たやは

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12/20/2024, 1:15:45 PM

ベルの音

うちは小さな古道具屋なので店の中はさまざまな古い物で溢れている。
例えば、ネジを回しても3回に1回は止まってしまう懐中時計。針山が硬くて針のさしにくい裁縫箱などだ。みんな使い古されて捨てられたものばかりなので、店で綺麗になって次に使ってくれる人を待つている。時には、自分で歩いて出て行ってしまう物もいる。この前はハンドベルが付喪神になって大きな音を鳴らしながら店から出ていった。あまりに大きな音で店中の付喪神から苦情が出たほどだった。

「なんだいあれは」

「あーうるさい。うるさい。」

「ゆっくり休めないだろ。」

チリン、チリンと本当に大きな音だ。あんなに大きな音では人に嫌われて、どこにも行くところはないのではと心配をしていた。そんな時、いつも買い付けに行ってくれる妖怪の三つ目小僧が慌てた様子でやって来た。

「あんたの所にいたベルの付喪神を駅で見たよ。機関車の運転台にいてさぁ、機関車の発車を知らせてたよ。」

「あらいいじゃないですか。発車を知らせるベルなんて天性の仕事ですよ。」

「いや、そうでもないみたいで、発車の時だけでなく自分勝手にベルの音を鳴らすらしいよ。運転士が困っていたよ。」

「確かにそれでは機関車の発車の合図の意味がないわね。」

「あのままだと捨てられちまうな。何度も捨てられてたら付喪神も不満が溜まって妖怪になちまうぞ。」

「まあ、引き取りに行きますけど素直にここにいてくれるか。それにあんなに大きな音を出されると他の物の迷惑になりますし。困りましたね。」

カラン。カラン。

店の扉が開いて常連のお客さんが入ってきた。彼は冬になるといつも仕事の途中で寄ってくれるのだ。

「今の話しだけれど、そのベルを僕が引き取ってもいいかな。冬の夜空は暗くて音もしない世界だ。でも、ベルの音があれば賑やかになる。トナカイたちも喜ぶよ。それに僕が来たことが遠くからでもわかる。みんなが僕を待っているからね。早く知らせることができるのはいいことだ。」

赤い帽子に赤い服。白いひげを蓄えたぽっちゃりとしたおじいさんがにっこりと笑っていた。

「本当に!ありがとう。サンタクロースさん。夜空ならいくら大きな音を立てても平気よね。ベルを迎えに行ってくるわ。」

付喪神となったハンドベルは、サンタクロースと一緒に世界中の夜空を飛んでいる。
特に12月24日は忙しくあちこち回っているらしい。
彼は、ベルの音を響かせ子供たちにサンタクロースの到着を知らせている。

メリークリスマス

12/19/2024, 11:05:56 AM

寂しさ

ももちゃん。寂しいよう〜。
最近、ハムスターのももちゃんがゲージの中の小屋に入ったまま出てこない。
この前はゲージから脱走して家中を探し回っていたが、今度は外へ出てこない。
ももちゃんが、回し車を走りカラカラとする姿を見ることが癒しなのになんでお外に出てこないの〜。ももちゃん〜。飼い主は寂しいよ。

なんで出てこないのかSNSで調べてみた。ハムスターは元々単独行動を好む生き物。ももちゃんは1人でいても寂しくないらしい。1人が快適なのだ。 

ももちゃんとわかり会える日はまだ先なのかもしれない。

12/18/2024, 12:15:01 PM

冬は一緒に

秋から冬にかけて木々の葉っぱが落ちて枝だけになると枝にとまっている鳥がよく見えるようになる。冬はバードウォッチングの季節だ。

冬は一緒にフィルドワークに出かけませんか?

そんな堅苦しいことは言いません。近所の河原や公園てもバードウォッチングは充分楽しめます。カラスやスズメはもちろん、シジュウカラ、キジ、ウグイスなどなど身近に鳥はいます。余りにも近すぎて双眼鏡で見てみるなんてしませんよね。でも、試してみて下さい。可愛い鳥たちに癒されて、バードウォッチングの魅力にハマるかもしれません。

冬になると雪の振る雪原で大型の鳥を見ることができます。1番見ててみたいのは、北海道の流氷の上を飛ぶオジロワシ。数百羽の群れが越冬のためにやってきます。大きな羽を広げた姿は、凛々しく雄大だ。
自然を肌で感じることができるのもバードウォッチングの魅力の1つかもしれない。

北海道の冬。それも流氷の上。当たり前だがめちゃくちゃ寒いはず。寒さとバードウォッチングは切り離せないが、澄んだ空気がその姿をより美しく見せることもある。

きっと、オジロワシを見たら寒いなんて言っいられない。写真に納めないと。スマホを構えて連写しているはずだ。

考えているとワクワクしてくる。今度の冬は北海道へ行きたい。

12/17/2024, 12:56:55 PM

とりとめのない話

「ごめんね。とりとめのない話して。」

華子は驚いて姉の顔を見た。
今のがとりとめのない話なのか。本当の話かもしれない。姉は申し訳なさそうに下を向いたままだ。

「お姉さん。もう一度ゆっくり話して。」

「え。うん。」

華子の父は町の銀行の頭取をしていたため、町のみんなから信頼される人物だった。よく父はいろいろな相談ごとを受け、町の人のために力を貸していたと思っていたのに。そうではなかったのだ。

「昨晩、お父さんの所にお客さんがくることは知っていたの。私、あの方とお知り合いになりたかったから、お父さんに用事があるふりをして客間に向ったの。」

お姉さんが父の部下で銀行の支店長に好意を持っていたことは、私も知っていた。お姉さんは自信がないくせに行動が分かりやすい。きっと父もにもバレていたに違いない。

「部屋の前まで行ったら2人の話し声が聞こえて。」

『金庫の金は全て船に移したか』
『はい。頭取。先ほど全て終わらせました。明日には警察がやって来くるかと思います。心配はありません。金は怪人が盗んでいったのです。』
『そうだな。あの脅迫状があれば大丈夫』

「私、恐ろしくなってそのまま戻ってきてしまったの。あの方が怪人だったなんて」

怪人とは巷を騒がせている怪盗のことだが、それがお父さんの部下?その怪人が
お父さんの銀行のお金を盗んだ?
そんなことがあるのだろうか。
怪人は人殺しはもちろん、相手に怪我さえ負わせたことはないと噂になっている。

「ごめんなさい。きっと聞き間違いだったのよ。本当にごめんなさい。変な話して。あの方が怪人なんてねぇ。バカバカしいでしょ。」

確かにお父さんの部下の人が怪人とは思えない。でも、金庫のお金が本当になくなっていたら。船って何のことなの。
お姉さんは自分の聞き間違いだとか、とりとめのない話だとか言っているが、もし本当だったらどうしよう。
お父さんは銀行のお金を何処かに移動させた。横領だ。表では人権派のような顔をして、裏では銀行のお金を横領している。
私たちには優しいお父さん。私もお姉さんもそんなお父さんが大好きだ。
横領なんて辞めさないといけない。
でもどうやって辞めさせればいいのか分からない。

コンコン。

部屋の窓を叩く音がした。
ここは洋館の3階にある部屋でバルコニーはついていない。誰が叩いたのか。
勇気を出して窓を開けると、外には黄金のマスクを被った怪人が屋上から吊るされたロープに捕まり3階 までおりてきていた。

「君は賢い女性だ。真実は必ず暴かれるのだから、選択を間違えてはダメだよ。明日、君がお姉さんから聞いたことをみんなの前で話しなさい。いいね。あとは、僕が自分の名誉を回復させる。」

翌日、私はみんなの前でお姉さんから聞いた話をした。お父さんは怒り、こいつは頭がおかしい。幻聴が聞こえるくらい狂っていると私を罵った。そこにいたのは私たちに甘く優しいお父さんではなく、鬼の形相をした金の亡者だった。

「お嬢さんが言っていることは本当のことですな。あなた方がお金の運搬に使った船がこの先の湾内で見つかりましたよ。支店長さんも乗っていらしゃいました。もう言い逃れはできませんな。」

銀行から連絡を受けていた警察は、頭取であるお父さんのことも疑っていたらしい。

警部さんがお父さんに詰め寄ったが、お父さんはそれでも自分の罪を認めず銀行のお金を盗んだのは怪人だ。銀行に金を寄越せ、さもないと銀行を爆破するとの脅迫状が届いた。だから金を渡すために船に乗せたと騒ぎだした。

その時広間の電気がパッと消えた。どこからか声が聞こえてきて、自分は怪人だと名乗った。

「僕は脅迫状なんて送ったことはありませんよ。今までに一度もね。脅迫なんかしなくても欲しいものは頂きますからね。例えば、船の中お金。あれは僕に濡れ衣を着せた慰謝料でもらっておきます。支店長さんに怪人が協力感謝していたとお伝え下さい。」

支店長も始めはお父さんの横領に加担していたが、何回も横領し金額が大きくなるにつれて良心の呵責に耐えきれず、警察に協力を申し出た。でもその警察は偽物で怪人の変装だったそうだ。

結局、お父さんは横領の罪で警察に逮捕された。あの声の怪人はあの場にいたのか分からず姿もなかった。
でも、広間を出ていく警部さんが私にウインクをして行った。

あの警部さんが怪人だったのだろうか。

私たちの今までの生活は、足元から崩れていくことだろう。頭取の令嬢として煽てられて生きてきた私たちにとっては茨の道だ。
私は本当に正しい選択をしたのだろうか?
怪人に踊らされただなのかもしれない。
それでも、私はお父さんの娘として、償いながら自分の足で生きて行かなければならない。

12/16/2024, 10:59:24 AM

風邪

昨日から咳が止まらない。喉も痛く熱もある。まさに風邪だ。
最近の風邪はたちが悪い。インフルエンザにコロナと予防接種をしてもかかってしまうものばかりだ。どちらも出勤禁止が5日間ほど続き、家からは出られない。ひたすら家で寝て過ごすしかない。本当に風邪なのかと疑いたくなる。

小さい頃は、鍵っ子で仕事から帰ってくる両親を1人で待つ子供だった。そんな鍵っ子だった私は、風邪をひくとおばあちゃんの家に預けられた。
誰も信じないけど、おばあちゃんの家には小人さんが何人かいた。小人さんは、私が布団で寝ていると枕元にやってくる。
枕元にやって来た小人さんはみんなで私の頭を一斉にヨシヨシするのだ。優しい小さい手を感じているとうとうとしてくる。

「ゆっくりお休み。」

誰かの小さいな声が聞こえた。

目が覚めると小人さんは居なくなってしまうが、不思議と風邪は良くなり熱もなく、喉の痛みも引いている。

今もおばあちゃんの家には小人さんが住んでいるはず。

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