たやは

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奇跡をもう一度

奇跡なんて起こらないから奇跡なのに、続けてもう一回なんて奇跡中の奇跡だ。

そんな奇跡に出会ったことがある。
小学生の頃の私は、ちっとぽっちゃりしていて運動が大嫌いだった。運動神経がなく、球技もダメ、走ってもダメ。泳ぐのも無理、何をやってもダメだった。
そんな時、鉄棒の逆上がりのテストがあると言われ、途方に暮れてしまった。
本当に困ってお父さんに相談するとお父さんは「毎日練習しょう」といい、毎朝、公園で逆上がりの練習に付き合ってくれた。

逆上がりのコツは、足を大きく蹴ること。
体を鉄棒に引き寄せ、おヘソを見るように丸くなるなどかある。毎日、毎日、鉄棒をつかみ地面を蹴って逆上がりの練習をした。練習を始めて2週間ぐらい経つた頃、強く蹴った勢いのままに体がクルッと鉄棒を回った。

「できた〜!」

嬉しさのあまりお父さんに抱きつき、「ヤッター。ヤッター。」と飛びはねていた。
お父さんも「良かったなぁ。よくやった。」と一緒に喜んでくれたのに姉は「奇跡じゃん」とゲームをやりながら言った。
奇跡でも何でも逆上がりができたことには変わりがないが、本番までに何回もできるようになりたい。

逆上がりのテスト当日。
朝からドキドキして落ち着かず、お腹が痛くなったり、吐き気がしたりずっと調子が悪かった。それでも順番はやってくる。
大きく深呼吸をして、奇跡でもいいからもう一度だけ逆上がりができますようにと祈りながら鉄棒につかまる。

結局、逆上がりはできなかった。
やっぱり奇跡だったのだ。そして奇跡なんて何回もないから奇跡なんだ。

次の日に担任の先生に呼び出された。

「昨日は逆上がり頑張りましたね。先生ね。あなたが毎日、逆上がりの練習をしているのを知っているよ。一回だげ、逆上がりができたことも知っています。テストでは逆上がりはできなかったけれど、毎日練習を頑張ったね。素晴らしいです。だからね、テストは合格にします。」

え!テスト合格!
逆上がりのテスト合格だって。

「本当ですか。ありがとうございます。」
先生にお礼を言って職員室を出た。
なんだか嬉しくってスキップしたいくらいだ。奇跡って本当に起こるんだ。びっくりだよ。でも、どうして先生は私が朝に練習しているのを知っていたのだろうか。
まあ、いいか。

奇跡は起こる。

何年かして、先生に私が逆上がりの練習をしていることを言ったのは姉である事が分かった。一回だけ逆上がりができた時に、「奇跡」とか言ってバカにしているようだったが、姉として心配していたように思う。本当は優しいお姉ちゃんなのに、素直ではないところは大人になってもちっとも変わらない。

あの逆上がり合格は奇跡だったか分からないが、私が練習を始めこと。いつもは三日坊主なのに毎朝逆上がりの練習をしたこと。面倒ぐさがりなお父さんが毎日付き合ってくれたかと。姉が先生に知らせたこと。あれやこれやが積み重なり奇跡が起きた。でも、自分で頑張ったから奇跡が起こせたのだと思う。

奇跡を起こした自分を褒めたい。かな。


10/2/2024, 5:16:10 PM