突然の訪問者
「ねえちゃん。鳥の巣がある。あれ。」と弟が指差す先にツバメの巣があった。軒下を何度か旋回してから、バサバサと音をたて泥や草でできた巣にツバメが入っていったが、まだ雛はいないようで鳴き声は聞こえず、姿も見えない。母鳥は巣の中の卵を温めているようだ。
ツピー。ツピー。
聞いたこともない声てツバメが鳴いていた。何かを警戒している。辺りを見回せば、ツバメの巣と同じ高さのところにある梁にアオダイショウが絡まっていた。卵を狙いに来たらしい。
「ヘビ!」
私の声に反応して弟が走ってきたが、それよりも早くばあちゃんが、いつも持っている杖を振りかざしヘビをたった一撃で叩き落とした。
「ばあちゃん。すげぇ」
突然の訪問者の襲来に度肝を抜かれたが、ばあちゃんが華麗に撃退し、その現場にいた者から感嘆の声が漏れた。まさに弟の感想に同感だ。
4月の初めくらいに雛が孵った。ツバメが来る家は幸運に恵まれると言うが、そうでもない。鳴き声はうるさいし、野生なので当たり前だか所構わずフンをする。匂いも臭い。春にやってきたツバメは、幸運の象徴でもあり、なかなかの曲者だ。
ツバメの巣で雛が孵ってからカラスが近くの木に留まることが増えた気がする。雛を狙っているのだろうか。雛を守るためにも対策をしないと。ばあちゃんに相談だ。
弟と2人でばあちゃんを訪ねると、ばあちゃんはツバメの巣の前にツバメが通れる程度に隙間を開け、ネットを張っていた。
これで、カラスはツバメの巣に近づけなくなった。突然の訪問者はもうコリゴリ。
いろいろあったが6月には雛も巣立っていった。私も弟もばあちゃんも楽しい2ヶ月を過ごすことがてきた。
また来年も来るだろうか。ツバメ。
雨に佇む
朝の当校の時に1人の女性を見かけるようになったのはいつ頃からだろうか。いつも決まった時間に線路の見える橋に立つている。ただそれだけだ。友達は笑いながら薄気味悪いことを言う。
「お化けじゃない」
足があったし歩いてたから幽霊ではない。
人間だった。
もちろん薄気味悪いのも事実だが、あの橋のところで何をしているのか不思議だ。はっきり言ってあの橋から見える景色なんて、ただの線路と高層マンション、あとはビルぐらいだ。時々、鉄道ファンの人が写真を撮っていることがあるが、あの女性が鉄道好きとは思えない。本当に何をしているのだろうか?
雨の朝。橋の上で雨に佇む女性を見たときは、本当に幽霊かと思うほど静かに佇んでいた。どうしよう?思いきって声をかけみるか。幽霊ではない、なんとかなる。
「おはようございます。」
女性の肩がピクリ揺れ、ゆつくりと視線だけがこちらを向いた。それは驚くだろう。こんなところで知らない女子校生に急に声をかけられたら、誰だって驚く。
「すみません。いつもいらしやいますよね。雨なのに何見てるのか気になって。」
女性がふっと笑った気がした。
「夫は痴漢ではありません」
は?
何って言った。
私の心の声が聞こえたかのように女性は同じ言葉を繰り返してから話し始めた。
「私の夫は痴漢ではありません。真面目に会社に行って働いて、私と子供のために温かい家庭を作ろうと頑張っていただけの人なんです。それなのにあの駅のホームで痴漢だと言われ、警察に連れて行かれた」
「あなたに。言われた」
女性は白い顔に太陽のような笑顔を乗せてこにらを向いた。
「あなたをずっと待っていたの。いつ声をかけてくるかなって。だって、あなた、自分の思ったことは何でも口にしてすぐに行動に移すでしょ」
「だから、夫は痴漢に間違えられ、会社にも行けず、近所からは白い目でみられ、実家でも馬鹿扱いされ、私たちの生活はめちゃくちゃになったの」
女性がまくし立てながら近づいてくる。
逃げなきゃ。
でも、足が氷のように固まり動けない。
「本当に痴漢だつたのよ。あの男がやったのを見たのよ」
私は思わず叫んでいた。
女性との距離がさらに縮まってきている。
「あなたはたいして確認もせず、そうやって叫んだ。ねぇ、そうでしょ」
刺される!
女性の手には包丁もナイフもなかった。
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。あなたを殺したりしないから。」
女性の顔がもう目の前だ。
体中の毛穴から汗が吹き出す。
「そう。私はいつまてもここで駅を見ているだけだから。」
気がついたときには走り出していた。
雨も制服のスカートも気にせず全速力で走った。
あれから、おの橋には行ったことはない。
まだあの人あの橋に佇んでいるのだろか
私の日記帳
11月30日
私は今日から日記帳をつけることにする。私の日記帳は後世の人たちに読まれ、真実をかたる貴重な資料となり、王妃さまを守る物となるはずた。
12月1日
天気は雲。いつ雪が降ってきてもおかしくないくらいに寒い。
私は王妃さまに仕える従女として10年お世話になっていて、王妃さまの人となりを心得ている。王妃さまは優しく気高い方だ。そして、誰よりも国を愛しておられる。なのに、民衆は王妃さまを悪くとみなす。
12月2日
今日の天気は雪。
とある伯爵夫人が王妃さまと仲が良いと嘘をつき、王妃さまに接近を望む男に王妃さまが首飾りを欲しがっているからと持ちかけた。男は首飾りを購入、それを伯爵夫人は騙し取った。王妃さまは首飾りなど貰っていないのに民衆は、王妃さまの浪費が国の財政を圧迫しているとののしる。おいたわしや王妃さま。
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7月15日
今日は晴れ
この古い町並みが続く故郷で革命が起こるらしい。王家にあざなする民衆が王家に反逆したのだ。民衆の列が王宮に向かってやってくる。国王さまも私がお仕えしている王妃さまも身の危険を感じ、王宮から離れる準備をなさっている。
7月16日
晴れ
王宮から王妃さまたちを追い出すことを革命というのか。
悔しい。悔しい。どうしてこんな薄暗く汚い場所に王妃さが投獄されなければならないのか。
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10月15日
雨
王妃さまが投獄された独房は「処刑台への間」と呼ばれ処刑が決まっている者が入る部屋だ。いつか王妃さまは処刑される。
10月16日
晴れ
今日は王妃さまの処刑の日。
私は王妃さまの独房に呼ばれ綺麗なドレスを着せられた。これは王妃さまのドレス。涙が止まらない。最後の日に、私にこんな素敵なドレスを譲って下さるお優しい王妃さまが処刑されてしまうなんて。悲しすぎる。
独房から王妃さまが引きずり出され、民衆の待つ広場に連れて行かれる。
待って!私は王妃さまではない!
いや、連れて行かないで!
助けて!助けて!助けて!助けて!
王妃さま。マリーさま。
どうして。
向かい合わせ
毎年、夏になると怪談や恐怖体験の話しが学校でもSNSでも話題になることが多い。
私たちの学区内にも随分前に廃墟になった遊園地が丘の上にある。ほとんどの乗り物や遊具は壊れたり崩れたりしていて乗れないが、観覧車だけは原型を留めていて動かないが乗る事が出来ると聞いた。
「ねぇ。こっちからで間違ってない」
夏休みが終わる直前に私と幼馴染の陽向ちゃんと海斗君の3人は、肝試しに廃墟の遊園地に行くことになった。同じ町の中だが始めて行くため場所や行き方、道もよく分からない。
「この前に見たSNSの人が言ってから間違いない。後ろはこんな背景だった」
海斗くんの見たSNSを頼りに山道を進んで行く。30分ほど歩くと廃墟の遊園地の正門が見えてきた。正門の壊れた支柱の間をすり抜けて園内に入って行くと大きな観覧車が見えてきた。
へぇ~、本当にあるんだ。
私は怪談や恐怖体験とかはあんまり信じていなかったので、怖さよりも驚きが強よかった。
「なんで関心してんの。それより菜々美ちゃんも海斗もアイマスクは持ってきた」
この観覧車に乗るためには1つルールがある。それは、観覧車に乗っいる間は目を開けてはいけないこと。目を瞑っている自信がなければアイマスクをして乗らなけばならい。噂では観覧車に向かい合わせで座ると観覧車が動きだす。動いている間に窓から外の景色を見ると地獄が見え、地獄を見た人は観覧車から消えて地獄に引きずり込まれ帰って来れなくなるらしい。
SNSでは観覧車が動いたと動画を配信している人もいた。
私たちも観覧車に乗ってみることにする。観覧車の一番下に停まっているゴンドラは壊れかけた扉が開いており本当に乗ることができそうた。海斗君が向かって右の椅子の中央に1人で座り、私と陽向ちゃんは左の椅子に座る約束だ。ちょうど三人が誰とも向かい合わない位置にくるように座る形になる。アイマスクをしているから正しい位置に座れているかは確認できないが、私と陽向ちゃんは手を繋ぎ2人がけの冷たく硬い椅子に座った。
ガタン!
え!観覧車が動きだした。嘘でしょ!
誰とも向かい合っていないはずなのに!
「きゃ!動いてるよ!降りる、降りる!」
陽向ちゃんが片手を扉に伸ばし外へ出よう立ち上がったはずみで私の顔にもう一つの手が当たり私のアイマスクが弾き飛ばされた。
観覧車の中が見えた。海斗君が椅子の隅に座りアイマスクをしたまま笑みを浮かべ動画を撮っていた。ちょうど私と向かい合わせとなる場所に座っていたのだ。
ガタン。
ゴンドラが揺れたことで無意識に外へ目を移すと、観覧車はかなり高い位置まで上がってきていた。
外に何かいる!
外の暗い闇の奥の闇の中に白く巨大なドクロが、ガチガチと音鳴らしながらゴンドラの窓から中を覗き込もうとしていた。
ガシャドクロだ!
「おい。大丈夫か」
気がつくと私は遊園地の壊れかけたベンチに横になっていた。目の前に海斗君と陽向ちゃんの安堵する顔があった。
「良かった。気がついて。菜々美ちゃん、観覧車から降りたら急に倒れたからビックリしたよ」
私は観覧車を降りた?そして倒れた?
私は何かを見たのに覚えていない。
夢だったのだろうか。
「今日はもう帰ろうよ。なんか怖いよ」
恐怖を感じた私たちは遊園地をあとにした。
数日後、海斗君のSNSにはあの遊園地の動画が上がっていた。はっきりと海斗君に襲いかかる巨大なドクロが映り込んでいたが誰も気づいていない。見えない。
私以外は。
やるせない気持ち
母は若い頃はキャリアウーマンとして長いこと会社勤めをしており、きっちりとした性格だった。しかし、80歳を過ぎたあたりからややボケ気味になってきている。
この前も「仏壇のご飯を変えて」と言いながら仏壇にあった古いご飯を持ってきたので、それを受け取り新しいのに変えておいた。その10分後には仏壇のご飯を手にした母がキッチンにいた。
「さっき変えたよね」
「え?そうだっけ。全然覚えてない」
こんなやり取りが毎日た。なんともやるせない気持ちになる。
スーパーに行った時は、同じ物を何個も勝ってしまうことがある。先日はふりかけだった。スーパーのカゴにふりかけを入れたので、家にあるからやめようと言ってカゴから出した。
「近くから持ってきたから戻してくるよ」
と母がふりかけを戻しに行ったかいつまでも帰ってこない。探しに行くとどこにあったかわからないとキョロキョロしていた。ふりかけは近くにあったと言っても、あなたがいたのはペットのエサコーナーだったよ。どこから持ってきたの?
ペットのところだからふりかけないよとは言えないし。
本当になんだかやるせない気持ちになる。
休日に散歩に行きたとのことで、準備をしていると「私は歩くの早いから先に行ってちようだい」と言われたので、先に公園まで出かけた。公園に着いても母の姿はない。「歩くの遅いじゃん」と思い家まで帰ってくれば、リビングでくつろく母の姿が。
「どこ行ってたの。探したよ」
イヤイヤ。あなたが散歩に誘ったのよ。
全く持ってやるせない。
ややボケの母との生活はやるせない気持ちが充満しているが、ほどほどに面白く楽しい毎日を送っている。