たやは

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光と闇の狭間で

父さんが古道具屋で古いタンスを買ってきた。そのタンスを見て母さんは呆れていたが、私も父さんと同じで凄く気になるタンスだった。父さんの部屋に置かれたタンスの引き出しを開けると中には、ちりめんのウサギが置かれていた。そのウサギは片方の目が取れ、両方の耳が破れ中の綿が出ていて、余りにも可愛そうだった。
ちりめんウサギを自分の部屋に持ち帰り、取れてしまった目に同じようなボタンをつけ、耳も縫いなおした。

その日の夜、ちりめんウサギの夢を見た。そうだこれは夢だ。

「私の顔をなおしてくれてありがとう。私は光と闇の狭間で未来の番人をしている者だ。」

未来の番人?
あのちりめんのウサギだ。面白い夢。

「人の未来は魂の行き先できまる。魂が光の世界に行けば、その人の人生は成功に彩られ、闇の世界に行けば、息をするのも苦しいほどの暗く辛い人生となる。
狭間の世界は人の未来を降り分ける世界で、その降り分けをしているのが私たち番人だ。」

光の世界と闇の世界なんで聞いたことがない。やっぱり夢だ。

「光と闇の世界だけでなく、他にも世界はある。年中風が吹き時代の先端を生きる人となる風の世界、雨が多くジメジメとした森の世界などたくさんの世界がある。しかし、1番幸せなのは光の世界だ。お前には特別に光の世界に行くチケットをやろう。」

どうして?

「私をあの狭く暗い場所から私を救い出してくれたからさ。そのお礼だ。そのチケットがあれば光の世界行きの列車に乗れる。光の世界は幸せが約束されている世界だ。」

でも光の世界に行ったら、ここでの生活ができなくなるの?私は父さんと母さんとここで暮らしたい。

「それぞれの世界に行くのは魂だけ。生活は何も変わらない。ただ、魂が光の世界に行けば、生活も豊かになり、やること全てが成功するのさ。お前も光の世界を望むだろう。」

私たち家族は決して裕福ではないけれど、笑い声の絶えない母さんと気弱だけど優しい父さんがいる穏やかな家庭だ。自然溢れるこの村でこのまま生活していきたい。

「私の本当の未来の世界はどこですか?」

「本当の世界?あー。お前は自然と共に生きる土の世界だよ。土の世界で畑を耕し生きていく。そんな世界さ。さあどうする。」

会社を辞めて就農した父さんを手伝い、高校を卒業してからさまざまな野菜を作り出荷している。これかもそんな生活が続く。

「光の世界には行きません。私はこのままで幸せです。」

「そうか。お前が決めたことだ構わないよ。ただ、1つだけ約束をしょう。自分の選択したことを後悔をしないように生きなさい。破れば全てを失うことになる。気をつけなさい。」

そこで目が覚めた。ちりめんウサギとなんか話した気がするがあまり覚えていないけど、なんかリアルな夢だった。
それからも、なぜかちりめんウサギは私の側にあった。結婚して子供が産まれ、夫も作物を作っていたのでそれを手伝う私と一緒に生活しているようであった。

その年は例年になく長雨が続き、雨が終われば暑い夏となった。作物は育ちが悪くほとんどダメになってしまった。夫はいつもイライラして私や子供にあたることが増え喧嘩ばかりだ。

「お前!あのウサギの言う光の世界とやらに行け!そうすれば金持ちになれるだろ。」

私がちりめんウサギの招待を断ってしまったことが間違いだったのか。
でもあれは夢だ。でもでも、あの時もし光の世界に行くと言えば、私たちの生活は違っていたのだろうか。

急に辺りが暗くなり、目の前にちりめんウサギが立っていた。

「お前は後悔しているのか。あの時の選択を変えたいか。」

後悔…。
父さんと母さんとの穏やかな生活。今は喧嘩ばかりだけど、働き者の夫との結婚、そして出産。子供との優しい生活。お金では買えな物ばかりだ。これから生活が苦しくても仲良く楽しく生きていければいい。

「後悔していません。私は私の人生を私の足で歩いています。これからもそれは変わりません。」

「そうか。ならば良い。何か正しいかなどないのだから。」

それから夫とは離婚を決めた。今は私が畑を耕し作物も作っている。裕福ではないけど近所の農家さんに助けてもらいながら子供と2人楽しく生活している。

狭間の世界の番人ってなんだろう?今でもよく分からないけれど、私はこれからも自分で選択しで生きていく。ただそれだけ。

12/3/2024, 12:24:08 AM