瞳をとじて
Warning。Warning。
ウー。ウー。
建物内に侵入者を検知しました。
侵入者は直ちに退出を命じます。これ以上の侵入が認められた場合、人工知能カーボiの瞳を閉じ防御体制に入ります。
Warning。Warning。
「侵入者がいるようね。」
「室長。うす。だいぶ奥まで入いったみたいすよ。まあ、カーボiに見つかったんですぐ排除されるしょ。」
「そう。では様子をみましょう。」
ウー。ウー。
第3エリアへの侵入を確認しました。カーボiは防御体制に入ります。施設内にいる人間は速やかに退避を命じます。繰り返します。施設内にいる人間の退避を命じます。
「どうやら、相手も凄腕のハッカーなのかしらね。まあ、貴方ならカーボiの最奥までたどり着けるかしら。」
「えー。室長は僕のこと疑ってるすか。光栄すね。でも、僕ってバレてたら意味なくないすか。捕まちゃいますよね。」
「どうかしら。貴方が欲しいのはカーボiのデータ。貴方に実態が無くても問題はないし、遠隔操作で十分よね。」
「あれ?僕がホロスコープだって知ってたんすか。これはバレてないと思ったのになぁ。」
Warning。Warning。
第1エリアへの侵入を確認しました。カーボiは最終防御体制に入いります。
施設爆発まで2分。繰り返します。施設内にいる人間は速やかに退避を命じます。
施設爆発まで…
「室長は逃げないすか。僕は実態のないホロスコープなんで安全なんすよ。室長はそのままそこにいたら危ないから、逃げたほうがいいす。」
「私は逃げないわ。カーボiは私の人生の全てよ。カーボiが自分のデータを守るために自爆を選ぶなら私も共に行くつもり。」
「うぇ。僕には考えられないっす。どうやら、カーボiの部屋にたどり着いても、室長の許可なしにデータを盗むことはできないみたいすね。室長の虹彩認証かぁ。協力はしてもらえないすよね。」
Warning。Warning。
最終防御体制を発動します。人間の退避を命じる。退避を命じる。
施設爆発のカウントダウン開始。
10.9.8…
ドーン。ドーン。
バーン。
「協力はできないわ、カーボiは私の全てで私自身よ。私自身を売り渡すことはできないでしょ。貴方は優秀だから、貴方が盗んだカーボiのデータは差し上げるわ。でも、それはほんの些細な情報よ。差し上げても問題ないほどにね。では、さようなら。ハッカーさん。次は上手くいくといいわね。」
プッ。
ホロスコープの電源が落ち、目の前のパソコンの画面が黒くなる。カーボiが自爆し施設ごと消えてなくなった。
僕はカーボiのハッキングの依頼を受け、ホロスコープの姿であの施設に潜り込んでいた。ハッキングを依頼した奴がどんな目的でカーボiを必要としていたのかは知らない。でも、カーボiのデータをハッキングしきれなかったは事実で室長の言う通り、今回の仕事は失敗したことになる。
それでも、室長に会えて人工知能や防御システムの話しをするのは楽しかった。
全てが失敗ではなかったように思う。僕も人生をかけれる何かを見つけてみたい。
あなたへの贈り物
何がいいだろうか。
すごく悩む。でも、あなたの喜ぶ顔を思い浮かべると喜びが溢れ出てくる。
贈り物を選んでいる時間が楽しい。
あの店、こっちの店とあちこちハシゴして贈り物を探す。
あー。困った。何にしようか
なんか悩み過ぎて気持ち悪くなってきた。
一旦休憩して仕切り直しだ。
コーヒーを飲むためにカフェに入る。コーヒーを飲みながらも贈り物のことを考える。本当に何にするか〜。悩む。
よし、次の店行こう。
これにしよう。
あなたと私でお揃いで買うのもいいかもしれない。いや、イロチでいいかな。
あなたと私は同じ日に生まれた。だから、私の誕生日はあなたの誕生日。
一緒に生まれてきてくれてありがとう。
保育園、小学校、中学校、高校、ずっと一緒にいてくれてありがとう。これからも、一緒に居てね。そして、よろしくね。
あなたから貰う贈り物も楽しみしています。何だろう。そして、ありがとう。
私たちは、今日から大学生となるが、始めて別の道へ進む。
あなたへ贈ったイロチの贈り物を持って新しい生活を始めれば、いつでもあなたと一緒に居られる気がする。
1人でも1人じゃない。これからも頑張れる
羅針盤
土壌汚染の進んだ地表を離れ、人は空へと登って行った。その頃、空では浮遊するいくつかの島が発見され、人は空の島で暮らし始める。しかし、人は住める場所を貪欲に求め、空の旅を繰り返す。
空の島の中には、誰も行ったことのない未開の島があり、お宝が眠っていると噂れていた。
俺もお宝欲しさに新しい島を探そうとやって来た1人だ。
新しい島を探すためには空の道標となる羅針盤が必要だ。空の島は浮遊し、絶えず動いているため島を追うには指標がなければたどり着くことはできない。
羅針盤には赤い羅針盤、黄色い羅針盤、青い羅針盤の3種類がある。
赤い羅針盤は、簡単に手に入るが粗悪な品が多く、足止めをくらったり、別の場所に連れて行かれたり、同じところをグルグルしたりと、とにかく酷い。
黄色い羅針盤は、赤よりはいいが危険な場所や航路を通ることが多く注意が必要となる。
青い羅針盤は高価で数が世界で100個と決められている。品質は良く確実に目的地に連れて行ってもらえるが、数が少ない分手に入れるのが難しい品だ。
まずは、羅針盤を手に入れるため空の船乗りたちが集まる空の港、ポートアースに向かう。そこで、青い羅針盤を持っている奴を探し出して横取りする。それが今回の作戦だ。
どうやって青い羅針盤を持っている奴を探すのか。港で待つていれば、それぞれの羅針盤を持った船が港に集まる。そして、出港する時に羅針盤を高く掲げ航路を決める。青い羅針盤を掲げた奴が俺のターゲットだ。
どうやって横取りするか。これも簡単。
その船の近くの木にロープを縛る。青い羅針盤が掲げられたら、ロープを掴み、羅針盤目掛けてターザンのように飛ぶ。そして、青い羅針盤を掠め取ってくる。な。簡単だろ。
調度大きな船が入って来た。キャプテンらしき男が船首へ向かってあ歩き出し、船員もその後ろに続く。キャプテンの手には青い羅針盤。ラッキー。俺はついてるぜ。
木に登りチャンスを待つ。
キャプテンが青い羅針盤を高く掲げた。
今がチャンスだ。
木を蹴って、ロープを掴み飛びだせば、体が風に押されて加速する。手を伸ばせば掴めるところまで来た時、俺の手を誰が掴んだ。
「俺様から盗もうなんていい度胸してるじやぁねいか。なあ、野郎ども。俺様を知らねえとは言わせないよ。」
え、捕まった。こいつ、天下の大海賊。キャプテンイブールだ。
「離せよ。離せよ。」
足も手もバタつかせ逃走を試みるが掴まれた手を外すことはできなかった。
「おい、小僧。宝が欲しいか。武器もなしに俺様から盗みをしようとする心意気、気にいったぜ。お前の目は海賊の目をしているしな。俺様の船に乗れ、青い羅針盤の示す新しい空の島まで連れてやる。その変わり、下働きだ。」
新しい島へ行ける。
「本当か。新しい島へ連れてくれるのか。行く。もちろん行くさ。下働きでもなんでもやる。キャプテンイブール。男に二言はないよな。」
新しい島でキャプテンイブールからお宝を横取りしてやる。今度こそ必ず。
明日に向かって歩いていく、でも
ファイト。オー。
ファイト。オー。
我が野球部は創部15年を数える。県内では強豪と呼ばれていた時代もあり、県大会ではベスト8やベスト4は常連で準優勝した年もあった。ただ、今は初戦を突破できない弱小チームになりさがっている。
「集合。監督さんが春の大会で引退することになった。監督さんか少しでも長く我が野球部とともに勝ち進めるように頑張っていこう。解散。」
「はい。」
監督さんは創部以来、ずっと野球部の監督として部員たちを指導してきた。時には激を飛ばす古い考えの方の人だけど、弱小となった今のチームも見放さずにいてくれる優しい大人だ。監督さんのためにも必ず1勝したい
1勝すること。それが野球部の目標。
明日に向かって歩く、でも、それは難しいことの連続だ。
たかが1勝。でも、弱小チームには大きな壁となる。
結局、春の大会の予選も1勝もできずに初戦敗退で終わった。悔しかった。負けることが常態化していた俺たちは、監督に1勝もプレゼントできなかった。今さら遅いが悔し涙が止まらない。もう負けるのは辞めだ。負けたくない。
4月になると中学ナンバーワンのスラッガーが入部してきた。監督さんのお孫さんだ。監督はニコニコしながら練習試合の応援に来る。監督としては勝利をプレゼントできなかったが、応援に来てくれる元監督へ勝利を見せるチャンスがまだある。
俺たちはチャンスに恵まれたのだ。
このチャンスを逃す訳にはいかない。
そして、中学ナンバーワンだか知らないが1年にだけ頼る訳にはいかない。どの試合も俺たちの試合だ。負けは辞めだ。
でも、なんで元監督の孫はなぜうちの高校へ来たのだろう。きっと他の強豪校から推薦もきていただろうに不思議だ。甲子園にでる確率の低いこの高校に来る意味があるのだろうか。
「お爺さん。え〜と。元の監督があのチームはいいチームだ。負け癖が抜ければ強くなるチームだ。お前が勝つ楽しさを教えてやってくれて言ってたし、ここの人たち練習楽しそうで俺と同じで野球が好きなだろうなぁ。と思ったらここの試験受けてました。」
なんだう。なぜか涙が出てきた。
元監督さんがチームをそんなふうに見ていてくれて嬉しかったのとその孫が手を差し伸べてくれたことが嬉しかった。
俺たちは3年。今年こそは1勝する。
ただひとりの君へ
クローンがはびこるこの世界で自分がオリジナルであると証明するのは難しい。
イヤ。簡単か。オリジン証明書を提出すればいいだけのこと。
俺は元はオリジナルだった。それなのに、今は証明書を持たないただのクローンの1人にすぎない。
小学生まではオリジンナルとして裕福な家庭で生活していたが、冬のある日、子供部屋に強盗が押し入り証明書が盗まれた。もちろん、警察にも届けを出したが証明書は見つからない。
翌週になって自分がこの家の子供だと、オリジン証明書を持った子供がやって来た。
俺のクローンの1人だ。だから、見た目は瓜二つだし、声も考え方さえも同じ。違うところを見つけるほうが難しいほど同じ人間。それがクローン。
俺がいくら「そいつは偽物だ。クローンだ。」と喚き散らしたところで、証明書を持たない俺を信じてくれる人はいなかった。両親でさえも証明書を持ったクローンを息子と呼び、俺を家から叩き出した。
オリジン証明書を持たない者はクローンとみなされ、富裕層とは別のエリアで労働者として働かされる。来る日も来る日もオリジナルのために労働させられる。給金などでない。
なんで、クローンなんて作ったのか。
俺はこの世の中で俺だけだ。ただひとりの俺でいい。
悔しい。涙が出るほど悔しい。どれほど足掻いてもどうすることもできない。
子供ころ大きな家に盗みに入った。金目の物を探していたら金庫が目に入り、そこからオリジン証明書を盗み出した。
自分がオリジナルになるなんて思ってもいなかったが、証明書さえあれば、あんな奴隷のような生活から抜け出せる。自分は2度とあの場所へ帰るつもりはない。
本当のオリジナルは自分の変わりに別エリアに連れて行かれただろうか。
ただひとりの君へ。本当のオリジナルへ。
さよなら。そしてありがとう。