プレゼント
今までたくさんのプレゼントをもらってきた。何が1番嬉しかっただろうか。
小さい頃はサンタさんに着せ替え人形をもらい、少し大きくなると図書券をもらった。
夫と付き合い始めるとバックやネックレス
をプレゼントされ、とても幸せな気持ちだった。
子供たちからは、母の日に1日お手伝い券なる物をもらい、少しだけ楽をさせてもらった。
今、私にプレゼントをくれるのは孫。
「ばぁば。ありがとう。チュ。」
今日は私の誕生日。孫たちからもらう
誕生日プレゼントはいつも優しい気持ちにさせてくれる。
「ほら。マリンもばぁばにチュ。」
自分より大きいなトラ猫を抱えるように引きずりながら、孫の琉亜ちゃんが私の頬に猫のマリンの鼻を押しつける。
マリンも嫌がる様子はない。保護猫で人慣れしていないマリンを預かり半年。やっと私にも孫にも慣れ、たまに甘える仕草も見せるマリン。そんなマリンからの鼻チュは、琉亜ちゃんのチュの次に嬉しいプレゼントだ。
今まで1番嬉しプレゼントは、1人と1ぴきがくれる愛情かもしれない。
ゆずの香り
「みすずちゃん。新しいお客さんよ。どうかしら。」
バーカウターの中でカクテルを作っていた手を止めて玲子ママがそっと教えてくれたお客さんが店内に入って来るのを見た。
「え!?」
ガタン。
私は慌ててカウターの中に身を隠すように座り込んだ。うぇ。気持ち悪い。
「何!みすずちやん。どうしたのよ」
近くにいたバーテンダーに支えられながら立ち上がれば、白い豪ジャスな着物を着た玲子ママが心配そうに声をかけてきた。
「すみません。玲子ママ。真ん中にいたお客さまは大丈夫ですけど、右側にいた紺野スーツの人はちょっとヤバイです。」
「ヤバイってどんな色だったの。」
「何て言うか、灰色かかった黒ぽい感じです。あんな色始めてみました。何か灰色が体に絡みついてるようで気持ち悪かった」
都会のスナックでバーテンダーとして勤めている私は、人の色を見ることができる。
色が見えるなんて信じてくれない人が多いが、玲子ママは違った。
いや、玲子ママも始めは信じていなかったが、ホステスとして働く私が選ぶお客さまが何故か上玉ばかりなので私を信じるようになった。そう私はお客さまを選んでいて、色てお客さまを判別していたのだ。
私の見える色は、その色によって性格や幸福度、羽振りの良さなどに違いがあり、明るく綺麗な色ほどその人の幸福度は高く、優しい性格の人が多い。逆に濃い色や汚れた色、くすんだ色の人はあまり良くな人生を歩んでいる人が多い。つまり、都会のスナックにおいてお金も人望もない人は歓迎されない。
玲子ママは私の色を見る能力を評価してくれてホステスではなく、バーテンダーとして働くことを進め、お客さまの判別をして欲しいと頼んできた。今まで、この色のことで辛いことばかりだったが玲子ママに会って自分を必要としてくれる人ができて嬉しかった。
今日も新しいお客さまが来るからと玲子ママに声をかけられ色を見たが、1人はとても気持ち悪い色だった。あんなの凶悪犯人の色だ。あの絡み付く灰色はなんたろう?執着や執念みたいなものだった。
見た目は優しそうな人だったけれど、確実にヤバイ。
「お客さま。申し訳ございませんが、うちはご紹介がない方は入店をお断りしておりますの。この界隈で珍しい?そうでしょう。私は古くからの格式を重んじておりますの。ごめなさいね。」
玲子ママがさり気なく新しいお客さまの入店を断った。一緒に来ていた人も同じように断ってしまい少し勿体ない気もするが仕方がない。
「ママ良かったんですか。」
「良かったのよ。みすずちゃんの人を見る目は間違いはないわよ。店のなかで騒ぎでも起こされたらたまらないわよ。ゆずの香りのカクテルをちょうだい。スッキリしたいわ。」
「はい。今お持ちしますね。」
それから1月後、新聞にあの灰色のお客さまの家の床したから奥さんが見たかったと載っていた。3ヶ月前から行方不明だったらしい。
「みすずちゃんの言う通りだったわね。入店拒否して良かった〜。これからもよろしくね」
確かに殺人犯が常連さまだったなんてマスコミのネタになっていたことだろう。
でも、あの気持ちの悪い色はやっぱり奥さんの怨念だったのたろうか。2度と見たくない色だ。
大空
俺はついこの前まで部屋に3年間引きこもっていた。外の世界を遮断しインターネットの中の名前も顔も知らない人とゲームをして毎日を過ごしていた。中学2年の冬から学校には行っていない。
そんなある日、突然知らない大人が訪ねて来て、俺の部屋の前でなぜか北海道の牧場の話しを始めた。
昔、サラブレッドだった馬を飼っている。
牛は全て放牧しているから餌やりは必要ない。北海道では羊も食べるから何頭か飼育を始めた。豚もいるよ。などなど本当に牧場の話ししかしない。
誰だこいつ。
どうやら、中学のクラスメートの叔父さんらしいが、そのクラスメートも思いだせない。ますます謎だ。それでもその人は2カ月間、毎日通ってきていた。俺が返事をしなくてもお構いなしだ。
そして、春が終わりに近づいたころ、その人は北海道に帰ると言った。
「一緒に行こう。明日、中標津空港で待っているよ。」
俺は3年ぶりに部屋から、家から出ることを決めた。なんだか、北海道へ行くことが当たり前に感じていた。牧場へ始めて行く気がせず、知っている場所に帰るような感覚があった。
中標津空港には、牧場のオーナーであるクラスメートの叔父さんと迎えにきていた奥さんが俺を待っていてくれた。
奥さんの車は雄大な北海道の真っ直ぐな道を牧場に向けて快調に走っていく。きたの大地に大空が広がり、俺が今までいた世界とは真逆の景色だ。
でも、不思議と不快感はなく、むしろ心が落ち着いてきていた。
牧場のゲートを抜ければ、そこには牛に馬、羊、豚が静かに優しく飼育されていた。
北海道に来てから1年が経つが、俺は牧場でボーダーコリーのシェリーと放牧している羊を集める仕事についている。俺とシェリーの息が合わなければ羊を思うように誘導することはできない。気の抜けない仕事だ。
これからの夢もある。近い目標は、高卒認定試験に合格することだ。仕事の合間にオーナーの奥さんに勉強を見てもらいながら合格を目指している。奥さんはスパルタだが忍耐強く付き合ってくれる。優しい奥さんだ。
そして、高卒認定試験に合格したら大学にいって酪農のことを専門的に学び、いずれは獣医になりたい。「夢はでっかく」がオーナーが俺にいつも言ってくれる言葉だ。その言葉通り、獣医になることが最大の目標だ。
今日も牧場の中をシェリーと走りながら
空を見あげる。この空に誓って、必ず獣医になり、俺を変えてくれたオーナーに恩返しをしていきたい。
友達はいないけど、信頼できる大人がいる。相棒のシェリーがいる。馬が牛が羊たちがいる。大家族のようなこの生活を守っていきたい。
ベルの音
うちは小さな古道具屋なので店の中はさまざまな古い物で溢れている。
例えば、ネジを回しても3回に1回は止まってしまう懐中時計。針山が硬くて針のさしにくい裁縫箱などだ。みんな使い古されて捨てられたものばかりなので、店で綺麗になって次に使ってくれる人を待つている。時には、自分で歩いて出て行ってしまう物もいる。この前はハンドベルが付喪神になって大きな音を鳴らしながら店から出ていった。あまりに大きな音で店中の付喪神から苦情が出たほどだった。
「なんだいあれは」
「あーうるさい。うるさい。」
「ゆっくり休めないだろ。」
チリン、チリンと本当に大きな音だ。あんなに大きな音では人に嫌われて、どこにも行くところはないのではと心配をしていた。そんな時、いつも買い付けに行ってくれる妖怪の三つ目小僧が慌てた様子でやって来た。
「あんたの所にいたベルの付喪神を駅で見たよ。機関車の運転台にいてさぁ、機関車の発車を知らせてたよ。」
「あらいいじゃないですか。発車を知らせるベルなんて天性の仕事ですよ。」
「いや、そうでもないみたいで、発車の時だけでなく自分勝手にベルの音を鳴らすらしいよ。運転士が困っていたよ。」
「確かにそれでは機関車の発車の合図の意味がないわね。」
「あのままだと捨てられちまうな。何度も捨てられてたら付喪神も不満が溜まって妖怪になちまうぞ。」
「まあ、引き取りに行きますけど素直にここにいてくれるか。それにあんなに大きな音を出されると他の物の迷惑になりますし。困りましたね。」
カラン。カラン。
店の扉が開いて常連のお客さんが入ってきた。彼は冬になるといつも仕事の途中で寄ってくれるのだ。
「今の話しだけれど、そのベルを僕が引き取ってもいいかな。冬の夜空は暗くて音もしない世界だ。でも、ベルの音があれば賑やかになる。トナカイたちも喜ぶよ。それに僕が来たことが遠くからでもわかる。みんなが僕を待っているからね。早く知らせることができるのはいいことだ。」
赤い帽子に赤い服。白いひげを蓄えたぽっちゃりとしたおじいさんがにっこりと笑っていた。
「本当に!ありがとう。サンタクロースさん。夜空ならいくら大きな音を立てても平気よね。ベルを迎えに行ってくるわ。」
付喪神となったハンドベルは、サンタクロースと一緒に世界中の夜空を飛んでいる。
特に12月24日は忙しくあちこち回っているらしい。
彼は、ベルの音を響かせ子供たちにサンタクロースの到着を知らせている。
メリークリスマス
寂しさ
ももちゃん。寂しいよう〜。
最近、ハムスターのももちゃんがゲージの中の小屋に入ったまま出てこない。
この前はゲージから脱走して家中を探し回っていたが、今度は外へ出てこない。
ももちゃんが、回し車を走りカラカラとする姿を見ることが癒しなのになんでお外に出てこないの〜。ももちゃん〜。飼い主は寂しいよ。
なんで出てこないのかSNSで調べてみた。ハムスターは元々単独行動を好む生き物。ももちゃんは1人でいても寂しくないらしい。1人が快適なのだ。
ももちゃんとわかり会える日はまだ先なのかもしれない。