大空
俺はついこの前まで部屋に3年間引きこもっていた。外の世界を遮断しインターネットの中の名前も顔も知らない人とゲームをして毎日を過ごしていた。中学2年の冬から学校には行っていない。
そんなある日、突然知らない大人が訪ねて来て、俺の部屋の前でなぜか北海道の牧場の話しを始めた。
昔、サラブレッドだった馬を飼っている。
牛は全て放牧しているから餌やりは必要ない。北海道では羊も食べるから何頭か飼育を始めた。豚もいるよ。などなど本当に牧場の話ししかしない。
誰だこいつ。
どうやら、中学のクラスメートの叔父さんらしいが、そのクラスメートも思いだせない。ますます謎だ。それでもその人は2カ月間、毎日通ってきていた。俺が返事をしなくてもお構いなしだ。
そして、春が終わりに近づいたころ、その人は北海道に帰ると言った。
「一緒に行こう。明日、中標津空港で待っているよ。」
俺は3年ぶりに部屋から、家から出ることを決めた。なんだか、北海道へ行くことが当たり前に感じていた。牧場へ始めて行く気がせず、知っている場所に帰るような感覚があった。
中標津空港には、牧場のオーナーであるクラスメートの叔父さんと迎えにきていた奥さんが俺を待っていてくれた。
奥さんの車は雄大な北海道の真っ直ぐな道を牧場に向けて快調に走っていく。きたの大地に大空が広がり、俺が今までいた世界とは真逆の景色だ。
でも、不思議と不快感はなく、むしろ心が落ち着いてきていた。
牧場のゲートを抜ければ、そこには牛に馬、羊、豚が静かに優しく飼育されていた。
北海道に来てから1年が経つが、俺は牧場でボーダーコリーのシェリーと放牧している羊を集める仕事についている。俺とシェリーの息が合わなければ羊を思うように誘導することはできない。気の抜けない仕事だ。
これからの夢もある。近い目標は、高卒認定試験に合格することだ。仕事の合間にオーナーの奥さんに勉強を見てもらいながら合格を目指している。奥さんはスパルタだが忍耐強く付き合ってくれる。優しい奥さんだ。
そして、高卒認定試験に合格したら大学にいって酪農のことを専門的に学び、いずれは獣医になりたい。「夢はでっかく」がオーナーが俺にいつも言ってくれる言葉だ。その言葉通り、獣医になることが最大の目標だ。
今日も牧場の中をシェリーと走りながら
空を見あげる。この空に誓って、必ず獣医になり、俺を変えてくれたオーナーに恩返しをしていきたい。
友達はいないけど、信頼できる大人がいる。相棒のシェリーがいる。馬が牛が羊たちがいる。大家族のようなこの生活を守っていきたい。
12/21/2024, 1:25:45 PM