白井墓守

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2/11/2026, 4:48:15 PM

『この場所で』

この場所で私は死ぬ。
誰に看取られることもなく。

……きっと、それは幸せなことなのだ。

○○○

一匹の猫が人目につかない場所で死んでいた。
首輪に乗っていた住所に連絡すると、たいそう家族は泣いていた。
何度も何度も名前を呼び、死んで冷たくなった体をさすって温めようとしていた。

猫は死期を悟ると身を隠すと言うが、それは愛する家族を泣かせないためだというなら、この猫はたいそう愛されていたのだろう。


おわり

2/9/2026, 4:53:28 AM

『スマイル』

スマイル・スマイル・スマーーイル!!
笑顔でみんな死ね。

○○○

笑うとはどういうことだろう。
きっと良い事だ。
だって、笑ってたら、みんな笑う。
笑わないより、笑ってた方がずっといい。
……だから笑わせてあげたの。

「こっ、殺さないで! 殺さないでくれぇ!!」
「スマイル、プリーズ?」

笑わなかった、笑わなかった、笑わなかった。
だから殺した。

死体に按摩を施して、肉体を緩和させ、笑ってるようにする。
ほら、簡単。

生きてても笑わないなら、死んでから笑えばいい。

「そ~思わない?」
「……アンタの頭の異常さには寒気がします」
「スマイル、プリーズ?」
「迅速な仕事の完了ありがとうございます。つきましては、次の依頼を引き受けて下さるともっと笑顔になれるのですが?」
「……おっけー!」
「ありがとうございます」

黒服の男が笑顔でお辞儀をして去っていく。
冬の路地裏には、ピエロ姿の私が独りぼっちだ。
寒い。

殺人鬼・キラーピエロ。
通りではそう言われている。
……私はただ、みんなを笑顔にしているだけなのに。

きっと笑顔が足りないんだ。
もっともっとも~っと、たくさんの人を笑顔にしたら、みんなの評価も変わるよね!

「スマイル、プリーズ?」

わたしはあなたに言っているんだよ?
……ほら、画面越しに見てるでしょ?


おわり

2/6/2026, 6:27:40 AM

『溢れる気持ち』

洪水のように溢れる気持ちが、止められなかった。
我慢して我慢して我慢してダムのように決壊したソレは、瞬く間に全てを奪っていった。

○○○

世の中には、良い事と悪いことがある。
良い事はしてもいいけど、悪いことはしたらいけない。
悪口を言うのは良くないこと。人を嫌うのは良くないこと。
仲良くするのはいいこと。喧嘩するのは悪いこと。

……だからずっと、我慢してきた。

僕はどうにも凡庸で、やることなすこと在り来りだ。
特に長所もなければ、短所もない。
至って平均点が取れるような、そんな凡庸さ。

隣の幼馴染は、顔が良くて、性格が良くて、勉強も運動も出来て、色んな人から人気だ。
幼馴染であった僕らは、よく比べられた。
そのたびに彼は言う。

「俺ら、友達じゃん。そんなの関係ないよ」

僕が、一番そう思いたかった。
…………思えなかった。

募って募って、限界まできていた僕はやらかした。

幼馴染の結婚式。
僕は親友としてスピーチを任された。

偽るべきだった。根も葉もない嘘八百を並び立てるべきだった。この世に存在しない親友とやらの役を演じ切るべきだった。出来なかった、そんなこと。

全てを吐露した。
人生にたった1度しかない晴れ舞台をぶち壊した。

僕は全てを失った。
友人、知人から縁を切られ、両親からも絶縁された。

「お前がそんなヤツとは思わなかった。言ってくれれば良かったのに、俺ら親友だろ?」

——僕は親友だと思ったことは、一度も無かったんだよ。

全てを失った筈なのに、どこか清々しい気分だった。
なんとなく空を見上げる。

「あぁ、空ってこんなに青かったんだ」

思わず涙が溢れてきて、僕はボロボロと子供のように泣いた。

やっと、生きてるって気がした。


おわり

2/5/2026, 6:53:21 AM

『Kiss』

柔らかな頬に口付けを落とした。
——瞬間、頬は氷に包まれた。

「ごめんなさい、こんな方法しかとれなくて」

○○○

わたしは雪女だ。
そして、人間の男の恋人が居る。

もうすぐ結婚する予定だったが、おそらく無理だろう。

「おめぇのとこの女、ありゃあ化物に違げぇねぇぜ」
「そんな事、言わないでくれるか? 僕の大事な人なんだ」
「坊ちゃん、悪いことは言わねぇ。止めておきなせぇ」
「彼女は何もしてないじゃないか。子供を救っただけだ」
「熊を一匹、氷漬けにして……でしょう? 恐ろしや」

村の子供が熊に襲われそうになっていた。
だから咄嗟に、吹雪で氷漬けにしてしまった。
そして、わたしはそれを見られてしまったのだ。

もう、無理だ。無理なのだ。
やっぱり、人間と妖の恋は実らない。

「はぁ……駄目だなぁ、こりゃ。……一緒に殺すしかねぇべ」
「だなぁ。村に一人の医者だったが、しゃあねぇべや」

クワを掲げられ、殺されそうになっている彼の前に出る。
熊を氷漬けにしたように、吹雪で二人の村人を凍らす。

「……君は、今のを聞いていたんだね。ごめん」
「いいえ。これは仕方がないことだったのよ」
「なぁ、逃げよう。二人ならきっと」
「いいえ。……ごめんなさいね」

二人で逃げられたらどんなに良いだろう。だが、無理だ。
彼は身体が弱いのだ。逃避行になんて堪えられない。
だから、わたしは彼の柔らかな頬に口付けを落とした。

瞬間、彼が氷漬けになる。
しかし、吹雪と違うのは、彼の氷は溶けること。
溶けたときには、彼は生きているだろう。
——これは足止めの氷だから。

「さよなら」

わたしはその場から去った。
流れ落ちる涙が、氷の粒となり、キラキラと輝いていた。


おわり

2/4/2026, 8:24:42 AM

『1000年先も』

1000年先もずっと君と居たい。
そう思っていた筈なのに……。

そんな思いは露と消えた。

「ごめんなさいね」
「……なんといえばいいか、わからない」

彼女はとても綺麗な笑顔で言った。

「あなたの子が出来たの。私だけでなく、この子も愛してくださるわよね?」

……僕は君だけで良いと思っていた。
だけど、うん。

1000年先もずっと君たちと居たい。
僕はそう思った。思えた。

——たとえ、彼らが100年しか生きない人間で。
——僕が、あと1000年生きるエルフだったとしても。


おわり

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