たやは

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向かい合わせ

毎年、夏になると怪談や恐怖体験の話しが学校でもSNSでも話題になることが多い。
私たちの学区内にも随分前に廃墟になった遊園地が丘の上にある。ほとんどの乗り物や遊具は壊れたり崩れたりしていて乗れないが、観覧車だけは原型を留めていて動かないが乗る事が出来ると聞いた。

「ねぇ。こっちからで間違ってない」

夏休みが終わる直前に私と幼馴染の陽向ちゃんと海斗君の3人は、肝試しに廃墟の遊園地に行くことになった。同じ町の中だが始めて行くため場所や行き方、道もよく分からない。

「この前に見たSNSの人が言ってから間違いない。後ろはこんな背景だった」

海斗くんの見たSNSを頼りに山道を進んで行く。30分ほど歩くと廃墟の遊園地の正門が見えてきた。正門の壊れた支柱の間をすり抜けて園内に入って行くと大きな観覧車が見えてきた。

へぇ~、本当にあるんだ。
私は怪談や恐怖体験とかはあんまり信じていなかったので、怖さよりも驚きが強よかった。

「なんで関心してんの。それより菜々美ちゃんも海斗もアイマスクは持ってきた」

この観覧車に乗るためには1つルールがある。それは、観覧車に乗っいる間は目を開けてはいけないこと。目を瞑っている自信がなければアイマスクをして乗らなけばならい。噂では観覧車に向かい合わせで座ると観覧車が動きだす。動いている間に窓から外の景色を見ると地獄が見え、地獄を見た人は観覧車から消えて地獄に引きずり込まれ帰って来れなくなるらしい。
SNSでは観覧車が動いたと動画を配信している人もいた。

私たちも観覧車に乗ってみることにする。観覧車の一番下に停まっているゴンドラは壊れかけた扉が開いており本当に乗ることができそうた。海斗君が向かって右の椅子の中央に1人で座り、私と陽向ちゃんは左の椅子に座る約束だ。ちょうど三人が誰とも向かい合わない位置にくるように座る形になる。アイマスクをしているから正しい位置に座れているかは確認できないが、私と陽向ちゃんは手を繋ぎ2人がけの冷たく硬い椅子に座った。

ガタン!

え!観覧車が動きだした。嘘でしょ!
誰とも向かい合っていないはずなのに!

「きゃ!動いてるよ!降りる、降りる!」

陽向ちゃんが片手を扉に伸ばし外へ出よう立ち上がったはずみで私の顔にもう一つの手が当たり私のアイマスクが弾き飛ばされた。
観覧車の中が見えた。海斗君が椅子の隅に座りアイマスクをしたまま笑みを浮かべ動画を撮っていた。ちょうど私と向かい合わせとなる場所に座っていたのだ。

ガタン。
ゴンドラが揺れたことで無意識に外へ目を移すと、観覧車はかなり高い位置まで上がってきていた。

外に何かいる!

外の暗い闇の奥の闇の中に白く巨大なドクロが、ガチガチと音鳴らしながらゴンドラの窓から中を覗き込もうとしていた。

ガシャドクロだ!


「おい。大丈夫か」
気がつくと私は遊園地の壊れかけたベンチに横になっていた。目の前に海斗君と陽向ちゃんの安堵する顔があった。
「良かった。気がついて。菜々美ちゃん、観覧車から降りたら急に倒れたからビックリしたよ」
私は観覧車を降りた?そして倒れた?
私は何かを見たのに覚えていない。
夢だったのだろうか。

「今日はもう帰ろうよ。なんか怖いよ」
恐怖を感じた私たちは遊園地をあとにした。
数日後、海斗君のSNSにはあの遊園地の動画が上がっていた。はっきりと海斗君に襲いかかる巨大なドクロが映り込んでいたが誰も気づいていない。見えない。
私以外は。

8/25/2024, 1:37:46 PM