たやは

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12/3/2024, 12:24:08 AM

光と闇の狭間で

父さんが古道具屋で古いタンスを買ってきた。そのタンスを見て母さんは呆れていたが、私も父さんと同じで凄く気になるタンスだった。父さんの部屋に置かれたタンスの引き出しを開けると中には、ちりめんのウサギが置かれていた。そのウサギは片方の目が取れ、両方の耳が破れ中の綿が出ていて、余りにも可愛そうだった。
ちりめんウサギを自分の部屋に持ち帰り、取れてしまった目に同じようなボタンをつけ、耳も縫いなおした。

その日の夜、ちりめんウサギの夢を見た。そうだこれは夢だ。

「私の顔をなおしてくれてありがとう。私は光と闇の狭間で未来の番人をしている者だ。」

未来の番人?
あのちりめんのウサギだ。面白い夢。

「人の未来は魂の行き先できまる。魂が光の世界に行けば、その人の人生は成功に彩られ、闇の世界に行けば、息をするのも苦しいほどの暗く辛い人生となる。
狭間の世界は人の未来を降り分ける世界で、その降り分けをしているのが私たち番人だ。」

光の世界と闇の世界なんで聞いたことがない。やっぱり夢だ。

「光と闇の世界だけでなく、他にも世界はある。年中風が吹き時代の先端を生きる人となる風の世界、雨が多くジメジメとした森の世界などたくさんの世界がある。しかし、1番幸せなのは光の世界だ。お前には特別に光の世界に行くチケットをやろう。」

どうして?

「私をあの狭く暗い場所から私を救い出してくれたからさ。そのお礼だ。そのチケットがあれば光の世界行きの列車に乗れる。光の世界は幸せが約束されている世界だ。」

でも光の世界に行ったら、ここでの生活ができなくなるの?私は父さんと母さんとここで暮らしたい。

「それぞれの世界に行くのは魂だけ。生活は何も変わらない。ただ、魂が光の世界に行けば、生活も豊かになり、やること全てが成功するのさ。お前も光の世界を望むだろう。」

私たち家族は決して裕福ではないけれど、笑い声の絶えない母さんと気弱だけど優しい父さんがいる穏やかな家庭だ。自然溢れるこの村でこのまま生活していきたい。

「私の本当の未来の世界はどこですか?」

「本当の世界?あー。お前は自然と共に生きる土の世界だよ。土の世界で畑を耕し生きていく。そんな世界さ。さあどうする。」

会社を辞めて就農した父さんを手伝い、高校を卒業してからさまざまな野菜を作り出荷している。これかもそんな生活が続く。

「光の世界には行きません。私はこのままで幸せです。」

「そうか。お前が決めたことだ構わないよ。ただ、1つだけ約束をしょう。自分の選択したことを後悔をしないように生きなさい。破れば全てを失うことになる。気をつけなさい。」

そこで目が覚めた。ちりめんウサギとなんか話した気がするがあまり覚えていないけど、なんかリアルな夢だった。
それからも、なぜかちりめんウサギは私の側にあった。結婚して子供が産まれ、夫も作物を作っていたのでそれを手伝う私と一緒に生活しているようであった。

その年は例年になく長雨が続き、雨が終われば暑い夏となった。作物は育ちが悪くほとんどダメになってしまった。夫はいつもイライラして私や子供にあたることが増え喧嘩ばかりだ。

「お前!あのウサギの言う光の世界とやらに行け!そうすれば金持ちになれるだろ。」

私がちりめんウサギの招待を断ってしまったことが間違いだったのか。
でもあれは夢だ。でもでも、あの時もし光の世界に行くと言えば、私たちの生活は違っていたのだろうか。

急に辺りが暗くなり、目の前にちりめんウサギが立っていた。

「お前は後悔しているのか。あの時の選択を変えたいか。」

後悔…。
父さんと母さんとの穏やかな生活。今は喧嘩ばかりだけど、働き者の夫との結婚、そして出産。子供との優しい生活。お金では買えな物ばかりだ。これから生活が苦しくても仲良く楽しく生きていければいい。

「後悔していません。私は私の人生を私の足で歩いています。これからもそれは変わりません。」

「そうか。ならば良い。何か正しいかなどないのだから。」

それから夫とは離婚を決めた。今は私が畑を耕し作物も作っている。裕福ではないけど近所の農家さんに助けてもらいながら子供と2人楽しく生活している。

狭間の世界の番人ってなんだろう?今でもよく分からないけれど、私はこれからも自分で選択しで生きていく。ただそれだけ。

12/1/2024, 1:16:15 PM

距離

どこの中学校でも冬になるとマラソン大会がある。走るのが苦手だった私にとっては1年のうちで1番嫌いなイベントだ。
長い距離を走れば、苦しいし疲れるし寒いし良いことなんで1つもない。毎年、予備日も含めて雨にならないかと1週間まえから天気予報を気にしていたが、カラッと晴れ、マラソン大会はいつも開催される。毎年辛くても、休むこともできずにマラソン大会に出ていた。

そんな私は、高校生になると偶然、本当に偶然マラソン大会のない学校に入学した。
マラソンがないからと喜んでいた9月、強行遠足なるものがあると知った。

強行遠足って何?
先生たちの説明によると1年生は半日、2年生は1日、3年生は1晩中歩くらしい。強行遠足に参加するためにこの学校を選ぶ生徒もいるらしく、学校の名物行事だ。

1年の時はわけも分からず、友達と話しながら楽しく歩くことができた。まあこのくらいなら大丈夫か。

2年の時は自分との戦いだった。去年の強行遠足は楽しかったのに時間が長くなり、距離が伸びた分、歩けば歩くほど疲労がたまり、足が上がらなくなる。最後は意地で歩いた。

3年は高校生活最後の強行遠足だ。去年、半日完走できなかった私は何としても朝まで歩いて学校に戻って来たかった。
朝9時に学校を出発。始めは1年の時と同じように友達と歩いていたが、口数は少なくみんな真剣だ。だんだん自分のペースとなっていくため、2年の時と同じように1人で歩くことになる。

秋とはいえ、日が登り切りお昼近くなると日差しが強くなり、ますます体力が奪われていく。沿道では恒例行事を見ようと集まる近所の人たちや父兄の姿があり、飲み物や食べ物を配ってくれる。沿道の人の応援を力に変えて、1歩1歩進んで行く。

午後から山道となり峠を越えて学校を目指すこととなるが、峠では今までの疲労が足にのしかかり、足が重く坂道が壁のように見える。自分の息づかいと足元のアスファルトしかない時間だ。

峠を越えれば平坦な道が学校まで続くが、もう辺りは真っ暗だ。少ない街灯と首から下げているライトだけが道を照らしている。でも、私の前にも後ろにも同じような光がいくつも見える。みんな歩いているのだ。私も頑張らないと。

徐々に辺りが明るくなってきた。朝9時までには学校に戻らないと完走にはならない。
制限時間も近づき、学校の正門までもう少しのところで、先にゴール友達が迎えに来てくれた。友達の顔を見たら、足が痛いこと、坂道が苦しかったこと、でも応援がうれしかったこと、いろいろなことが思い出され急に涙が溢れ出した。おえおえ泣きなが友達と肩を組みゴールし、マラソン嫌いな私の高校での強行遠足は終わった。

もうあんなに長い距離を歩くことはないだろう。

11/30/2024, 2:01:28 PM

泣かないで

12月に入るころ、志望校のランクを1つ上げたいと担任に言った時、担任は辞めた方がいいと否定的だった。
それでも、家の経済事情を考えると私立の高校には行けないと思った。
10才の時に父が亡くなり、母と弟と私の3人での生活が始まった。母は毎日、遅くまで仕事で家にいることがなかったため、学校から帰ってくると弟は洗濯物をたたみ、
私は夕食を作り母を助けていた。私は家事をやりながらそれなりに勉強していたが、学力足りず、県立高校には行けないと思っていた。母にもそう言ってあったし、母も納得していると思っていた。

三者面談の時、委員会のため私だけ遅れてしまい、担任と母の話しを立ち聞きしてしまった。いつも笑顔の母の悲しそうな声が聞こえてきた。

「県立は無理ですか?県立に入れるように指導して下さい。私立はお金がかかる。」

「お母さん。気持ちは分かりますが、娘さんは県立の偏差値に達していませんよ。」

「でも、でも。先生何とかして下さい。
私たち生きていけなくなります。」

母は泣いていた。
私が始めて見た母の姿だった。それに生きていけないってどういうことだろう。
あとで分かったが、父には借金があり、母が返済していたのだ。

私は何も知らなかった。母を手伝っている気になっていただけたった。

「お母さん。私。高校行かないで働く」
「え?何言ってるの」
「だって、家、お金ないでしょ」
「辞めなさい。大丈夫よ。」

母は私が中卒で働くことを許してくれなかった。私に残され道は県立高校に行くことだけだ。

「みっちゃん。勉強教えてくれない。どうしても県立高校に行かないとならないの」

「勉強。いいけど。どうした。」

幼馴染のみっちゃんの学力は学校で1番だ。理由を話し、一緒に勉強を始めた。

毎日夕食を作り、3人で食べて片付けをして8時から12時まで勉強をした。休日はみっちゃんと図書館で1日中勉強をみてもらった。

「ごめんね。みっちゃんの邪魔して」
「いいよ。私の復習にちょうどいいしね」

試験当日は寒い日だった。
朝から落ち着かなっが、試験会場で椅子に座ると不思議と落ちついてきた。やれることはやった。大丈夫だ。

「おーい。試験どうだった〜。」

「みっちゃんは大丈夫そうだね。私も頑張ったから大丈夫だよね。」

「当たり前じゃん。」

試験結果は合格!
私は県立高校に合格した。

「やったねー。やった。良かったよ〜。
うれしい。うれしいよ〜。」

「なんでそんなにみっちゃんが泣いてるの。泣かないでよ。」

「だって、だって。うれしいんだもん。
凄く頑張ったの知ってるしうれしいよ〜」

私のために「良かった」と泣いてくれる友人がいてくれる。合格できたことは勿論うれしいが、合格を一緒に喜んでくれるみっちゃんがいてくれたことが1番うれしい。

みっちゃんとは別の高校になってしまったが、今でも1番の親友だ。

11/29/2024, 1:28:11 PM

冬のはじまり

こんばんは。◯◯動物園の広報を担当しています榊原と申します。
今日は我が動物園の冬の風物詩についてお知らせします。季節は進みもう12月です。
寒い季節になると温かい温泉が恋しくなりますが、温泉に入りたいと思うのは人間ばかりではありません。冬のはじまりを告げる冬至とともにカピバラが温泉にはいるようになります。
寒さが苦手なカピバラにとって温泉は温まるだけでなく、癒し効果があります。そのための温泉に一度入ると何時間でも出てきません。温泉でほっこり、ゆったりとくつろいでいる姿が見られ、こちらの心も温まります。

「ママ〜。カピバラさんがいる。お風呂入ってるよ。僕も一緒に入る。」

「こらこら。服は脱がないで。あのお風呂はカピバラさんで満員だから、拓ちゃんが入ったら、一匹カピバラさんが入れなくなるのよ。寒いでしょ。かわいそうねぇ。」

「寒いのかわいそうだねぇ。僕見てるだけにするよ。」

「拓ちゃん。えらい。えらい。」

動物園にお越しの際は、カピバラ温泉だけでなく、ふれあい広場にもいらして下さい。ふれあい広場ではウサギにモルモット、亀があなたの来園をお待ちしております。カピバラも見ているだけで癒されますが、ウサギたちをモフモフすれば、ちょっとイヤなことがあっても忘れることができます。

可愛い動物たちにぜひ会いに来て下さい。
待ってま〜す。

以上。
広報担当の榊原ばらがお伝えしました。

11/28/2024, 2:09:47 PM

終わらせないで

宇宙は広い。
小さい頃からスペースサッカーの神童と呼ばれ、サッカーでは誰にも負けたことがなかった。小学生で名門チームの下部組織に所属し、高校生の時にはトップチームでレギュラーとなっていた。トップチームでもエースストライカーとしてチームの勝利に何度も貢献してきた僕は、スペースサッカーに嫌気がさしていた。
何をやっても上手くいきすぎて面白くない
のだ。

そんな僕のドリブルの足元からボールを奪い取った選手ガいた。今まで、ドリブルを止められたことなどない。
奴のチームは名門でもなんでもなく、人類とスペースノイドが混ざったいわゆる雑草チームだ。奴だけでなく正確なアーリクロスを上げてきた奴もクロスの精度は名門のそれと変わらない。分からないものだ。

僕が井の中の蛙だったとは思ってもみなかった。宇宙は広い。この試合、思い通りに行っていないが、それでも楽しい。
あと10分で試合終了の笛がなってしまう。
まだまだ試合がしたい。終わりたくない。
終わらせないで欲しい。
今まで水の中で、もがき苦しんでいたが、やっと息のできる場所にたどりついたのだ。

最後のコーナーキックで蹴ったボールは、ゴールキーパーの手をかすめ、弧を書くように曲がった。しかし、ゴールポストに弾かれ点数にはならなかった。あの双子のセンターバックの1人が足を出したのか。僕の弾道を変えるなんて誰もできなかったことだ。

僕たちのチームは雑草チームに負けた。負けチームのエースストライカーは、点数が取れなかった責任を取らなければならない。僕は名門チームを辞めた。蛙が川に飛び出したのだ。

明日からは雑草チームのエースストライカーとしてスペースサッカーを続けて行こう。僕の知らない世界が広がっている。

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