冬休み
明日からニュージーランドに冬休みの間だけ短期間の留学に行く。パスポート、教科書、お金、洗面セット、洋服などなどをスーツケースにつめて1週間前から準備をしてきた。忘れ物がないか何度も確認もした。
1人で海外へ行くのは始めてで、心細く不安で一杯だ。でもそれ以上に楽しみが勝っていた。
ニュージーランドでは、ホームステイをしながら英語学校に通う。ニュージーランドでも年末年始なのは変わらないが、短期留学生のために学校を開校しているところもある。短い時間だか本番の英語に触れることができるため、人気の留学プランとなっている。
そしてもう一つの人気の理由は、日本は冬休みだか、南半球のニュジーランドは夏だ。
サンタクロースもサーフィンに乗ってやってくるらしい。
オークランド空港でコーディネーターのキャシーと会う約束をしていたが、時間になっても彼女は来なかった。
どうしよう。待ち合わせの場所を間違えたのだろうか。でも、やたらと動くと迷子になる可能性がある。どうしよう。
15分考えたが彼女はまだ現れない。すでにプチパニック状態だ。
「ごめんなさい。待った。混んでたのよ」
約束の時間から20分は過ぎた頃、私の前に金髪の白人の美人さんが手を振りながら歩いてきた。
「良かった〜。どうしようかと思ったよ」
キャシーの姿を見た時から涙が溢れ出しオエオエと泣いてしまった。デパートで親から逸れ迷子になってしまった子供の気持ちがよく分かるくらいに不安だったのだ。
それからホームステイ先に案内してもらったが、ホームステイ先のパパとママは私がすでにホームシックだと思っているらしい。きっとキャシーから私が空港で泣いた話を聞いたのだろう。
ホームシックで泣いた訳では無いと伝えたいが、私の英語力では上手く伝わらない。
この短期留学でもう少し英語力をつけて、待ち合わせにキャシーが現れずパニックだったことを伝えたい。それが目標となった。
ニュージーランドの年越しのカウントダウンは、水着でかき氷を片手に海水浴場で行われた。人が多く賑やかでエキサイティングした年越しも楽しかった。
冬休みが終わりに近づき、帰国のためにオークランド空港にきていた。飛行機が少し遅延するとのアナウンスが日本語で流れている。
今までは、相手の話を理解しようと頭で考えながら話を聞いていたが、遅延のアナウンスはスッと頭に入ってきた。楽くだ。
私はやっぱり日本人なんだなと改めて思った。
暑い年越しもいいけど、やっぱりこたつで年越し蕎麦が食べたい。お雑煮もお汁粉も食べたい。温泉も水着ではなく裸でゆっくり浸かりたい。
日本最高。
冬の年越しが1番だ。
ニュージーランドでいろいろなことを体験し学んでが、日本の良さを再確認できた留学となった。
手ぶくろ
電車で2駅先の会社まで自転車での通勤を始めた。夏の終わり頃からなので、風が気持ちよくてなかなか快適だ。
徐々に秋が深まると夏の景色から秋の景色となり、自転車に乗っていると街路樹の紅葉の黄色が鮮やかでついつい見とれてしまう。
「おっと。仕事遅れてしまう。」
秋が終わると寒さが日に日に増していく。自転車で会社に行くことは続けているが、手が冷たくて挫折してしまいそう。朝はグリップを握ると手が痛いほど冷たい。朝だけではなく会社帰りの夕方も風が冷たくて辛い。
「自転車通勤。挫折する前に手ぶくろしなさい。」
母に言われ手ぶくろを買うことにした。
どんな手ぶくろがいいだろうか。
毛糸の手ぶくろは風が編み目から入ってくるので、あまり実用的ではない。
風を遮断する物がいい。
買った手ぶくろをつけて、始めての自転車通勤。
「暖かくて快適〜。」
風を切って自転車を漕ぐ足にも力がこもる。自転車通勤を始めて半年経つが、季節の移り変わりを体で感じ、電車代も浮いて、私の体重も減った。手の冷たさも克服できたので最高にいいことばかりだ。
変わらないものはない。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
平家物語の冒頭の書き出しの文章らしく、物事は絶えず変化していて永遠不変のものはないとの意味らしい。
平家物語なんてよく知らないけれど、中学生の頃に暗記したこの書き出しはずっと忘れない。続きも少し覚えている。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。
どんなに勢い盛んなものも衰えていくとのこと。
日本語の美しさを体現した名文だとインターネットに載っていた。
確かに、使っているスマホの枠にピッタリ収まる文章となっている。七五調で覚えやすい。
日本語は世界一覚えるのが難しい言葉だと言われている。でも、音の響きで意味を作ることもでき、奥の深い言語だと思う。
そんな日本語を上手く使える文章を書いてみたいものだ。
平家物語の冒頭の書き出しの「諸行無常」は悪い意味ばかりではない。
絶えず変化しているのだから、辛いことや悪いことも必ず終わりがくる。と解釈する人もいる。
いろいろな解釈ができることも日本語の凄い所なのかもしれない。
いつか時間ができたら平家物語を読んでみたい。もちろん、原文そのままは無理だから現代語訳のものをさがしておこう
クリスマスの過ごし方
小さい頃から病気の母の看病をしてきた。
小学5年生の時に、母はパーキンソン病だと言われた。始めは母も仕事をしていたが、徐々に体が思うように動かせなくなり、私が中学2年の時には、ほとんど寝たきりだった。食事も思うように取れず、胃ろうと言う管から流動食を体に入れていた。今でいうヤングケアラーだ。
母は流動食を管に繋ぐことで栄養を取っていたが、私はそういう訳にはいかない。自分で作るのも面倒だし味気ない。そんな時、近所でカフェをやっていた加奈子さんが声をかけてくれた。加奈子さんはカフェの傍ら、夕方からはお母さんの春子さと一緒にボランティアで子供食堂をやっていた。
「家においでよ。みんなで温かいご飯食べよ。みんなで食べると美味しいよ。」
加奈子さんは、近所の人からか学校からか、私がヤングケアラーであることを聞きいて、わざわさ家まで誘いにきてくれた。
「でも、母を置いて夜に家を離れることはできません。」
昼間は叔母さんが、母の様子を見にきてくれていた。しがし、寝たきりの母を残して夜に出かけたことはない。
「大丈夫。若い人でも特定の疾患の場合、介護保険が受けられるから、ケアマネジャー決めて、介護保険を申請をしてみよう。それでダメならほかの方法を考えればいい。あなた1人が背負わなくてもいいよ。」
加奈子さんの言葉に肩の力が抜けるような気がした。母の面倒をみるのは私だけだと決めつけていた。みんなが手伝ってくることが嬉しかった。
夕方からヘルパーさんに母の様子を見てもらい、私は加奈子さんと春子さん親子の運営する子供食堂に顔を出すようになった。
春子さん作る手作りケーキやチキンを食べ、飾り付けされた部屋でみんなで過ごすクリスマス。
楽しかった。クリスマスがこんなに楽しいものだと始めて知った。忘れられない思い出だ。
加奈子さんから教わりながら、今は実家の1角で私が子供食堂をやっている。私のような思いをしている子供たちが少しでも笑顔で過ごせるようなお手伝いをしていきたいと思う。
加奈子さんからもらった心遣いを私が受け継ぎ、次の子供たちに繋げていきたい。
イブの夜
イブ夜。何となくみんなが、ソワソワしてしまうイベントガありそうだ。会社から帰宅する人たちも今日は足早やに出ていく。今年のクリスマスもイブも平日のため大きなパーティーをやる人は少ないかもしれないが、その分、家族や恋人といった近しい人との時間がゆっくり持てるのかもしれない。
まあ、私は早く帰る必要はない。クリスマスだからと言って、何かをする予定はない。1人家に帰って寝るだけだ。
去年までの私はそうだった。1人なのは変わりないがすぐに寝るのは辞めようと思う。せっかく定時に仕事が終わったのだから、家でゆっくりしたい。いつもゆっくりしているが、そうではなくて1人でイベント的なクリスマスを過ごしてみよう。
そのためのアイテムを先日行った雑貨屋で仕入れてきている。準備は出来上がっている。
帰宅後、お風呂にお湯を張る。我が家のお風呂はユニットバスだか、お湯にろうそくを浮かべれば、ちょっとしたスパ気分だ。
アロマキャンドルの香りに包まれてホッとする。
お風呂から出たら、髪の手入れをしてから夕食の準備だ。準備と言ってもデパ地下で買ってきたちょっと高級品のお惣菜を並べ、冷やしておいたワインをグラスに注ぐ。猫のミーコにもいつもよりお高いキャットフードを出してあげれば、嬉しそうにミィミィ鳴きながら食べている。
美味しい〜。幸せだ。
ミーコを膝に乗せ、ナデナデしながら飲むワインは最高に美味しい。あとでミーコを目一杯吸い込もう。猫吸いもたまらない。
クリスマスもイブの夜も過ごし方は人それぞれ。楽しいイベントには変わりはない。
翌日、同僚にクリスマスイブの夜はどうしていたのか聞いた。彼女も1人で過ごすと言っていたから、ちょっとした好奇心で聞いてみた。
「美容皮膚科に行ったの。クリスマスだからすぐに予約が取れたのよ。それにキャンペーン中で割引してたからリーズナブルだったしね。ゆっくり過ごせて良かったわよ。」
美容皮膚科…。
確かに1人で行くにはうってつけかもしれない。来年のクリスマスイブの夜は挑戦してみたい。