たやは

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ただひとりの君へ

クローンがはびこるこの世界で自分がオリジナルであると証明するのは難しい。
イヤ。簡単か。オリジン証明書を提出すればいいだけのこと。

俺は元はオリジナルだった。それなのに、今は証明書を持たないただのクローンの1人にすぎない。

小学生まではオリジンナルとして裕福な家庭で生活していたが、冬のある日、子供部屋に強盗が押し入り証明書が盗まれた。もちろん、警察にも届けを出したが証明書は見つからない。
翌週になって自分がこの家の子供だと、オリジン証明書を持った子供がやって来た。
俺のクローンの1人だ。だから、見た目は瓜二つだし、声も考え方さえも同じ。違うところを見つけるほうが難しいほど同じ人間。それがクローン。

俺がいくら「そいつは偽物だ。クローンだ。」と喚き散らしたところで、証明書を持たない俺を信じてくれる人はいなかった。両親でさえも証明書を持ったクローンを息子と呼び、俺を家から叩き出した。

オリジン証明書を持たない者はクローンとみなされ、富裕層とは別のエリアで労働者として働かされる。来る日も来る日もオリジナルのために労働させられる。給金などでない。
なんで、クローンなんて作ったのか。
俺はこの世の中で俺だけだ。ただひとりの俺でいい。
悔しい。涙が出るほど悔しい。どれほど足掻いてもどうすることもできない。


子供ころ大きな家に盗みに入った。金目の物を探していたら金庫が目に入り、そこからオリジン証明書を盗み出した。
自分がオリジナルになるなんて思ってもいなかったが、証明書さえあれば、あんな奴隷のような生活から抜け出せる。自分は2度とあの場所へ帰るつもりはない。
本当のオリジナルは自分の変わりに別エリアに連れて行かれただろうか。

ただひとりの君へ。本当のオリジナルへ。
さよなら。そしてありがとう。

1/19/2025, 10:52:23 AM