過ぎた日を想う
アイツと別れてシングルマザーとなって3年が経つ。別れた原因は、アイツの仕事が忙しくなりすれ違いが増えことだ。仕事が忙しくなったのも子供たちにお金がかかるようになってきたのが理由だ。
嫌いでないなら別れなければいいと言われたこともあったが、一緒にいれは些細なことで喧嘩となり、その姿を子供たちに見せるのが辛かった。だから別れた。
別れてからは、2人の子供を育てるシングルマザーとしてがむしゃらに働いた。正社員としての事務の仕事の他にバイトを何件も掛け持ちした。毎日、毎日がしんどくて逃げ出したかった。でも、子供たちの前だけでもいつも笑顔のママでいたかったし、
子供が居たから今まで頑張ってこれた。
来年、上の子が小学生になる。これまでの過ぎた日を想えば辛いことが多かった。それでも、両親や、同じシングルマザーの友達、仕事仲間、町内会長さんにも助けてもらいながら、子供たちの笑い声を糧に頑張ってくることができた。
もうとっくに忘れていたのにアイツが会いたいと言ってきた。私たちはすれ違いだけでなく、アイツが仕事だと言って浮気してのも知っている。今さら何を言っているのか分からない。
それも、送って来た場所は刑務所からだった。刑務所と聞いてもそれほど驚かなかったのは、そうなるかもしれないと前々から思っていたからだ。
もちろん、会うつもりはないし、子供たちに会わせるつもりもない。やっとここまで来たのだから。これから幸せになるのだから。
「よう。久しぶりだな。」
何でアイツが目の前にいるの。どうしてここが分かったの。誰かが知らせたとしか思えない。
周りの人を疑っても仕方がないのは分かっていた。でも今は思考が動かない。
「どう言うつもり。」
「どうって、会いにきただけ。」
「帰って下さい。」
「そう邪険にするなよ。」
アイツの手が私に触ろうとした時、咄嗟に手を払った。払った手がアイツの顔に当たり、アイツの顔がみるみる鬼の形相へと変わる。
「痛ぇ〜。なあ。」
ヤバい。
逃げないと。怪我だけでは済まないことになるかもしれない。慌てて車に乗り込みアイツの横を走り抜けた。
どうしょう。アイツに付きまとわれる。またアイツが現れたらどうしたらいい。
それから車の中に何時間かいたがどうしたらいいのか分からなかった。
子供たちのことを考えると私はまだ死ぬわけにはいかない。
だったらアイツを…
コンコン
車の窓を誰かが叩く。アイツかと思い、ビッくつきながら窓の方を向くと2人のママ友がいた。。
「こんなところで。どうしたの?」
これまでのこと、アイツのことを全て話した。
「大変だったね。そうか〜だったら元旦那をこの町内に来れないようにすればいいかなぁ。」
「そんなことできるの?」
「う〜ん。例えば、私、昔レディースの総長だった人知ってるから、何人かであなたの家をパトロールしてもらうとか。」
「何言ってのよ。やっぱり逃げるしかないかもね。」
「逃げるってどこによ。ストーカーぽしい危ないよ。」
「そうだよね。逃げるにしても遠く。あ!私の弟夫婦、ブラジルにいるのよね。ブラジルどう?」
「ブラジルって遠っ。」
「まあ遠いけど、つきまとうのは無理でしょ。」
2人のママ友はあれやこれやと考えてくれたが、どれも小学生が考えるような小さなイタズラのようだった。
「くす、くす」
「あ、やっと笑った。」
「え?」
「だってそんな顔で子供たち迎えに行けないよ。ほら笑って。それから私たちと警察行こう。これからストーキングの証拠を集めないとね。また、元旦那と会うこともあるかもしれないけど、その時は私も一緒に行くし大丈夫だよ。」
「そうそう。いざとなったらブラジルまで一緒に行こうよ。大丈夫!」
「もう〜まだ言ってる〜」
私はシングルマザーだけど周りの優しい人に恵まれている。子供たちのために幸せを掴むためにも泣いてはいられない。
アイツから逃げる
逃げることは間違いではないし、愚かなことでもない。
勇気ある退避だ。
星座
お題を貰っていろいろ考えたが考えが纏まらず、俳句とか面白そうと思った。思ったからと言ってもすぐに何かが浮かぶはずもない。とりあえず、俳句と言えば「季語」かと安易に考え、調べでみれば当たり前だけどたくさんの季語があった。
「季語」とは、俳句や連歌などで季節を表すもの。短めの言葉だけで季節を表すなんて、なんとも壮大な言葉だった。
今の季節は秋だから、秋の季語を探す。
いくつか季語を調べているとお題の星座に近い季語を見つけた。
〝秋北斗〟
カッコイイ!
なんとカッコイイ季語か。
秋は少しずつ寒くなり空気も澄んてくるため星座を見つけやすくなる季節。そして、カシオペアや北斗七星もだんだん見えてくるらしい。私でもオリオン座とかカシオペアくらいは探せるはすだ。そして、北斗七星はひしゃくの型。昔に習った気がするくらいだ。あとは漫画の読み過ぎた。
季語のことも星座のことも全く知らないが、秋北斗は音の響きがいいように思う。この季語だけで秋の夜空が目に浮かび、秋の夜を見上げて星座を探してみたくなる。
私も俳句をと考えたが、季語が素敵すぎて
とても作れる気がしない。
せっかくだからもう少し俳句について勉強してから挑戦してみたい。
踊りませんか?
1年に一度のよさこい祭りが市内で8月に開催される。私たちのチームは大人から子供まで参加するチームだか、いわゆる町内会チームで、婦人婦や青年部そして子供会が集まりよさこいまでの毎週土曜日は踊りの練習がある。
町内会の行事に参加する人は年々少なくなっているが、「よさこい」だけは募集をかけなくても人が集まって来る。よさこいの魅力は、踊りや音楽に決まりがなくチームごとに自由に選べること。そして踊りが苦手でも音を掴み、みんなに合わせて踊りを覚えれば踊れてしまうこと。つまり、子供からお年寄りまで誰ても踊れるチームパフォーマンスにある。
チームで踊ることは孤独感から解放されチームとしての一体感を産み、みんなでダンスを作り上げていく楽しさがある。
また、鮮やかな衣装やメイクは踊るための小道具として踊り手たちの高揚感をさらに上げていく。
私たちのチームは優秀賞を目指している。
大人数での参加のほうが、規模が大きくなり、見ている人にも圧倒的な質量で踊りを届けることができる。見ている人も楽しんでもらわなければ意味がない。
その規模を考えるとチームとして参加人数がまだ足りない。町内会だけでは賄いきれない。
だから。
私たちと「よさこい」踊りませんか?
一緒に踊ってくれる人を募集します。
年齢、性別は問いません。
楽しく踊ることを目標に「よさこい」に参加する予定です。興味のある方は土曜日に市民体育館にお集まり下さい。
町内放送から私の声が響く。
巡り会えたなら
この雄大な景色を見るためにここまでやってきた。この景色に巡り会うために私は旅を続けけてきたんだ。やっとやっとたどり着くことができた私だけの最終目的地。
大学を中退、仕事にも満足に付かず、アルバイト暮らしを続け、両親にも迷惑をかけてきた。でもでも私大満足だ。
幼稚園のころ動物園で見たゴリラ。黒くて大きくて怖かった。その中でもひときわ体の大きいなゴリラがいて、このゴリラがボスなんだと子供の私にも理解できた。
ゴリラはのっしのっしと歩き回り、ドカッと群れの真ん中に座った。そしてその大きな背中は銀色に輝いていた。
「カッコイイ〜。」
幼稚園児の心の叫び。イヤ、ゴリラの背中に恋した幼稚園児の誕生だ。
それからは動物園を巡り、ゴリラを見て回る生活だったが、しだいに動物園のゴリラでは物足りなくなってくる。野生のマウンテンゴリラ、それもシルバーバックにを見てみたい。本当の野生のゴリラに会うことはとてつもなく大変なことだ。
たしかに、東アフリカの国立公園あたりに行けば野生に近いシルバーバックに会えるかもしれない。でも、それは人慣れされたゴリラだ。
私は本当の野生のゴリラに会いたかった。
探して、探して、巡り会えたならどんなに幸せなことか。
私の旅は始まった。来る日も来る日も泥濘んたジャングルのなかを探し続けたが、なかなかゴリラたちに会うことは叶わなかった。でも、諦めることはできない。
前に進もう。
現地の人もコーディネーターの人もレンジャーも苦笑いを浮かべながら手伝ってくれる。
そして。やっと。
雄大なジャングル中にひっそりといるゴリラの群れを見つけた。さっそく辺りを見回すがボスらしきゴリラはいない。え!いないの。なんで?
その時、大きな木の上から1匹のゴリラがするすると降りてきて、木の根元に背中を向けてドカッと座った。
シルバーバックだ…
やっとやっと会えた嬉しさで声も出さずに泣いてしまった。それから1時間ほどゴリラたちと過ごすしたが、この時間は私にとってかけながえのないのもとなった。
日本に帰ったら、久しぶりに動物園のゴリラ巡りをしよう!
奇跡をもう一度
奇跡なんて起こらないから奇跡なのに、続けてもう一回なんて奇跡中の奇跡だ。
そんな奇跡に出会ったことがある。
小学生の頃の私は、ちっとぽっちゃりしていて運動が大嫌いだった。運動神経がなく、球技もダメ、走ってもダメ。泳ぐのも無理、何をやってもダメだった。
そんな時、鉄棒の逆上がりのテストがあると言われ、途方に暮れてしまった。
本当に困ってお父さんに相談するとお父さんは「毎日練習しょう」といい、毎朝、公園で逆上がりの練習に付き合ってくれた。
逆上がりのコツは、足を大きく蹴ること。
体を鉄棒に引き寄せ、おヘソを見るように丸くなるなどかある。毎日、毎日、鉄棒をつかみ地面を蹴って逆上がりの練習をした。練習を始めて2週間ぐらい経つた頃、強く蹴った勢いのままに体がクルッと鉄棒を回った。
「できた〜!」
嬉しさのあまりお父さんに抱きつき、「ヤッター。ヤッター。」と飛びはねていた。
お父さんも「良かったなぁ。よくやった。」と一緒に喜んでくれたのに姉は「奇跡じゃん」とゲームをやりながら言った。
奇跡でも何でも逆上がりができたことには変わりがないが、本番までに何回もできるようになりたい。
逆上がりのテスト当日。
朝からドキドキして落ち着かず、お腹が痛くなったり、吐き気がしたりずっと調子が悪かった。それでも順番はやってくる。
大きく深呼吸をして、奇跡でもいいからもう一度だけ逆上がりができますようにと祈りながら鉄棒につかまる。
結局、逆上がりはできなかった。
やっぱり奇跡だったのだ。そして奇跡なんて何回もないから奇跡なんだ。
次の日に担任の先生に呼び出された。
「昨日は逆上がり頑張りましたね。先生ね。あなたが毎日、逆上がりの練習をしているのを知っているよ。一回だげ、逆上がりができたことも知っています。テストでは逆上がりはできなかったけれど、毎日練習を頑張ったね。素晴らしいです。だからね、テストは合格にします。」
え!テスト合格!
逆上がりのテスト合格だって。
「本当ですか。ありがとうございます。」
先生にお礼を言って職員室を出た。
なんだか嬉しくってスキップしたいくらいだ。奇跡って本当に起こるんだ。びっくりだよ。でも、どうして先生は私が朝に練習しているのを知っていたのだろうか。
まあ、いいか。
奇跡は起こる。
何年かして、先生に私が逆上がりの練習をしていることを言ったのは姉である事が分かった。一回だけ逆上がりができた時に、「奇跡」とか言ってバカにしているようだったが、姉として心配していたように思う。本当は優しいお姉ちゃんなのに、素直ではないところは大人になってもちっとも変わらない。
あの逆上がり合格は奇跡だったか分からないが、私が練習を始めこと。いつもは三日坊主なのに毎朝逆上がりの練習をしたこと。面倒ぐさがりなお父さんが毎日付き合ってくれたかと。姉が先生に知らせたこと。あれやこれやが積み重なり奇跡が起きた。でも、自分で頑張ったから奇跡が起こせたのだと思う。
奇跡を起こした自分を褒めたい。かな。