たやは

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雨に佇む

朝の当校の時に1人の女性を見かけるようになったのはいつ頃からだろうか。いつも決まった時間に線路の見える橋に立つている。ただそれだけだ。友達は笑いながら薄気味悪いことを言う。

「お化けじゃない」

足があったし歩いてたから幽霊ではない。
人間だった。
もちろん薄気味悪いのも事実だが、あの橋のところで何をしているのか不思議だ。はっきり言ってあの橋から見える景色なんて、ただの線路と高層マンション、あとはビルぐらいだ。時々、鉄道ファンの人が写真を撮っていることがあるが、あの女性が鉄道好きとは思えない。本当に何をしているのだろうか?

雨の朝。橋の上で雨に佇む女性を見たときは、本当に幽霊かと思うほど静かに佇んでいた。どうしよう?思いきって声をかけみるか。幽霊ではない、なんとかなる。

「おはようございます。」

女性の肩がピクリ揺れ、ゆつくりと視線だけがこちらを向いた。それは驚くだろう。こんなところで知らない女子校生に急に声をかけられたら、誰だって驚く。

「すみません。いつもいらしやいますよね。雨なのに何見てるのか気になって。」

女性がふっと笑った気がした。

「夫は痴漢ではありません」

は?
何って言った。
私の心の声が聞こえたかのように女性は同じ言葉を繰り返してから話し始めた。

「私の夫は痴漢ではありません。真面目に会社に行って働いて、私と子供のために温かい家庭を作ろうと頑張っていただけの人なんです。それなのにあの駅のホームで痴漢だと言われ、警察に連れて行かれた」

「あなたに。言われた」

女性は白い顔に太陽のような笑顔を乗せてこにらを向いた。

「あなたをずっと待っていたの。いつ声をかけてくるかなって。だって、あなた、自分の思ったことは何でも口にしてすぐに行動に移すでしょ」

「だから、夫は痴漢に間違えられ、会社にも行けず、近所からは白い目でみられ、実家でも馬鹿扱いされ、私たちの生活はめちゃくちゃになったの」

女性がまくし立てながら近づいてくる。
逃げなきゃ。
でも、足が氷のように固まり動けない。

「本当に痴漢だつたのよ。あの男がやったのを見たのよ」

私は思わず叫んでいた。
女性との距離がさらに縮まってきている。 

「あなたはたいして確認もせず、そうやって叫んだ。ねぇ、そうでしょ」

刺される!

女性の手には包丁もナイフもなかった。

「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。あなたを殺したりしないから。」

女性の顔がもう目の前だ。
体中の毛穴から汗が吹き出す。

「そう。私はいつまてもここで駅を見ているだけだから。」

気がついたときには走り出していた。
雨も制服のスカートも気にせず全速力で走った。

あれから、おの橋には行ったことはない。
まだあの人あの橋に佇んでいるのだろか

8/28/2024, 3:19:02 AM