い感じの男子だった。僕はより興味を失った。
(ああいう感じの男子は女子にチヤホヤされるんだろうな…)と思い机に突っ伏して寝ようとしていたら、教師が言った。「席は…__の隣で良いだろ。__、寝ていないで学校案内してやれ。」その言葉を聞いて僕は「はぁ⁉︎」と間抜けな声が出た。こういうのは女子に任せれば良いのに、なんて思いながら傑を案内した。

 案内しながら思ったのだが、こんな陰キャだからか共通の話題がない。だからこういうのは、女子や陽キャに任せれば良いのにと思ってしまう自分がいる。
一通りの案内が終わると、僕は早速教室に戻ろうとしたが、呼び止められた。(嫌だなぁ)と思いながら、彼奴の方を向いて要件を聴くことにした。
「何?他に聞いておきたいことでもあるん?」
『いや、ちょっとな。』
「何本当に…。」
『俺と一緒にこの国を変えようではないか』
「はぁ?」(本日二度目)
暫く僕は思考停止していたみたいだ。
それもそうだ。急に変なことを言い出すから。暫く考えてから僕は聞いた。
「どしたん?どっかに頭ぶつけた?保健室なら案内したでしょ?」そう僕が言うと傑は笑っていた。僕は何が可笑しいかわからなかった。
『いやぁwそう言うとはwやっぱり俺が見定めた通りの人材だwお前にしか出来ない。分かってくれるか?』
僕は本当に何を言っているのかわからなかったが、此奴と一緒にいられるのならば、面白いことが起きそうだと感じた。そして此奴の案に乗ることにした。
僕の了承を得ると嬉しそうだった。




ー数十年後ー
 本当に国に革命を入れた奴がいた。
其奴は沢山の仲間を引き連れて革命を起こした。
そして革命前よりも負け知らずになり、街も数十年前より住みやすいものになった。
え?
あの死んだ魚の目をした奴は何処にいるのかって?
勿論ちゃんと居るさ。
今は仲間も増えたし、あんなネガティブな考えもしなくなった。寧ろ笑顔が増えた。
やっぱり言えることは、人間は運命的な出逢いをすることで変われる。
いつかはな?
その運命が遅いかは早いか人それぞれ。
その運命の変化が大きいか小さいかでも、人間の変化も大きく変わる。そんなところが、人間の面白味ではないか?
おや?噂をしてると例の彼奴が呼んでいる。
そろそろ行ってくるな。
気が向けばまた話をしてやる。
君も暇になれば来てもいいぞ。

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