『こんな夢を見た』
こんな夢を見た。
巨大になった君が十人で、僕を取り囲む夢だ。
そして、今。それが正夢となっている。
……誰か、助けてくれ。
○○○
春はあけぼの、なんて言葉があるように。春の朝はどこか陽気で、命のスタートを感じさせる。青い空、白い雲。いつも見ている筈なのに、どこか真新しく感じてしまうのは、春のお陰だろうか。
何かが起こるようなワクワク感。
それを胸に秘めながら、一歩。
新学年になり、先輩になった高校への道を歩み始めたときだ。
「助けてぇ〜〜!!」
泣きべそをかいたような、よく知っている声。
少し軽やかな甘い鼻につくようなアニメ声……本当にどこから出しているんだろう。僕が男の子だから知らないだけで、実は女の子はみんなアニメ声が出せる喉をしているのだろうか? 僕は不思議そうに内心思いながら首を振り向かせた。
「やぁ、おは……よう。ほんとうに、ど、どうしたの?」
「ぐすっ。あ、朝起きたら……体が、大きくなってたのぉ!」
間近に近寄ってきた幼馴染。
よくクラスメイトの男友達に、お前の幼馴染って胸デカイよな。と揶揄われていたりする幼馴染。
だが、クラスメイトよ。上を見上げたら太陽を遮って本人の顔すら見えないデカさにはどう思う?
デカけりゃいいってもんじゃないと僕は思う。てか、今思った。普通に恐怖だよ? これ。僕、死ぬもん。この質量は。
にしても、幼馴染の実家が僕と違ってお金持ちの豪邸で良かった。行ったときに東京ドーム入るじゃんってぐらいデカくなければ、このサイズは間違いなく家を潰されてたし、まだ春とはいえ夜明けは冷えるから、幼馴染は風邪を引いてしまうことになってただろう。良かった、神様ありがとう。大事な幼馴染なんだ。
「と、とりあえず。変なもの、食べた? ほら、お兄さんが異国で買ってきたお土産の、ゾンビのミイラの指の燻製とか。この前食べてたじゃん」
「お兄やんは先週に『セイレーンのカルパッチョにもワサビ醤油が合うのか気になってきた。これぞジャポニズム!』って行って西洋の海に西洋人魚の肉を探しに行って、まだ帰って来てないから違うよぉ」
「うん、わかった。もしそれ、お土産にカルパッチョ持ってきても絶対にうちに持って来ないでね。僕は不老不死じゃなくて、定命を大事に生きたいんだ。桜の精神、もののあわれ、ジャポニズムだよね」
「うん。それで、うち、どうすればいいと思う??」
「うーん。まあ、とりあえず学校に行って先生に聞いてみようよ。サイズ以外は特に健康体みたいだし。そういや、制服や弁当はどうしたの?」
「うちのメイドさんや執事さんが、急いで頑張って作ってくれたよぉ、まぢ感謝!!」
僕は小さい頃から可愛がってくれたメイドさんや執事さん達に黙祷した。お疲れ様です。
特に経理のバーコードハゲを気にする茂田さんなんて、突然の出費に胃がキリキリしただろうな。あの人は優秀だけど、神経がか細いから薄毛が進行しないといいけど……無理か。僕も、ワカメとかひじきとか、もっと食べとこ。
……まあ、とりあえず学校行くか。
そんな中だった。
「まって〜〜! うちのこと、置いてかないでぇ〜!!」
もう一人。同じサイズの幼馴染が現れた。
「え」
「わあ! うちじゃん!」
「あれあれ? うちがぁ、めっちゃいる〜うける〜!」
「ちょっと〜! 本物と間違えるとか! うちのこと、なんだと思ってるの〜!?」
「うちがたくさんで〜、うちたく〜なんちゃって〜!」
「オレ、オマエ、マルカジリ」
「うちとうちとうちと……まあ、いっか! お腹空いたぁ!」
「さっきねぇ。可愛いウサちゃんの雲みたのぉ、えへへ」
「……こ、こんなにいっぱい。うち、恥ずかしいよぉ」
「うちの計算によれば、これは……異常事態なのです! きりっ!!」
合計十人、ビックなサイズの幼馴染に囲まれた僕。
いったい僕にどうしろってんだ。
僕が吐けた言葉は一つ。唯一、今の僕の気持ちを分かってくれる人に向けたエールだった。
「茂田さん、頑張って下さい。大丈夫。男は髪じゃない。ストレスで一本も毛が無くなっても、茂田さんはカッコイイです」
幼馴染の家の経済状況が終わる前に、茂田さんの胃と髪が終わる。
現実から意識を逃走させた僕が唯一考えられたのは、それだけだった。
「せめて、これも夢であってくれ」
「どうしたの? 現実だよ?」
「……うん、だよね」
……続かない。
おわり!
1/24/2026, 3:49:07 AM