白井墓守

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『逆光』

逆光が目に刺さった。
……文字通り、物理的に。

光、とは何だろう。
明るいこと? 眩いこと? 誰かにとっての希望であること?

では、逆とは何だろう。
本来の性質と反対になるもの? そうではないもの?

……神が信仰によって存在が保たれるというのならば、この現象は当然の末路だったと語る学者すらいた。もう死んだが。

人々は光を失った。
いや、正確には光の意味を見失った。というべきか。

人々は自分たちの未来に絶望し、俯き、希望を捨てた。
そんな物は持っていても辛いだけだから、と。

……だからこそ。この現象は起こったのだろう。

「ちょっと! 大丈夫かしら!?」
「片目負傷! もう片方は視えます、戦闘継続可能です。リーダー!!」
「っ!! ……わかったわ! それ以上は負傷しないようにね!」
「ラジャ!」

いつもより狭まった視界で前を見定める。
横切ったリーダーの長い髪が風にたなびいて、そしてドブのような暗い緑のバケモノの血潮が汚く舞い散った。
逆光怪物の血だ。
小鬼のような姿から、地獄で出てきそうな大鬼の姿まで。汚らしい鬼の姿をしたソレは、逆光と呼ばれる……人間が捨てた光の成れ果て。
人類は己の業と向き合わされている。

「妹の仇だ、クソ」

襲いかかってくる小鬼を、手に持った直刀で一閃する。
上下に二分割されドブ色の血を吹き出させる相手に、舌打ちをした。
……もうちょっと上で斬る予定だったのに。やはり、片目だと距離感が難しいな。

「残り! ラスト一体よ!! 気を抜かないでよね!」
「はい! リーダー!!」

リーダーの言葉に、そちらを見やる。
一階建ての家が一個分の大きさ。そんな大鬼が、こちらを向かって咆哮をあげる。理性はない。本能で動いているのだろう。

「弱ってる! あとちょっとよ!!」
「はい! がんばります!!」

正直、そろそろ限界だった。
連戦に継ぐ連戦。一体一体は雑魚でも、数が続くと体力が持たない。直刀だって、血に塗れて切れ味が落ちて、余計に力を込めて振るわなければならなくなり、もっと力を使うことになる。

……そんなことを思っていたのが悪かったのか。それとも男女の差が出たのか、もしくは俺が怪我したから自分がと張り切りさせてしまったのか。
それは起こった。

「っ! リーダーぁぁ!!!」
「……え、あれ……かはっ!!」

雑巾のようにねじ切られて上下に分割された身体。一瞬だった。まるでティッシュをくしゃりと潰すような軽さでそれは行われた。
おそらく、リーダーは強い痛みを感じる前に死んだ。
……それが、慰めになるのかどうかはさておき。

ゲッゲッゲッゲ。
目の前の鬼が、まるで笑ったような表情をする。

「そうか、オマエ……感情があるのか」

こちらに向かって指を差し、もう片方で腹を抱えて口角を吊り上げて笑う仕草は、まさに外道の嗤いだ。

「いや、違うなーーただの模倣か」

僅かにおかしい。どこかチグハグさを感じて、俺は妖怪が人間のフリして助けを求める話を思い出した。
こうすれば人間は怒りで動きが単純になって殺しやすくなる。
そんな野生の本能、もしくは生きていくコツの一つなのか。

「あいにく、俺は怒りで冷静になるタイプなんだ。残念だったな」

……コイツ、左腕を庇っている。
本当に僅かな様子だが、冷静にコイツを分析して、俺はそれを見つけた。

「相手が強気に出るときは、実はピンチなとき……てか?」

相手の一番嫌がる方法を考える。
それを躊躇なく行う。
リーダーの死体を前に、俺の頭は冷えに冷えていた。

「はい。終わり」

何度か打ち合ったあと、俺はドロドロの直刀を力任せに大鬼の身体に叩き込んだ。
流石に二分割とはいかないが、かなり深いところまで刳り裂いたそれは、大きくのドブの小川を作り、大鬼の目から光が消えて動かなくなる。

「リーダー。目を覚まして下さい。リーダー。戦闘、終わりましたよ。ほら、終わったら、一緒にカフェの新作を食べに行こうって話したじゃないですか、リーダー。ほら、俺……甘いもの苦手だから、新作が甘いヤツだったらリーダーが居ないとどうしようもないんです。ねぇ、リーダー、リーダー!! ……本当に死んじまったんですか、リーダー」

物言わぬ屍は、何も語らない。
綺麗な長い黒髪にドブ色の血がべたりと付いているのが気に食わなくて、俺はそれを片目を覆っていた布で拭って捨てた。

「帰りましょう、リーダー」

随分と軽くなってしまった身体。当然だ、上半分しかない。

「リーダー、ダイエットしなきゃって言ってましたもんね。良かったじゃないですか、大成功ですよ。むしろ、これからたくさん食べてもっと増やさないとですね、あはは……何か言ってくださいよ、今の笑うとこでしょ? 無理か、死んでますもんねリーダー」

逆光が目に刺さった。
物理的にではなく、視覚的な意味で。

太陽の光が目に入った。涙が出た。
俺は何に泣いているんだろう。太陽が眩しいから? リーダーが死んだから? 生き残って安心したから? わからない。

「逆光、全員殺そう。そうしよう」


これは、逆光をこの世から消え去るまで戦い続けた隻眼の男の話。涙とドブ色の血に塗れた復讐譚だ。


…続かない。
おわり

たしか、キーボードちょっと変えてみた。使いやすさは今は分からない。打ちにくいとこと、打ちやすいとこがある。

1/25/2026, 3:02:57 AM