あなたとわたし
「ただいまから第3ゲームを始めます。参加される方はコートの中にお入り下さい。なお、次のステージに進める方は5名となります。繰り返します…」
このゲームも第3ゲームとなり、50名近くいた参加者も11名となった。俺もなんとか残っているが、次はどうなるか分からない。このゲームの賞金は1000万円。もちろん、裏の世界のゲームだから、負ければ臓器を売られ、闇金で金を限度まで借りさせられ、生活保護の金までむしり取られる。まさに生き地獄。本当に賞金が貰えるかも分からないが生きるために金が欲しい。まだ死にたくない。ゲームに勝てばいいだけのことだ。
第3ゲームは自分1人では勝てないゲームで、仲間を集め協力して攻略していかなければならない。
しかし、次の第4ゲームを考えると俺より腕っぷしの強いやつ、頭の切れるやつと組んでしまうとそいつらが残り、次で負ける可能性出てくる。できるなら、次に残るやつは俺より弱いやつのほうがいい。かと言って、第3ゲームで弱いやつと組めば負ける可能性もある。どうすればいいかのか、仲間を見極める必要がある。
「ねぇ。私と組まない。あたなとわたし いい組み合わせだと思うわよ。勝ちたいなら私と組んだほうが得策よ。」
本当にそうだろうか?
このゲームに勝ち残る最善の方法を導き出せ、時間はない。
立ち止まるな。考えろ。
俺は絶対に金を手にして見せる。
柔らかい雨
雨が降ると子供たちは外で遊べなくなる。この保育園では雨が降ると室内で絵本を読んだり、歌を歌ったり、粘土工作したりして1日を過ごす。それでも子供たちは外遊びが好きだ。
「あめ、やまないかな。」
「外で遊びたい〜。」
「遊びた〜い〜。」
そんな時は、てるてる坊主の出番だ。
「早く、あめがやみますように。」
「てるてる坊主さん。晴れにしてね。」
秋の雨は台風のせいか強い激しい雨が多く、あまりに強い雨の時は半日保育となり給食を食べたら子供たちを帰宅させることになっている。
今日の雨は弱く柔らかい雨だ。
こんな優しい雨の時は、雨の音がが子守唄となりお昼寝の時間には、いつもより早く子供たちが眠りに誘われていく。最後に起きている保育士だけとなり、静寂な空間が広がる。
1時間もすれば子供たちが目覚め、お迎えの時間となるが、まだ雨はやまない。
お父さん、お母さんに連れられ子供たちが傘をさして帰っていく。色とりどりの傘の花が次々と咲くように開き心和む時間だ。
雨の日も悪くない。
一筋の光
暗く狭い洞窟の中を這うよにして進み続け2日。体力的にも精神的にも限界を向かえ、自分がどこにいて何をしているのか曖昧になり始めいた。
ああ。そうだ。自分はカメラマンで、この洞窟の最奥にあるパルテノン神殿と呼ばれている場所を目指していたんだ。パルテノン神殿がどんな場所なのかはよく知られていない。洞窟の奥にあり、そこまで行くのに何日かかるのか、地図があるわけでもなく真っ暗な中を自分のベッドライトだけを頼りに進んで行く。
ただ1つ、神殿の入り口には洞窟の天井から一筋の光が伸びていて、そこだけほんのりと明るくなっていると聞く。まだ、明かりは見えない。
水の音がするが地底湖だろうか。洞窟の中で水は行く手を阻み、体温を奪う。寒い。
「おーい。こんな地下に滝があるぞー」
パートナーを組んでいた先輩の声が聞こえる。やっと下まで降りてきたが、どうやらこの滝を登ることになるらしい。
水を被り、滝の横をカルビナとロープ一本で登りながら考える。何で洞窟に入ったのか。バルテノン神殿は本当にあるのか。それを写真に収めることに何の意味があるのか。あー、寒い。
滝を登りきると光が見えた。バルテノン神殿の目印。やっとやっとたどり着いた。
そこには大空間が広がり、白い鍾乳石があちこちでつらら状になり、神殿の氷柱のようになっていた。まさに白いバルテノン神殿が佇んでいた。
洞窟から帰り都会で写真展を開いた。洞窟の写真だけでなく、田舎の風景、人物の笑顔の写真を展示した。目玉はもちろんバルテノン神殿だ。来場してすぐの真ん中に展示した。
「わあー。すごい。綺麗ねぇ。」
「何これ!青いお白。ディズニーみたい」
来てくたさる方たちの驚きと笑顔が見れてあの時の苦労が報われた気持ちだった。
哀愁を誘う
いつまでもも暑い日か続き、秋はどこへ行ったのかと思いたくなるほど強い日差しが肌に当たり痛い。まだまだ半袖で街を歩いても何の問題もない仕事帰り。夕飯の買い物を済ませてスーパーを出たところで辺りが暗くなっていた。日中は暑いが、暗くなる時間が以前より早く、このころには気温も少し下がってきてなんとなくの薄暗らい夕日が哀愁を誘う。
そんな夕日を見ていると昔を思い出す。まだ、私が高校生だった頃、私は隣りの席の彼に恋をしていた。遅い初恋だ。
彼は野球部の主将で、男女問わず人気がありモテていた。
隣りの席の地味な私に対しても普通に話しかけ、会話の仲間に入れてくれる気づかいのできる優しい人だった。
彼の率いる野球部は、その年、甲子園出場をかけて県大会の決勝戦に望んでいた。
9回2アウト、二塁。彼がホームランを打てば逆転で優勝どなる。
応援のみんながかたずを飲む中、相手ピッチャーが投げる。判定はボール。
2球目はストライクだか、彼のバットは空を切った。空振りだ。
3球目もストライクコース。ボールはバットに当たって高く舞い上がり、キャッチャーミットに収まった。
スリーアウト。試合終了だ。我が高校は負けて準優勝で終わった。
試合終了の合図が鳴り、両校の生徒の挨拶も済んだため、応援の人たちも帰り始めていた。それでも彼はバッターボックスの前に立ち尽くし、いつまでもホームベースを見ていた。彼の顔は涙に濡れ、声も出せずに泣いていた。
「よく頑張った。」
「いい試合だったよ。」
パチ パチ。パチ。パチ。
帰り始めていた応援の人たちが、彼に向かって声をかけ、知らず知らずのうちに至る所から拍手が巻き起こっていた。
夕日に照らされていた彼がようやく顔を上げ、野球部の仲間たちと1列に並び観客席に向かって応援のお礼の挨拶をした。
私たちは負けた。けれど、私たちは野球部と同じ時間を共有することで、青春と言うかけかえのない時間を手にすることができたのた。野球部にも彼にも感謝しかない。
あれから十数年の月日が経ったが、あの夕日に照らされた彼の姿を忘れることはできない。試合には負けたが彼はヒーローだ。
そのヒーローは今、なんてテレビ番組のタイトルのようだが、私の家のリビングのソファに寝転がりスマホを見ている。
本当に同じ人物かと疑いたくなる程に丸太のような体をソファに投げ出している。
私の青春を返せ!
青春は幻。哀愁なんて言葉が全く似合わない夫がそこにいる。
鏡の中の自分
鏡の中に映るご自分の顔は笑っていますか。怒っていますか。ああ。あなたの顔が笑顔かどうかで決まると思っていますか。それは誤解です。
鏡は真実を映す物。あなたが笑っているからと言って、鏡の中のあなたも笑っているとは限らないこともあるのです。その笑顔は真実ですか。
時に雲外鏡なる物を知っていますか。妖怪の正体や妖術を照らし出す鏡と言われ、かの西遊記にも三蔵法師に化けた妖怪の真の姿を暴くために使用されています。
この雲外鏡、とある神様が所有されていたのですが、罰当たりなことに何者かによって持ち去られてしまいました。今はどこにあるのか分からず、所在不明となっております。まあ、罰当たりにはいずれそれなりの天罰が下ることでしょう。
問題は雲外鏡が外に持ち出されたことです。もし雲外鏡が妖怪の手に渡れば、人間を騙したいと思っている妖怪にとっては邪魔なものでありますから、いつか壊されるかもしれません。それは本当に困ります。神様から無傷で戻すように言われておりますゆえ、壊れましたでは許されないのです。神様つきの役人としては由々しき事態です。
そして、雲外鏡が妖怪ではなく人間の手に渡れば、その人間の真の姿が見えてしまいます。その姿は人間の形を保つことができているのでしょうか。形の崩れた姿の自分を見た人間は、人間の心を保つことができるのでしょうか。神様は優しい方ですので、人間たちのことをいたく心配されておりました。
妖怪の手に渡っても、人間の手に渡っても問題となる鏡。それが雲外鏡です。
もし、どちらかで見かけた際には、鏡を覗くことなく、私共にご連絡下さい。
さすれば、あなたの秘密は守られます。