カーテン
私と世界を隔てている布。
引きこもりの私の世界は家の中だけ。繋がりがあるのは知らない人のYoutuveだけで、狭い狭い世界。でも、私にとってはこれが全て。私の世界だ。
私と世界の境目の布。
この布の向こう側は、光に溢れた世界。
私にとっては、未知で寒くて辛い世界だった。だから、私の世界に引きこもり生きている。眩しすぎる世界。
私と世界は薄い布で仕切られているだけ。
カーテンを開けることができるだろうか。
私は私の世界を狭めてはいけない。
私も世界と繋がっていきたい。
カーテンを開けてみよう。
思ったより優しくて、温かい光が差し込んてくるはず。
涙の理由
この田舎の中学校に赴任して弱小と呼ばれるテニス部の顧問になって3年が過ぎた。
中体連では1勝もできずに終わることが何回もあったが、今年の試合は違った。
試合には勝てなかったが、キャプテンである彼女は試合後に控え室で涙を流していた。
彼女の涙の理由
「どうして泣いているの?負けるのはいつものことでしょ。あなたたち。負けても笑って終わるでしょ。」
涙の理由は分かっていた。今年は毎日、毎日、暗くなるまでボールを追いかけていた彼女。1勝するために人一倍練習をしてきた。勝てなかったことが悔しくて悔しくて仕方がないはずた。
でも、今までは負けても「私たち弱いから」と諦めていたのになぜテニスに対する姿勢が変わったのか知りたかった。
だから、あえて訪ねる。
「どうして泣いているの?」
「勝ちたかった。隣町の幼馴染に弱いチームいて可愛そうって言われました。3年間無駄に過ごして楽しいかって。私は可愛そうなんて思われたくありません。」
「そう。でも、あなたたちテニスに対して真剣ではなかったわよね。勝てなくても諦めてたでしょ。」
「でも、でも、先生は私が試合に勝てるように考えてくれて、母も試合の時はお弁当を一生懸命作ってくれたり送り迎えもしてくれた。それなのに私は中途半端な部活動をしていました。それがすごく申しわけなくて。だから、試合に勝ってみんなの期待に応えたかった。誰にもバカにされたくなかった。ごめんなさい。先生。試合に勝てなくて、いい加減な練習ばかりして。悔しい。悔しいです。」
中学生の彼女は変わった。
試合に負けたが、周りの期待に応えるためには時には忍耐力や努力が必要なこと、そして何より試合に関わった人たちに感謝する気持ちが大切であることを彼女は学んでいた。人は1人では生きていけない。個人競技の試合であっても1人では何もできず、みんなの支えがあってこその自分に気づくことができていた。
「悔しいね。先生も悔しい。3年生のあなたは中学での試合はないけど、あなたはこの試合ですごく成長することができました。人との関わり方を学べました。もし、高校でもテニスを続けるなら、今まで以上に練習しないとね。周りへの感謝を忘れずにテニスと真剣に付き合っていけば強くなれる。あなたなら大丈夫。頑張って。」
彼女は涙を拭い、本当の笑顔で試合会場をあとにした。
今、彼女はウィンブルドンに挑戦しょうとしている。私はそのコーチとして観客席から彼女の勇姿を見守っている。
ココロオドル
明日から夏休み。友達と初の海外旅行に出かける予定だ。今は円高のため、旅費も滞在費もそれなりににかかるが、少し奮発して旅に出ることにした。。今年1年かけてお金を貯めた。頑張った。だから、すごく楽しみだし、ココロオドル。
前の日からドキドキして眠れず、忘れ物がないか何度もスーツケースを開けたり閉めたりした。
空港で友達と合理し飛行機へ。もちろん初飛行機。CAさんに見とれ、思わず一緒に写真をとる。
「ビーフorチキン」
機内食も始めてだ。何もかもがココロオドルことばかり。数十時間飛行機に乗り、目的地が近づいてきたが、この空港は、世界一危険な空港として有名な場所だ。
戦場とかそういう意味ではない。
ここは、街の真ん中に空港があるため、高いビルすれすれを飛行機が旋回していく。
ちょっとしたアトラクションなみだ。
イヤ!
命がけになるかもしれない。ココロオドルばかりではいられない。もちろん、飛行機が落ちるなんた思っていないが、あまりにスレスレなので手に汗握る。ドキドキする
。飛行機の翼が当たれば終わりだ。
大丈夫だろうか〜。
叫びたくなるが、グッ都こらえて座席で待機だ。
くぅ~。
良かった。思わず力が入ったが、飛行機は空港に到着した。
飛行機を降りて空港の外へ。扉が開くと
もあっとした空気にさらせれる。
イザ!イザ!魅惑の東南アジアへ。
束の間の休息
ブーブー
「救急ですか。火災ですか」
救急車の1日の出動回数は34件前後。救急車が到着するまでの間は、消防司令室と患者や家族が電話で繋がっている。この間に何ができるかで人の生死が左右されることがある。
ここは司令室。いつも戦場だ。
「救急ですか。火災てすか」
「お父さんが、お父さんが倒れて、いきしていないです。どうしょう。お父さん!」
救急の入電だ。
「落ちついて下さいね。お父さんが倒れているのですね。あなたは娘さんですか
「は、い」
「娘さん。お父さんは息をしていないで間違いないですか。そうしたら胸に耳を当て心臓が動いているか確認しましょう。」
「どうですか。心臓の音がしなかったら、心臓マッサージを始めます。そうです。娘さんがするのです。大丈夫。私の言う通りにやればできます。まずは心臓の位置を確認します。乳首と乳首の真ん中当たりに両手を被せるように乗せて。できていますか。そしたら心臓マッサージをします。大丈夫。私が数を数えますから、それに合わせて心臓をマッサージ、上から押していきますよ。1、2、3、4…」
娘さんによる心臓マッサージがはじまった。救急車か到着するまでは声をかけ続る。電話越しに娘さんの息づかいが聞こえ、不安や恐怖心が伝わってくる。それらの負の感情を少しでも柔らげるように優しく、力強く声をかけでいく。
ピポーピポー
電話越しに救急車のサイレンが聞こえ、救急隊員が部屋に到着したようだ。
「娘さん。救急隊員が到着したようなので電話は切ります。あとは救急隊員の指示に従って下さい。よく頑張りましたね。ありがとうごさました。」
電話が切れても次の入電が入る。司令室にいる以上、さまざまな入電があり気の休まると時はない。それでも、交代で取る真夜中の休憩時間は、まさに束の間の休息でほんの一瞬でも心休まる時間だ。
カップラーメンを啜りながら、さっきの娘さんのことを考える。1つの案件にだけにこだわることはできないが、自分にも老いた父がいるし、いつ倒れてしまうかも分からない。他人事ではない。
近いうちに父に会いに行こう。最近は、仕事が忙しくてなかなか実家に帰ることができなかったから、久しぶりに帰ることにしよう。
朝日が登り始め、やって仕事から解放される。実家に電話をしてから帰ろう。
「父さん。今から帰るよ。」
力を込めて
パン屋の朝は早い。店に着くころはまだ太陽も顔を出さない時間帯たが、この時間から始めても開店時間ギリギリとなってしまうことも多い。
さあ。始めるぞ。
強力粉、薄力粉、ドライイースト、グラニュー糖、塩を混ぜ合わせ、お湯を加えてひとかたまりになったらボールから出して捏ねる。力を込めて捏ねる。捏ねる。
パン生地の塊に濡れた布巾をかぶせて休ませ、その後も2度の発酵、生地が膨らんだら形成してオーブンで焼いていく。
パン生地は柔らかくて暖かく、なんとも言えないシットリとした肌触りが心地よい。何年たっても生地を捏ねると癒される。
ここは自分1人でやっているパン屋のため、たくさんの種類を作ることはできないが、作りたてを提供したいと思っている。
お客さんの「できたて〜」「まだ温かい」
などの言葉を聞くと嬉しくなる。
さあ。パンが焼き上がってきた。
開店準備だ。
朝の暗いうちから1人で始めたパン生地作りは静寂の時間だ。パンが焼き上がり、 店内に香ばしい匂いが立ち込める頃には、パートの人たちが来て賑やかになってくる。パンを並び終えれば開店だ。
チリン。チリン。
さあ。開店だ