たやは

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ベルの音

うちは小さな古道具屋なので店の中はさまざまな古い物で溢れている。
例えば、ネジを回しても3回に1回は止まってしまう懐中時計。針山が硬くて針のさしにくい裁縫箱などだ。みんな使い古されて捨てられたものばかりなので、店で綺麗になって次に使ってくれる人を待つている。時には、自分で歩いて出て行ってしまう物もいる。この前はハンドベルが付喪神になって大きな音を鳴らしながら店から出ていった。あまりに大きな音で店中の付喪神から苦情が出たほどだった。

「なんだいあれは」

「あーうるさい。うるさい。」

「ゆっくり休めないだろ。」

チリン、チリンと本当に大きな音だ。あんなに大きな音では人に嫌われて、どこにも行くところはないのではと心配をしていた。そんな時、いつも買い付けに行ってくれる妖怪の三つ目小僧が慌てた様子でやって来た。

「あんたの所にいたベルの付喪神を駅で見たよ。機関車の運転台にいてさぁ、機関車の発車を知らせてたよ。」

「あらいいじゃないですか。発車を知らせるベルなんて天性の仕事ですよ。」

「いや、そうでもないみたいで、発車の時だけでなく自分勝手にベルの音を鳴らすらしいよ。運転士が困っていたよ。」

「確かにそれでは機関車の発車の合図の意味がないわね。」

「あのままだと捨てられちまうな。何度も捨てられてたら付喪神も不満が溜まって妖怪になちまうぞ。」

「まあ、引き取りに行きますけど素直にここにいてくれるか。それにあんなに大きな音を出されると他の物の迷惑になりますし。困りましたね。」

カラン。カラン。

店の扉が開いて常連のお客さんが入ってきた。彼は冬になるといつも仕事の途中で寄ってくれるのだ。

「今の話しだけれど、そのベルを僕が引き取ってもいいかな。冬の夜空は暗くて音もしない世界だ。でも、ベルの音があれば賑やかになる。トナカイたちも喜ぶよ。それに僕が来たことが遠くからでもわかる。みんなが僕を待っているからね。早く知らせることができるのはいいことだ。」

赤い帽子に赤い服。白いひげを蓄えたぽっちゃりとしたおじいさんがにっこりと笑っていた。

「本当に!ありがとう。サンタクロースさん。夜空ならいくら大きな音を立てても平気よね。ベルを迎えに行ってくるわ。」

付喪神となったハンドベルは、サンタクロースと一緒に世界中の夜空を飛んでいる。
特に12月24日は忙しくあちこち回っているらしい。
彼は、ベルの音を響かせ子供たちにサンタクロースの到着を知らせている。

メリークリスマス

12/20/2024, 1:15:45 PM