たやは

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ススキ

僕の生まれた村は、たくさんのススキにぐるっと囲まれた小さな村だ。昼間は太陽の光に照らされ黄金色に、夜は月の光で銀色になる。黄金色も銀色もとっても綺麗で、秋になるのを村を人たちは楽しみしている。僕もススキが大好きだ。

秋の昼過ぎ、僕は母さんに頼まれて隣り町におつかいに出された。隣り町までは、ススキの原っぱを抜け、橋を2つ渡った先にある。僕の足でもおつかいを済ませ帰ってくるまでにそれほど時間は掛からない。
ただ、出かけるとき母さんから「帰りにススキの原っぱを通る時、誰かに声を掛けられても絶対に振り向いては駄目よ。約束できる。」と言われた。
誰が声をかけるのかな?
母さんの顔が笑っていなくて心配そうだったから分かったと答えた。そんなに遅くならないし大丈夫。

ススキの原っぱを出て、橋を渡り順調におつかいを済ませることができた。帰ろう。

ボツボツ

雨が降ってきた。このまま帰ったらおつかいの品が濡れてしまうし、通り雨かもしれない。雨宿りしてから帰ろう。

雨が上がると夕闇が迫ってきていて、だいぶ時間が経ってしまったらしい。急いで歩き出す。もう少しでススキの原っぱだ。

「おーい。坊主。忘れ物だよ。」

え?忘れ物?
驚いて振り向うとした時、ススキの原っぱの方からも声がした。

「振り向いてはダメ。約束したでしょ。」
「さあ。走って。早く帰らないと」
「お母さんが待っているわ」

そうだ。母さんとの約束。
僕は走り出す。

「坊主。待て。待て。そんなに走ったら転ぶぞ。」

あの声があとから追いかけてくる。

「待ちなさい。父さんだ。一緒に帰ろう」

え?父さん?
確かに父さんの声だ。

「ダメよ。」
「さあさあ。前を向いて走って。」
「私たちが守ってあげるから。走って。」

ススキが一斉にざわざわと大きな音をたて揺れ始めた。
そうだ。父さんは出稼ぎに行っていて、こんな時期には帰ってこない。あの声だ。
早く、早く、ススキの原っぱを抜けないと。捕まる。あの声に捕まる。

僕はススキたちの声に励まされながらススキの原っぱを走り抜け、村に入り急いで家の玄関を開けた。

「ただいま。母さん!」

「おかえり。遅くなったから心配してたのよ。誰かに呼び止められなかった。

「大丈夫。ススキが守ってくれたから。」

この村はススキに守らている。外の世界は色んな魔物が住んでいて、特に人間と言う魔物が一番怖い。人間に声を掛けられても決して振り向いてはいけない。捕まってしまえば見世物小屋に売られてしまうから。僕らはススキに守ら静かに暮らしていたいだけ。

11/10/2024, 10:59:41 AM