白井墓守

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3/4/2026, 7:28:41 AM

『ひなまつり』

君と過ごすひなまつり。
最期に過ごす、ひなまつり。

「毎年、毎年。ありがとう」

そういった私に、あの子達は何も言わなかった。
それは当然のことだった。

私の娘が、結婚する。
もう、良いのだ。もう。

「今まで、本当にありがとう」

きっと、私が再び会うことは無いだろう。

ひなまつりのヒナ達に、別れを告げた。

さようなら、さよなら。
あの子達をダンボールの箱にしまいこんだ。


……物言わぬ人形が、少しだけ、笑っているようにみえた。

おわり

3/3/2026, 12:40:27 AM

『たった1つの希望』 

たった一つの希望があるとするならば、
——それは君が死んだことだろう。

○○○

この世に奇跡なんてモノは無かった。
あるのは、血の味がこびりつく地獄だけだ。

『ナイト、ご苦労様』
「主、こんな物言わぬ、躰になって……」

死体が目の前にはあった。
忘れない、あの人の死体。

私の事を、優しく撫でてくれた、あの人の……。

「あの、なんだ。悪政を敷いていた強欲領主が死んだんだって?」
「みんなでデモ起こして、一族諸共火あぶりの処刑よ」
「かーーっ。悪いことはするもんじゃねぇなぁ!」

……あの人は、悪いことなんて、何も、何もしていなかった。
それどころか、

「アレじゃなかったか? 一族の中に、一人。現状をどうにかしようとしてたガキが居るとか。そいつはどうしたんだ?」
「さあ? まあ、アレだろ。口じゃあ綺麗事言ったって、ソイツだって俺達の血と涙で贅沢な暮らしをしてたんだ。死んでたって構わないね」
「違いねえ!! あの一族には、恨みしかねぇよ! 俺の娘は結婚が決まってたのに、ズタズタにされ死体だけ返ってきた」

……現実とは、ままならないものだ。
一人の力で変えられる事には限度がある。

努力が必ず報いてくれるとは、限らない。

「あれ? あそこの犬……あの、坊ちゃんの犬に似てね?」
「あ? 犬の違いなんて分かんねぇ。ま、これは人間の問題だろ。犬を巻き込むのは辞めようぜ」
「お、それもそうだな……にしても、どした? お前」
「いやぁ、最近さ、妹が犬を飼い始めてな。犬に酷いことしたって知られたら、俺がボロボロにされちまうよ」
「ははは。そりゃ、いけねぇな」

人間には悪い人間がおり、良い人間がいる。
だが、同じくらい、半分良くて半分悪い人間がいる。

きっと彼らもそうなのだろう。
自分の大切な物を大切にし、自分の大切な物を壊そうとする相手には、どこまでも残虐になれるのだ。

『ねぇ、ナイト。僕は此処で死んでしまうけど、君はどうか生きていて。そうしたら、そうだな。僕は君に憑いて、世界を色々と観て周るよ。楽しみだなぁ』
《わふ》

街の広場から、阿鼻叫喚が聞こえる。
人間とはどこまでも残虐になれる生き物なのだ。

『おい、この内臓。どこまで引っ張れるかやってみようぜ』
『もっと苦しめ! 俺の婚約者が受けた苦しみをもっと!』
『死ぬなんて許さない。生きたまま地獄の業火に焼かれろ』

こんな狂ってしまった、街の中で。

たった一つの希望があるとするならば、
——それは君が死んだことだろう。

死んだ人間は、もう苦しまないから。

《わふ、わふふ》

さあ、主。一緒に旅に出ましょう。
色んな場所を、たくさん、たくさん観ましょうね。

誰もがこちらを見ていないなか、私は一匹立ち去った。


おわり

3/1/2026, 10:49:07 PM

『欲望』

人は常に欲望を孕んでいる。
此処にも一人、己の身に余る欲望を抱えし者が居た。

「リア充が、みたーーい!!」

……欲望、か?

○○○

リア充、というものをご存知だろうか?
今となっては死語に足つっかけて、なお半分棺の中みたいなものかもしれない。
リアルが充実している、主にいちゃいちゃなカップルを指す造語である。

俺は、そんなリア充が見たかった。好きなのだ。

一時は、リア充爆発しろ! と非リア充の怨念により、リア充がレッドリストに乗ってしまうことすら、あったリア充。

だが、俺は諦めない。諦めきれない!!
リア充を、復活、させるのだ!!

「いや、まずはお前がリア充になれよ」
「…………それは、そう」

これは、リア充をみるために、俺がリア充になる話。
夢に向かって猪突猛進する俺と、クールなツッコミ気質の相棒のギャグする話。

……続かない!
おわり!!

2/28/2026, 11:01:20 PM

『遠くの街へ』

遠くの街へ、いざゆかん。
……え、この街しか、世界には街がないの??

ま?

○○○

旅をする事が夢だった。
子供の頃から、テントや寝袋で寝ると何故か落ち着いた。

旅に出てもいいのは、成人してからよ。
そんな母の言葉を信じて、ようやく待ちに待った成人。

そこで、僕は衝撃の一言を告げられる?

「え、世界には、この街しか存在しないの? なんで??」

「母さんにも分からないけど~なんか、予算の都合が~みたいな事を~お上が告げてたみたいなのよ~」

……この世界、ゲームか何かなの??

だけど、僕は諦めきれなかった。
絶対の絶対に絶対! 僕は旅をするんだ!!

そうして気がつく。

——街が無いなら、街を作れば、いいじゃない。

そうして、旅をするために、僕の新たな目標『街作り』が始まった。

「母さん! 僕、ちょっと街を作ってくるよ!!」
「あら~、元気になって母さん嬉しいわ~、頑張ってね~」

母さんにも別れを告げ、いざゆかん!!

「…………街ってどうやって作るんだろ?」
「あ、あの……」


そっちを見ると、目隠しした地味な女の子が居た。

「ま、ま、街を、作ると、仰りません、でしたか? わ、私も! その、街を……つくり、たくて。い、一緒に作れたり、む、無理……ですか、ね?」
「いいじゃん! 大歓迎だよ!!」
「ほ、本当ですか!!」

こうして、僕は一人、仲間を手に入れた。

僕は遠くの街へ旅に出るため、とりあえず街を遠くに作ることにした。

僕の旅は、続く。


しかし、物語は続かない。
おわり!!

2/27/2026, 11:25:11 PM

『現実逃避』

現実逃避で世界を征服してみた。
国民全員に喜ばれたが、俺の顔は一向に晴れなかった。

……なんで、俺。異世界に居るの??

○○○

「貴方こそが、真の魔王様です!!」
「…………は?」

コンビニ帰りだった。
夜中、信号待ちの間に立っていたマンホールがいきなり紫色に光出し、魔方陣のような物が浮かんだと思うと急にマンホールが消えて、長い長い穴に落ち……気づくと城の中に居た。

目の前の人? を見る。
人間ではありえない、青がかった薄灰色の肌。鬼のように尖った二本の角、コウモリのような一対の翼。
人外じみた部分を除けば、豊かに実ったぱっつんぱっつんの露出の激しい胸部と、愛嬌のある顔、こちらに向けてキラキラ輝く瞳、メリハリのついたモデルみたいなナイスバディの娘さん。

「真の……魔王、とは?」
「聞いてください! 大変なんですよぉ!!」

娘さんの言うことには、ここは魔王軍率いる魔族の領地で、各国の暴君に魔族がしいたげられて、大変な目に合っているらしい。
俺は、それをフンフンと、上の空で聞きながら、昔を思い出していた。
……妹が居た。本当に昔の事だ。
サラリーマンとして会社に数年努めて、忙し過ぎて墓参りにも行けてやれていなかった。
俺が中学生に上がったばかりの頃、小学生4年生だった妹は死んだ。元々、体が病弱で病院に入院しており、覚悟はしていたが、本当に呆気なく死んでしまった。
俺が成人して直ぐ、両親も死んだ。高額な治療費を稼ぐため、頑張って働いていた事の無理がたたったのだ。

俺一人、独り身だ。
恋人も居ないし、友人も居ない。

……目の前の娘さんは、どこか妹に似ていた。
愛嬌ある笑顔のせいか、それとも妹も俺にいつもキラキラした眼差しを向けてきたからか。
いや、昔、妹と魔王ごっこを病院でよくしていたからかもしれない。

「いいよ」
「え」
「やるよ。うん……困っているんでしょ?」
「!! はい! とっても困ってるんです!!」

「なら、やる。出来るか分からないけど、それでも力を限りを尽くして——君を助けるよ、うん」

この娘さんは、俺の妹じゃない。
だって、俺の妹はもう死んでいるのだから。

これは現実逃避だ。
しかも世界を跨いで、自分の問題を棚に上げた現実逃避だ。

そんな事は分かっていたが、どうにも衝動が収まらなかった。
妹に似た、この娘さんのために、何かしたかった。

○○○

俺は気づいたら、世界を征服していた。
事の発端となった娘を、はじめとして、多くの魔族が俺に笑顔を向けている。

「魔王様! 本当にありがとうございます!!」
「お腹いっぱい食べられるように、なりました!」
「子供を安心して育てられるように、なりました」
「襲いかかってくる人間から守るために、囮で死ぬ魔族を決めなくてもよくなりました!」
「家族みんなで笑って食卓を囲めるように、なりました」

「本当に、本当に……ありがとうございます、魔王様」
「うん……別にたいしたことはしてないから、大丈夫だよ」

涙ぐんだ顔でこちらを向く娘さん。
俺は、どうにも現実感の無い気分でそう答えた。

……なんで、俺。異世界に居るんだろうか。

その時だった。
俺が立っていた場所、魔族のレリーフが描かれた床が紫色に光りだした。

「魔王様!!」
「なんか、また、呼ばれているみたい。じゃあ、幸せにね」
「!!……っはい! 必ず、必ず幸せになります!!」

大粒の涙を浮かべた笑顔を、一生懸命に目に焼き付けた。
これが報酬で良い。これで、良い。他に何もいらなかった。

……目を開ける。
そこに広がっていたのは……、

「ようこそ、お越しくださいました。勇者様!!」
「うん?」

娘さんが居た。
先程とは別の娘さんで、日本人にはありえないピンクの髪をしている。
……だが、どこか妹に似ていた。

「お願いです。この国では今、邪神の脅威に襲われていまして……どうか、あなたのお力が必要なのです!!」
「……うん、いいよ。俺に出来るか分からないけど、出来る限りを尽くして、君を幸せにするよ」
「!! 本当ですか!?」
「うん」

……どうやら、まだ、俺の現実逃避は続くらしい。
世界征服の次は、世界平和でも目指すかぁ。


おわり

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