SHADOW

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明日世界が終わるのなら

 戦争中に貴方に向けて零した言葉は届きもしない。
だって貴方はこの国の総統。私は貴方の僕。
“好き“だって言葉すら言えない。もし明日世界がおわるのなら、私はこの戦争を放棄して貴方の元に走って、言えなかった言葉を伝えるかもね。
今私達の方は優勢だけど何時逆転するか分からない。
だからこんな事を考えてる暇はないはずなのに、考えてしまう自分がいる。多分死にたくないんだろうね。
リングホルダーネックレスを取り出す。
(貴方が総統になる数年前にくれたよね…。
もう貴方は覚えてないだろうけど…。
私は貴方が言ってくれた事は今でも覚えてる。)
そんな事を考えながら敵国の奴らを一掃する。
一通り一掃し終えて気を抜いていたら、背後から来た裏切り者に刺されてしまった。
消えゆく意志の中で私は後悔した。
(嗚呼…。まだ伝えたいことが残っているのに…。)そこで私の意思は途切れた。

 俺は少し焦っていたが相手の国が降参を選んだ。
俺は優越感に浸っていると、いきなり扉が開いた。
何事かと思い振り返るとそこには、信頼している自身の右腕が肩で息をするほど疲れ切っていた。
どうしたのかと思い近づくと、右腕が衝撃的な事を言った。
「総統!“最終兵器”が裏切り者にやられて、今救護班が治療しているもようです!」
俺は言葉を失った。急いで俺は走った。
右腕が俺を制する声も聞かずに。
どうして…どうして…最終兵器が…“彼奴”なんだ…!

 救護室に辿り着いた。
心配していると医療長が俺の元にやってきた。
「総統様…。誠に申しづらいのですが…。“最終兵器”は…助かりません。」
俺は膝から崩れ落ちた。この国で一番強い奴を失った悲しみより、“最愛の人”を失った悲しみが一番強かった。初めて俺は皆の前で泣いた。声を出して泣いた。
何故彼奴なんだ。死の運命は自分じゃないのか。俺は彼奴の顔を撫でた。もう目を開ける事ない顔を何度も撫でた。互いに愛し合ったはずなのに。そもそも俺は彼奴を遠ざけていたのかもな。『総統』と『僕』と言う枠に。彼奴は俺の元に居たかったはずなのに、俺が突き放していた。最後に話したのはいつだろうか。そもそもまともな会話をしていたのかと考えてしまう。
「すまない…。__の事を“最終兵器”と呼んでしまっていた事も、__の事を愛していたのに、突き放していたことも…。」俺はこれ以上言葉が出なかった。
いや、言葉が分からなかった。
俺は__が何かをしっかり握っているのを見つけた。
そっと取ってみると、俺が総統になる前にプレゼントした、リングホルダーネックレスだった。
俺は涙が枯れるまで泣いた。
もう明日世界が終わっても良いから…。
__を返してくれ…。

5/6/2024, 11:47:13 AM