心の灯火
何日も真夏日が続いている。何もしなくても汗がダラダラと滴り落ちるのを感じる。
暑い。とにかく暑い。夏だから仕方がないが、それでも暑いのは暑い。
部活が終わり、帰路に着くために自転車を漕いで行くと始めのうちは風が心地良く快適だが、次第に暑さが増してくる。制服のスカートが足に絡みつき「死にそう」と思うことが何度もあった。
今日も暑いがテスト週間も終わり、明日からは夏休みのため心も体もウキウキしながらいつもとは違う道を走っていく。
「銀座のななかフルーツ寄って行こうよ」
後ろを自転車で走る友達の誘いを断る理由は全くない。私も同じ気持ちだ。
もちろん、銀座と言ってもあの銀座ではなく地元の商店街のことを田舎では銀座商店街などと言うことがある。
私たちの目的は、その銀座の路地にある小さなくだもの屋さんのフレッシュジュースだ。おばちゃんが店の中の小さなジューススタンドで作ってくれるジュースたが、くだもの屋のフルーツを使ったジュースはめちゃくちゃ美味しい。砕いた小さな氷がちよっと入っていて暑い夏にはピッタリだ。
自転車から降りて、今日は何を飲もうかとくだものが置かれたショーケースを覗き込む。
「夏休みだね。夏休みも部活あるのかい」
うんうん。と頷きながらジュースを一口。
美味しい。
イチゴとみかん、リンゴのミックスジュースを頼んだが、甘みと爽やかな酸っぱさが混じり暑さを忘れてしまう。。
ここでおばちゃんのジュースを飲みながら友達と他愛もない話しをしていると暑さが消え、心に灯火が灯るように心の中がホワッと温かくなるのを感じる。優しさが溢れてくるようだ。
ここは私たちの小さな拠り所。
これからもずっとこの銀座にあり続けて欲しと思う。いつも笑顔が溢れ、心温まる場所であり続けて欲しい。
開けないLINE
ゲームをしているとスマホの上の方にお知らせが出てくることがある。かなりの頻度でLINEだ。それを読んでLINEは開かず終わりにしてしまうことがある。
例えば、会社の同期メンバーのグループLINEとか、母親からのLINEとかは私の中で、特に開けないLINEの王道だ。
会社の方は同期での飲み会のお誘いがほとんどで、仕事が終わってからも仕事の話しをしたくないのが本音だ。LINEを開かず気がつかなかったことにしている。まあ、私があまりLINEを見ないことはすでにバレているが懲りずに送ってくる同期がいる。優しい人だ。
母親の方は元気かとうかの確認に始まり、今日何を食べたか、彼氏はできたか、などとにかく長い。文章が長くて読むのに疲れる。あまりに面倒なのでそのLINEに「元気」だけ返せば、今度は電話がかかってくる。電話でも内容はかわらず母親が勝手に喋り倒すだけだ。電話に出なかったときは、出るまで鳴らされ疲弊する。
だから開けない。
同期メンバーも母親も嫌いではない。ただどちらのLINEも苦手なだけ。
既読ムシなんてできないし、スタンプを返すだけでは申し訳なく感じる。
気の小さい私には開けないLINEの方が多いのかもしれない。
不完全な僕
不完全な僕、完全な君。
僕らはまるで鏡合わせ。いや、背中合わせかな。
小さい頃から比べられるのにいつも一緒にいた君。君にとって僕はどんな存在だったのかいつも考えていた。そんなこと考えなくても分かっているのにね。
僕らは双子だからいつも一緒で当たり前。
双子なのに君はいつも僕の少し前を歩いていた。そう、勉強でも運動でも、恋愛でも、なんでも僕は君には敵わない。でも、僕は君の背中を見て歩くのは嫌いではない
よ。君はどう?
あの時、君は逝ってしまった。
僕に背中を向けたまま走り去ってしまった。僕は1人残され不完全となった。
君がいないなら僕は完全となることはないけれど、君がいての僕だから仕方がないよね。僕は不完全のまま生きていく。
なのに。
君の姿をした何かが僕の目の前に静かに微笑んでいる。あれは何?
君であって、君でないもの。
君がアンドロイドとなって帰ってきたとしても…。それはもう君ではない。
そう、君がいなければ不完全な僕のまま。
それでいい。
香水
香水の匂いは嫌いだ。
私を作った女の匂いがするから嫌いだ。
ろくに子育てもしないくせに、子供を作る。避妊の仕方も分からないのに快楽だけ求める。子供は親を選べないとか、親ガチャはずれなんて可愛げのあるものではない。
家の中に私は存在しなかった。だれにも「おはよう」も「おやすみ」も言われたことはない。当たり前だ私は存在しないのだから。ご飯は作って貰ったことない。1ヶ月分のお金を渡されるだけだ。仕事から酔って帰って来る女は、いつも機嫌が悪く、良くて怒鳴り散らす、悪くて髪の毛を掴まれて投げ飛ばされる。そんな毎日だ。
そんな女が死んだ。仕事の帰りに増水した川に落ちて溺死した。
私はこれからは自由だ。
でも、私はまだ1人で生きて行ける年齢ではない。誰かの庇護のもと生きて行かなけれはならない。私を必要としてくれる人はこの世界にいるのだろうか。
あれから3年。
私はフランスの片田舎に養父母と暮らしている。フランス語はまだ完全に理解できないことも多いが、私はここで必要とされている。何もない田舎町だが、町一面に小麦畑が広がり優しい風に小麦の穂が揺れ町だ。私はそんな町に住んでいる。この町は小麦の匂いがする。
どんな高級な香水の匂いでも勝てない温かくて優しい匂いだ。
私は私を必要としてくれる人たちと優しい匂いに包まれて生きている。
ありがとう。
私を見つけてくれて。私に幸せの意味を教えてくれて。いま幸せです。
言葉はいらない、ただ
音楽に言葉はいらない、ただ「魂の共鳴がある」だけだ。