一年後
『どーも!こんにちは!僕だよ!僕!え?僕が誰だかわかんない?ひどいなぁ…。泣いちゃうよ?まぁいいか。これを見ているみたいだからね!』
今映ってる人は一年前に死んだ義理の父親だ。
元父親は幼い俺とお袋を置いて…
浮気女と一緒に蒸発した。
お袋は幼かった俺を養うために朝から晩まで働いた。
そして今の彼奴は、そんなお袋に惹かれて結婚した。
その時の俺は反抗期真っ只中だ。お袋が彼奴の事を紹介しても俺は無視を決め込んだ。そんな俺を彼奴は笑顔で俺に「よろしくね」なんて言った。
俺は気に食わなかった。お袋を最初から狙っていたみたいなタイミングで結婚なんてしたから。俺なんて愛されないって思った。俺は彼奴が嫌いだ。
彼奴は俺と仲良くしたいのか、マシンガントークをしてきたが、俺は無視を決め込んだ。
それでも諦めない彼奴がうざかった。俺がどんなに悪口を言っても、無視をしても彼奴はずっと笑顔だ。
なんとなく俺はその笑顔に恐怖を感じていた。
彼奴はお袋と一緒にいる時が一番楽しそうだった。
俺は必要とされていないような気がした。
その日食べた彼奴の料理は味なんてしなかった。
ある日のことだ。俺はお袋と喧嘩をした。
きっかけは些細なことだったが、徐々にヒートアップしていった。俺はつい言ってはいけない事を言った。
「彼奴と再婚なんてしなきゃ良かったのに!」
その場がシン…となった。俺はその場に居たくないと思って外に駆け出した。背後からお袋が俺の事を呼んでいる事に気づかないふりをした。
俺はいつの間にか道路まで出ていた事に気づいて、戻ろうとしたが向かってくるトラックに気づかなかった。轢かれる寸前俺を何者かが突き飛ばした。
俺は突き飛ばされて地面に転がった。痛みに耐えながら先ほどの方を向くと、そこには血だらけの彼奴がいた。そこからはあまり覚えていないが、彼奴は即死だったらしい。お袋は泣き叫んでいたが、俺は涙なんて出なかった。
葬式が済んだ数日後、俺は彼奴の遺品整理をした。
お袋は彼奴が死んだ後俺の事を恨んだりはしなかった。しょうがないみたいな表情をしていた。俺がお袋を呼ぶと、お袋はいつもの笑顔で俺の方を向く。
なんとなく申し訳ないと思ってしまう。
ある程度遺品整理が終わると、一つの白い何も書いていないDVDを見つけた。
俺は気になり、DVDをつけてみた。そこには彼奴の姿が映っていた。彼奴がいた場所は病室…?
俺が不思議そうに眺めていると、画面の中の彼奴が話し始めた。
『どーも!こんにちは!僕だよ!僕!え?僕が誰だかわかんない?ひどいなぁ…。泣いちゃうよ?まぁいいか。これを見ているみたいだからね!』いつもの彼奴もテンションだ。彼奴はドッキリでも仕込んで知るのか?と思った。
『__?なんで僕がこんな場所にいるかわかんないよね。実はね僕はあまり長くないんだって…__はもうこの意味が分かるよね?』
俺は焦った。彼奴に限ってそんなことはないと思っていたからだ。予想外な言葉に俺が息を呑んでいると彼奴は続けて話す。
『本当はね…__や彼女ともっと一緒にいたかった。
だけどね…話すとより__は毛嫌いしそうだなって思って彼女にしか話さなかった。本当にごめんね…。いつかね…__達と旅行とか、買い物とかしたかった。
でも僕が彼女を救えるって思ったタイミングが、__の反抗期と重なってしまったから、より__の心を傷つけてしまったね…。ごめんね…。あっと!まだ話したい事沢山あるけど、カメラが限界に近いから簡単に話すね。』
俺はいつの間にか涙を堪えるのが限界だった。
『僕は先に逝ってしまう。また寂しい思いをさせちゃうけど、僕はいつまでも彼女や__の事を愛してるからずっと傍にいるからね。』
画面の中の彼奴は涙をこぼしながら言っていた。
もうカメラの限界が近づいていた。動画が終わる前に彼奴の最後の声が聞こえた。
『もっと生きたかった…』
それで動画は終わった。
俺はなんてひどい事をしたんろうか。“父さん”って最後くらい呼べば良かったのに…。
俺は父さんの部屋の中で、涙が枯れるくらい泣いた。
「本当に父さんごめんね…」
俺の声だけが何もない空間に響き渡った。
5/8/2024, 12:08:02 PM