束の間の休息
ブーブー
「救急ですか。火災ですか」
救急車の1日の出動回数は34件前後。救急車が到着するまでの間は、消防司令室と患者や家族が電話で繋がっている。この間に何ができるかで人の生死が左右されることがある。
ここは司令室。いつも戦場だ。
「救急ですか。火災てすか」
「お父さんが、お父さんが倒れて、いきしていないです。どうしょう。お父さん!」
救急の入電だ。
「落ちついて下さいね。お父さんが倒れているのですね。あなたは娘さんですか
「は、い」
「娘さん。お父さんは息をしていないで間違いないですか。そうしたら胸に耳を当て心臓が動いているか確認しましょう。」
「どうですか。心臓の音がしなかったら、心臓マッサージを始めます。そうです。娘さんがするのです。大丈夫。私の言う通りにやればできます。まずは心臓の位置を確認します。乳首と乳首の真ん中当たりに両手を被せるように乗せて。できていますか。そしたら心臓マッサージをします。大丈夫。私が数を数えますから、それに合わせて心臓をマッサージ、上から押していきますよ。1、2、3、4…」
娘さんによる心臓マッサージがはじまった。救急車か到着するまでは声をかけ続る。電話越しに娘さんの息づかいが聞こえ、不安や恐怖心が伝わってくる。それらの負の感情を少しでも柔らげるように優しく、力強く声をかけでいく。
ピポーピポー
電話越しに救急車のサイレンが聞こえ、救急隊員が部屋に到着したようだ。
「娘さん。救急隊員が到着したようなので電話は切ります。あとは救急隊員の指示に従って下さい。よく頑張りましたね。ありがとうごさました。」
電話が切れても次の入電が入る。司令室にいる以上、さまざまな入電があり気の休まると時はない。それでも、交代で取る真夜中の休憩時間は、まさに束の間の休息でほんの一瞬でも心休まる時間だ。
カップラーメンを啜りながら、さっきの娘さんのことを考える。1つの案件にだけにこだわることはできないが、自分にも老いた父がいるし、いつ倒れてしまうかも分からない。他人事ではない。
近いうちに父に会いに行こう。最近は、仕事が忙しくてなかなか実家に帰ることができなかったから、久しぶりに帰ることにしよう。
朝日が登り始め、やって仕事から解放される。実家に電話をしてから帰ろう。
「父さん。今から帰るよ。」
10/8/2024, 11:36:03 AM