たやは

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11/10/2024, 10:59:41 AM

ススキ

僕の生まれた村は、たくさんのススキにぐるっと囲まれた小さな村だ。昼間は太陽の光に照らされ黄金色に、夜は月の光で銀色になる。黄金色も銀色もとっても綺麗で、秋になるのを村を人たちは楽しみしている。僕もススキが大好きだ。

秋の昼過ぎ、僕は母さんに頼まれて隣り町におつかいに出された。隣り町までは、ススキの原っぱを抜け、橋を2つ渡った先にある。僕の足でもおつかいを済ませ帰ってくるまでにそれほど時間は掛からない。
ただ、出かけるとき母さんから「帰りにススキの原っぱを通る時、誰かに声を掛けられても絶対に振り向いては駄目よ。約束できる。」と言われた。
誰が声をかけるのかな?
母さんの顔が笑っていなくて心配そうだったから分かったと答えた。そんなに遅くならないし大丈夫。

ススキの原っぱを出て、橋を渡り順調におつかいを済ませることができた。帰ろう。

ボツボツ

雨が降ってきた。このまま帰ったらおつかいの品が濡れてしまうし、通り雨かもしれない。雨宿りしてから帰ろう。

雨が上がると夕闇が迫ってきていて、だいぶ時間が経ってしまったらしい。急いで歩き出す。もう少しでススキの原っぱだ。

「おーい。坊主。忘れ物だよ。」

え?忘れ物?
驚いて振り向うとした時、ススキの原っぱの方からも声がした。

「振り向いてはダメ。約束したでしょ。」
「さあ。走って。早く帰らないと」
「お母さんが待っているわ」

そうだ。母さんとの約束。
僕は走り出す。

「坊主。待て。待て。そんなに走ったら転ぶぞ。」

あの声があとから追いかけてくる。

「待ちなさい。父さんだ。一緒に帰ろう」

え?父さん?
確かに父さんの声だ。

「ダメよ。」
「さあさあ。前を向いて走って。」
「私たちが守ってあげるから。走って。」

ススキが一斉にざわざわと大きな音をたて揺れ始めた。
そうだ。父さんは出稼ぎに行っていて、こんな時期には帰ってこない。あの声だ。
早く、早く、ススキの原っぱを抜けないと。捕まる。あの声に捕まる。

僕はススキたちの声に励まされながらススキの原っぱを走り抜け、村に入り急いで家の玄関を開けた。

「ただいま。母さん!」

「おかえり。遅くなったから心配してたのよ。誰かに呼び止められなかった。

「大丈夫。ススキが守ってくれたから。」

この村はススキに守らている。外の世界は色んな魔物が住んでいて、特に人間と言う魔物が一番怖い。人間に声を掛けられても決して振り向いてはいけない。捕まってしまえば見世物小屋に売られてしまうから。僕らはススキに守ら静かに暮らしていたいだけ。

11/10/2024, 1:19:47 AM

脳裏

「痛っ〜。」

ハンドボールの試合中にもろ頭にボールが当たった。ゴールキーパーだから仕方がないと言えば仕方かない。

ん?俺は誰だ?
あーあ。高校2年ハンドボール部キーパーで副部長だ。間違いない。
でも、俺は大正時代の将校だった。
将校って。厨二病かよ。イヤ。これは前世の記憶で、確かに俺は陸軍将校だった。
あー、頭痛てなぁ。
さっきボールが当たった時に全てを思い出した。本当の俺を取り戻した。

あの時、俺は陸軍の研究所で生物化学兵器の実験をしていた。今でも物理や化学は得意だ。
あと少しで生物化学兵器が完成するという時に、上層部から待ったがかかった。軍の穏健派なんて呼ばれている奴らが、生物化学兵器は人の倫理に反するとかいちゃもんをつけて来て、俺は投獄された。

俺は獄中で死んだんだっけ?
なんで投獄されなければならないのか。俺はお国のために、戦争に勝つため兵器の開発を行っただけなのに。

今の時代は平和ボケしているし、戦争なんて遠い国話しだ。けど、俺の今はこの世界だ。前世の記憶があるからと言っても何のメリットもないか。

「おーい。キーパー。大丈夫か〜。」

大丈夫ではない。頭痛ていわ!

ふと脳裏に浮かんだのは女の人。懐かしい人だった。将校だった俺が、ただ1人愛した人だ。俺たちは婚約していた。1年後に結婚する約束もしていたが、俺が投獄されたため婚約は破棄されたはずた。
俺が前世を思い出したように、あの人もこの世界に生まれ変わっているかもしれない。前世持ちかもしれない。

いつか会いたい。
会えるだろうか。俺があの人の面影を覚えていれば会える日がくるかもしれない。

そうか。あの人に会うために俺は前世の記憶を取り戻したのだ。探しに行こう。
あの人に会うために。

11/8/2024, 10:49:05 AM

意味がないこと

寒くなってきたので暖房器具を新しくしたが、母はスイッチも入れられず、寒い寒いと言っている。スイッチいれられないならなんの意味もない。

前に使っていた古いストーブを出した。年老いた母は、「あんたに怒られてばかりだよ。早く死にたい」と言う。

誰しもが年を取り衰えていく。簡単に使いこなせる最先端の器具がないのだろうかといつも思う。

11/7/2024, 7:59:51 PM

あなたとわたし

「ただいまから第3ゲームを始めます。参加される方はコートの中にお入り下さい。なお、次のステージに進める方は5名となります。繰り返します…」

このゲームも第3ゲームとなり、50名近くいた参加者も11名となった。俺もなんとか残っているが、次はどうなるか分からない。このゲームの賞金は1000万円。もちろん、裏の世界のゲームだから、負ければ臓器を売られ、闇金で金を限度まで借りさせられ、生活保護の金までむしり取られる。まさに生き地獄。本当に賞金が貰えるかも分からないが生きるために金が欲しい。まだ死にたくない。ゲームに勝てばいいだけのことだ。

第3ゲームは自分1人では勝てないゲームで、仲間を集め協力して攻略していかなければならない。
しかし、次の第4ゲームを考えると俺より腕っぷしの強いやつ、頭の切れるやつと組んでしまうとそいつらが残り、次で負ける可能性出てくる。できるなら、次に残るやつは俺より弱いやつのほうがいい。かと言って、第3ゲームで弱いやつと組めば負ける可能性もある。どうすればいいかのか、仲間を見極める必要がある。

「ねぇ。私と組まない。あたなとわたし いい組み合わせだと思うわよ。勝ちたいなら私と組んだほうが得策よ。」

本当にそうだろうか?

このゲームに勝ち残る最善の方法を導き出せ、時間はない。
立ち止まるな。考えろ。

俺は絶対に金を手にして見せる。

11/6/2024, 11:21:01 AM

柔らかい雨

雨が降ると子供たちは外で遊べなくなる。この保育園では雨が降ると室内で絵本を読んだり、歌を歌ったり、粘土工作したりして1日を過ごす。それでも子供たちは外遊びが好きだ。

「あめ、やまないかな。」
「外で遊びたい〜。」
「遊びた〜い〜。」

そんな時は、てるてる坊主の出番だ。

「早く、あめがやみますように。」
「てるてる坊主さん。晴れにしてね。」

秋の雨は台風のせいか強い激しい雨が多く、あまりに強い雨の時は半日保育となり給食を食べたら子供たちを帰宅させることになっている。
今日の雨は弱く柔らかい雨だ。

こんな優しい雨の時は、雨の音がが子守唄となりお昼寝の時間には、いつもより早く子供たちが眠りに誘われていく。最後に起きている保育士だけとなり、静寂な空間が広がる。
1時間もすれば子供たちが目覚め、お迎えの時間となるが、まだ雨はやまない。

お父さん、お母さんに連れられ子供たちが傘をさして帰っていく。色とりどりの傘の花が次々と咲くように開き心和む時間だ。

雨の日も悪くない。

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