白井墓守

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1/28/2026, 4:30:06 AM

『優しさ』

優しさとは、いったいどんな味だろう。
甘いのか、辛いのか、渋いのか、酸っぱいのか、それとも涙のように塩辛いのか。

○○○

「なぁ、優しさって、どんな味だと思う?」
「は? なんですか、急に」
「いいじゃん、いいじゃん。気になったんだよ」

放課後、夕日が沈む学校の教室で。
俺がそう言って両手を合わせてお願いのポーズを取り頼み込むと、アイツは訝しげに潜めた眉を緩めて呆れたようなため息を一つ落とした。

「優しさに味なんて無いですよ、無味無臭です」
「えー! そうかなぁ。絶対に味あるって!」
「……たとえば?」
「うーん、そうだなぁ……」

アイツに問われて、俺は考える。
この気持ちを、どう言ったらアイツに伝わるのだろうか。
アイツはテストで全教科満点とかいう馬鹿みたいな数字(逆に、ギャグではない)を叩きだして、男子スポーツ競技で一位(科目は忘れた。俺の専門はゲームです)を取るような文武両道で、それなのに性格が最悪で友達が一人も居ないっていう、文科省が見たら頭を抱えるような頭でっかちなヤツだ。
どうやら、成績の良さと性格の良さは比例しないらしい。
だけど、良いとこもある。人間のエゴだっていいながら、木から落ちた鳥のヒナの世話をしてたり、点数稼ぎって言いながら老人の荷物を持ってあげたり、あと幼馴染の俺が赤点取らないように勉強みてくれたりしてる。アイツは、俺の親に頼まれているから、これはご近所付き合いという処世術ですって言ってたけど。

「あのさぁ……」
「なんですか? 馬鹿」
「バカでぇーす。優しいってさ、なんかさ」
「はい」
「形がさ、ないよな」
「……すごい溜めた挙句それか、という気持ちはありますが、あなたは馬鹿なので飲み込んで答えましょう。はい」
「言ってんじゃん。牛みたく反芻してんじゃん。一度飲み込んで出しちゃってんじゃん」
「で?」
「あ、はい。んー、あのさぁ。今、俺の勉強見てるときとかってさぁ、どんな気持ち?」
「そりゃあ面倒だなって思ってますよ、当然」
「じゃあ、俺が勉強の合間に疲れたからゲームしようぜって誘ってる間も、面倒だなって思いながら付き合ってくれてたの?」
「そりゃあ……」

アイツの言葉が止まった。
こちらをみる、目が合う。
先に目を反らしたのは、アイツだった。
ふいっと顔を背けて、机に珍しく頬杖をつき、そっぽを向いた彼。その姿は夕日に照らされており、どんな色を持っていたのか、また顔も背けられて分からなかった。
唐突に、声だけがポツリと二人だけの教室に響く。

「まあ、少しは楽しかった……ですよ。少しは、少しはですから」
「……そっか」

その焦ったように早口になりつつ、語彙が強めに強調されて吐き出される言葉に、どことなく俺の中で納得したものがあった。

「何がそっかなんです?」

イライラを隠せないのか、苦虫を噛み潰したような顔で目を吊り上げてこちらに聞き返す彼に、思わず頬が緩んだ。

「きっと優しさって、麻婆豆腐みたいな味がするんだよ」
「は?」

口に三本指が突っ込めそうなほど開けられた彼の顔を、少し間抜けだなぁ、なんて微笑ましく思いながら、俺は再度口を開く。

「辛くて、酸っぱくて、甘くて、ちょっとだけ野菜の苦味もあって、刺激的で、でも美味しい……」
「……」
「最初に食べたときは辛さにビックリして、逃げたくなるけど、食べ続けていくうちに違って面が見えて、それが美味しく感じてくる……きっと優しさもそうなんだって、俺は思った」
「そうか」
「うん、そうだ!!」

俺が満面の笑顔で、スッキリとした気持ちのままピースを掲げると、アイツは鼻で笑ったあと、夕日が眩しかったのか目を細めながら、小声で何かを呟いた。

「何か言った?」
「別に。てか、良いんですか? もうすぐ日が沈みますけど、今日の晩ごはんは君の好きなハンバーグでは?」
「そうだった! はやく帰らなくっちゃ!!」

「……僕もあなたみたいになりたかったな」

「え、何か言った?」
「いや、別に何も言ってませんけど」
「? そっか。ほら!!」
「??」
「一緒にかえろうぜ!!」
「…………ええ、そうですね」

夕日が沈む学校の教室を、二人で後にする。
最期、出ていくときに、アイツの顔が朗らかだった気がする。
アイツの晩ごはんも、アイツの好きなメニューだったのだろうか。

あれ、そういえば……アイツってどこに住んで、いや、名前って何だっけ??

「なぁ……「あら、今から帰るの? 一人? 気をつけてね〜」……あ、先生! 一人じゃないよ! ほら!! ……あれ?」

担任の女教師に話しかけられ、俺は言葉を否定し後ろを振り返る……しかし、そこにアイツの姿は無かった。

「あれ? さっきまで、あれれ?」
「よく分かんないけど〜、あの教室。男子生徒が自殺した場所なのよね〜。テスト満点でスポーツ競技一位なのに、いったい何があったのかしら。家庭環境でも悪かったのかしらぁ〜」

「……先生、さようなら」
「ええ〜、さようなら。気をつけてね〜〜」

俺に分かったのは一つだけ。
俺に幼馴染なんて居ない。ということ。

「幼馴染でもないのに、俺の勉強見てくれたなんて。本当に優しいやつなんだなぁ……明日も会えるかな」


おわり

1/27/2026, 4:06:04 AM

『ミッドナイト』

ミッドナイトブルーは、真夜中の色。
ミッドナイトは、あなたの眠りを護る騎士のこと。

この辺りの街は、夜はとても静かだ。
夜にはみんな、ぐっすりと眠っている。

うちの街の観光資源は睡眠で、良い眠りを取るために遠くから人々がやってくる。
どんなに悪夢を見る人であっても、この街では大丈夫。
……だって、この街にはミッドナイトの加護があるから。

だけど、どうか気をつけて。
ミッドナイトは、寝ない悪い子を退治する騎士。
泥棒も山賊も、夜に働く人は、みーんな姿を消してしまう。
ミッドナイトによって、覚めない永遠の眠りを与えられる。

ミッドナイトブルーは、真夜中の色。
もしも夜の色に混じって、ミッドナイトブルーの色が見えたら、直ぐに寝たフリをして。
そこが地面でも関係ない。
ミッドナイトは、ミッドナイトブルーのリボンを身に着けている。
昔、大事な大事な令嬢から下賜された、命より大事なリボン。
ミッドナイトは、今も、その令嬢の命令を守っている。

『私が起きるまで、ずっと側で護っててね』

ミッドナイトは頷いた。そして、令嬢を守り続けた。
だけど、残念。その令嬢は起きることなく死んじゃった。
元々、病気がちだったその身体、そのまま病で死んじゃった。
それからずーっと、ミッドナイトは守っている。
主である令嬢が死んだことも受け入れられずに、令嬢の命令通りに、令嬢の姿が亡くなって居なくなっても、この街の人たちの眠りを守ってる。もはや、街の人と令嬢の区別もついてないんだ。
だけど、それも仕方が無い。
だって、ミッドナイトには目が無い。口もない。頭がない。
ミッドナイトは死んだあと、デュラハンになっちゃった。
考える脳みそも無しに、夜な夜な現れては令嬢の命令を守ろうとして、街の眠りを守ってる。

……それが、うちの街の伝承。

「どう? 旅人さん。婆ァの話は、面白かったかねぇ」
「ああ、おばあさん。とてもありがたい」
「あんらまぁ、こんなイカした顔のお兄ちゃんにお礼を言われるなんて、婆ァの人生も捨てたもんじゃないかねぇ!」
「ああ、長生きしてくれ。美しいおばあさん」
「ヒャッヒャッヒャッ。口が上手い旅人の兄ちゃんだこと」

お喋りなお婆さんと別れて、街並みを見渡す。
どこか見覚えがある……うん、間違いない。
僕は、この光景を知っている。
来たことが無いはずの、この街の光景を。

おそらく——僕が、令嬢の生まれ変わりだ。

ずっと、ずっと夢に見ていた。何か大事な事を忘れている、と。
それをようやく思い出せた。そんな気分。

「もう、いいんだよって言わなきゃな……」

あの律儀で優しくてバカ真面目な騎士を開放してあげなきゃ。

……ただし、問題が一つ。
今世の僕は、男なんだが……果たして令嬢と認識してくれるのだろうか??

「前途多難だ」

一難去ってまた一難ではないけれど、一つ解決したと思ったら変わるように出てきた問題に僕は肩を竦める。お手上げだ。
でも、やるしかない。

「これが、僕が生まれてきた意味だと思うから」

僕はジッと目の前の光景を睨みつけ、自身の頬を軽く叩いて気合いを入れると一歩足を踏み出した。

……続かなーい。
おわり

1/26/2026, 12:19:49 AM

『安心と不安』

安心することって、何?
——あの人の腕の中に居ること。
不安になることって、何?
——あの人が何も言わなくなってしまうこと。

……じゃあ、あの人の腕の中で、あの人が何も言わなくなってしまったのなら、それは安心なのかしら、不安なのかしら。

○○○

運命とは、ときに意地悪で残酷だ。
軽い気持ちで人に期待を持たせ、そして地獄に突き落とす。

そう、今の私の状況みたいに、ね。

「目を、目を開けて……ねぇ」
「……」
「もうすぐ私達、結婚しようって。式は教会でって話したじゃない。ねぇ、子供は何人が良いって、たくさん……話した、じゃない。ねぇ……」
「……」

彼の腕の中。私は必死に彼に呼び掛ける。
彼は何も言わない。だんだんと冷たくなっていく彼の体温に、顔の血が引くような感覚がする。

彼は強い、人だった。
山賊も、言い掛かりをつける貴族も、全て腕でねじ伏せる冒険者で、誰も彼に敵わない。
……それは半分当たりで、半分外れだったみたい。

ドラゴン。
人生で初めて見たソレに、私はどうすることも出来なくて。
彼だけが唯一動けた。

私を抱きしめて、守って……黒焦げになって、死んだ。

『ふぉっふぉっふぉ。人とは面白い……己一人であれば生きられたものを、そうやって有象無象のために、命を落とすことがある。我らには分からん下等生物よのぉ』

ドラゴンが喋った。
何か、込み上げる怒りを口にしようした時、強い風が吹く。
彼の背越しに、赤いドラゴンが空へ飛び立つ姿が見えた……もうその姿は、あっという間に豆粒ほどの小ささになっていく。
なんて生き物なのだろう。

……悔しい。
くやしい、くやしい、くやしい、くやしい、くやしい、悔しい!!!!

私が居なければ、私がもっと強ければ。
彼は死ななくて済んだかもしれない。

……強くなる。
そして、私は……あのドラゴンを討つわ。

もう、私達みたいな人がでないように。

「応援、してよね」

黒焦げになった彼の顔が、どこか笑ってくれているように感じた。


おわり

1/25/2026, 3:02:57 AM

『逆光』

逆光が目に刺さった。
……文字通り、物理的に。

光、とは何だろう。
明るいこと? 眩いこと? 誰かにとっての希望であること?

では、逆とは何だろう。
本来の性質と反対になるもの? そうではないもの?

……神が信仰によって存在が保たれるというのならば、この現象は当然の末路だったと語る学者すらいた。もう死んだが。

人々は光を失った。
いや、正確には光の意味を見失った。というべきか。

人々は自分たちの未来に絶望し、俯き、希望を捨てた。
そんな物は持っていても辛いだけだから、と。

……だからこそ。この現象は起こったのだろう。

「ちょっと! 大丈夫かしら!?」
「片目負傷! もう片方は視えます、戦闘継続可能です。リーダー!!」
「っ!! ……わかったわ! それ以上は負傷しないようにね!」
「ラジャ!」

いつもより狭まった視界で前を見定める。
横切ったリーダーの長い髪が風にたなびいて、そしてドブのような暗い緑のバケモノの血潮が汚く舞い散った。
逆光怪物の血だ。
小鬼のような姿から、地獄で出てきそうな大鬼の姿まで。汚らしい鬼の姿をしたソレは、逆光と呼ばれる……人間が捨てた光の成れ果て。
人類は己の業と向き合わされている。

「妹の仇だ、クソ」

襲いかかってくる小鬼を、手に持った直刀で一閃する。
上下に二分割されドブ色の血を吹き出させる相手に、舌打ちをした。
……もうちょっと上で斬る予定だったのに。やはり、片目だと距離感が難しいな。

「残り! ラスト一体よ!! 気を抜かないでよね!」
「はい! リーダー!!」

リーダーの言葉に、そちらを見やる。
一階建ての家が一個分の大きさ。そんな大鬼が、こちらを向かって咆哮をあげる。理性はない。本能で動いているのだろう。

「弱ってる! あとちょっとよ!!」
「はい! がんばります!!」

正直、そろそろ限界だった。
連戦に継ぐ連戦。一体一体は雑魚でも、数が続くと体力が持たない。直刀だって、血に塗れて切れ味が落ちて、余計に力を込めて振るわなければならなくなり、もっと力を使うことになる。

……そんなことを思っていたのが悪かったのか。それとも男女の差が出たのか、もしくは俺が怪我したから自分がと張り切りさせてしまったのか。
それは起こった。

「っ! リーダーぁぁ!!!」
「……え、あれ……かはっ!!」

雑巾のようにねじ切られて上下に分割された身体。一瞬だった。まるでティッシュをくしゃりと潰すような軽さでそれは行われた。
おそらく、リーダーは強い痛みを感じる前に死んだ。
……それが、慰めになるのかどうかはさておき。

ゲッゲッゲッゲ。
目の前の鬼が、まるで笑ったような表情をする。

「そうか、オマエ……感情があるのか」

こちらに向かって指を差し、もう片方で腹を抱えて口角を吊り上げて笑う仕草は、まさに外道の嗤いだ。

「いや、違うなーーただの模倣か」

僅かにおかしい。どこかチグハグさを感じて、俺は妖怪が人間のフリして助けを求める話を思い出した。
こうすれば人間は怒りで動きが単純になって殺しやすくなる。
そんな野生の本能、もしくは生きていくコツの一つなのか。

「あいにく、俺は怒りで冷静になるタイプなんだ。残念だったな」

……コイツ、左腕を庇っている。
本当に僅かな様子だが、冷静にコイツを分析して、俺はそれを見つけた。

「相手が強気に出るときは、実はピンチなとき……てか?」

相手の一番嫌がる方法を考える。
それを躊躇なく行う。
リーダーの死体を前に、俺の頭は冷えに冷えていた。

「はい。終わり」

何度か打ち合ったあと、俺はドロドロの直刀を力任せに大鬼の身体に叩き込んだ。
流石に二分割とはいかないが、かなり深いところまで刳り裂いたそれは、大きくのドブの小川を作り、大鬼の目から光が消えて動かなくなる。

「リーダー。目を覚まして下さい。リーダー。戦闘、終わりましたよ。ほら、終わったら、一緒にカフェの新作を食べに行こうって話したじゃないですか、リーダー。ほら、俺……甘いもの苦手だから、新作が甘いヤツだったらリーダーが居ないとどうしようもないんです。ねぇ、リーダー、リーダー!! ……本当に死んじまったんですか、リーダー」

物言わぬ屍は、何も語らない。
綺麗な長い黒髪にドブ色の血がべたりと付いているのが気に食わなくて、俺はそれを片目を覆っていた布で拭って捨てた。

「帰りましょう、リーダー」

随分と軽くなってしまった身体。当然だ、上半分しかない。

「リーダー、ダイエットしなきゃって言ってましたもんね。良かったじゃないですか、大成功ですよ。むしろ、これからたくさん食べてもっと増やさないとですね、あはは……何か言ってくださいよ、今の笑うとこでしょ? 無理か、死んでますもんねリーダー」

逆光が目に刺さった。
物理的にではなく、視覚的な意味で。

太陽の光が目に入った。涙が出た。
俺は何に泣いているんだろう。太陽が眩しいから? リーダーが死んだから? 生き残って安心したから? わからない。

「逆光、全員殺そう。そうしよう」


これは、逆光をこの世から消え去るまで戦い続けた隻眼の男の話。涙とドブ色の血に塗れた復讐譚だ。


…続かない。
おわり

たしか、キーボードちょっと変えてみた。使いやすさは今は分からない。打ちにくいとこと、打ちやすいとこがある。

1/24/2026, 3:49:07 AM

『こんな夢を見た』

こんな夢を見た。
巨大になった君が十人で、僕を取り囲む夢だ。

そして、今。それが正夢となっている。
……誰か、助けてくれ。

○○○

春はあけぼの、なんて言葉があるように。春の朝はどこか陽気で、命のスタートを感じさせる。青い空、白い雲。いつも見ている筈なのに、どこか真新しく感じてしまうのは、春のお陰だろうか。
何かが起こるようなワクワク感。
それを胸に秘めながら、一歩。
新学年になり、先輩になった高校への道を歩み始めたときだ。

「助けてぇ〜〜!!」

泣きべそをかいたような、よく知っている声。
少し軽やかな甘い鼻につくようなアニメ声……本当にどこから出しているんだろう。僕が男の子だから知らないだけで、実は女の子はみんなアニメ声が出せる喉をしているのだろうか? 僕は不思議そうに内心思いながら首を振り向かせた。

「やぁ、おは……よう。ほんとうに、ど、どうしたの?」
「ぐすっ。あ、朝起きたら……体が、大きくなってたのぉ!」

間近に近寄ってきた幼馴染。
よくクラスメイトの男友達に、お前の幼馴染って胸デカイよな。と揶揄われていたりする幼馴染。
だが、クラスメイトよ。上を見上げたら太陽を遮って本人の顔すら見えないデカさにはどう思う?
デカけりゃいいってもんじゃないと僕は思う。てか、今思った。普通に恐怖だよ? これ。僕、死ぬもん。この質量は。
にしても、幼馴染の実家が僕と違ってお金持ちの豪邸で良かった。行ったときに東京ドーム入るじゃんってぐらいデカくなければ、このサイズは間違いなく家を潰されてたし、まだ春とはいえ夜明けは冷えるから、幼馴染は風邪を引いてしまうことになってただろう。良かった、神様ありがとう。大事な幼馴染なんだ。

「と、とりあえず。変なもの、食べた? ほら、お兄さんが異国で買ってきたお土産の、ゾンビのミイラの指の燻製とか。この前食べてたじゃん」
「お兄やんは先週に『セイレーンのカルパッチョにもワサビ醤油が合うのか気になってきた。これぞジャポニズム!』って行って西洋の海に西洋人魚の肉を探しに行って、まだ帰って来てないから違うよぉ」
「うん、わかった。もしそれ、お土産にカルパッチョ持ってきても絶対にうちに持って来ないでね。僕は不老不死じゃなくて、定命を大事に生きたいんだ。桜の精神、もののあわれ、ジャポニズムだよね」
「うん。それで、うち、どうすればいいと思う??」
「うーん。まあ、とりあえず学校に行って先生に聞いてみようよ。サイズ以外は特に健康体みたいだし。そういや、制服や弁当はどうしたの?」
「うちのメイドさんや執事さんが、急いで頑張って作ってくれたよぉ、まぢ感謝!!」

僕は小さい頃から可愛がってくれたメイドさんや執事さん達に黙祷した。お疲れ様です。
特に経理のバーコードハゲを気にする茂田さんなんて、突然の出費に胃がキリキリしただろうな。あの人は優秀だけど、神経がか細いから薄毛が進行しないといいけど……無理か。僕も、ワカメとかひじきとか、もっと食べとこ。

……まあ、とりあえず学校行くか。

そんな中だった。

「まって〜〜! うちのこと、置いてかないでぇ〜!!」

もう一人。同じサイズの幼馴染が現れた。

「え」
「わあ! うちじゃん!」

「あれあれ? うちがぁ、めっちゃいる〜うける〜!」
「ちょっと〜! 本物と間違えるとか! うちのこと、なんだと思ってるの〜!?」
「うちがたくさんで〜、うちたく〜なんちゃって〜!」
「オレ、オマエ、マルカジリ」
「うちとうちとうちと……まあ、いっか! お腹空いたぁ!」
「さっきねぇ。可愛いウサちゃんの雲みたのぉ、えへへ」
「……こ、こんなにいっぱい。うち、恥ずかしいよぉ」
「うちの計算によれば、これは……異常事態なのです! きりっ!!」

合計十人、ビックなサイズの幼馴染に囲まれた僕。
いったい僕にどうしろってんだ。

僕が吐けた言葉は一つ。唯一、今の僕の気持ちを分かってくれる人に向けたエールだった。

「茂田さん、頑張って下さい。大丈夫。男は髪じゃない。ストレスで一本も毛が無くなっても、茂田さんはカッコイイです」

幼馴染の家の経済状況が終わる前に、茂田さんの胃と髪が終わる。

現実から意識を逃走させた僕が唯一考えられたのは、それだけだった。

「せめて、これも夢であってくれ」
「どうしたの? 現実だよ?」
「……うん、だよね」


……続かない。
おわり!

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