白井墓守

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『ミッドナイト』

ミッドナイトブルーは、真夜中の色。
ミッドナイトは、あなたの眠りを護る騎士のこと。

この辺りの街は、夜はとても静かだ。
夜にはみんな、ぐっすりと眠っている。

うちの街の観光資源は睡眠で、良い眠りを取るために遠くから人々がやってくる。
どんなに悪夢を見る人であっても、この街では大丈夫。
……だって、この街にはミッドナイトの加護があるから。

だけど、どうか気をつけて。
ミッドナイトは、寝ない悪い子を退治する騎士。
泥棒も山賊も、夜に働く人は、みーんな姿を消してしまう。
ミッドナイトによって、覚めない永遠の眠りを与えられる。

ミッドナイトブルーは、真夜中の色。
もしも夜の色に混じって、ミッドナイトブルーの色が見えたら、直ぐに寝たフリをして。
そこが地面でも関係ない。
ミッドナイトは、ミッドナイトブルーのリボンを身に着けている。
昔、大事な大事な令嬢から下賜された、命より大事なリボン。
ミッドナイトは、今も、その令嬢の命令を守っている。

『私が起きるまで、ずっと側で護っててね』

ミッドナイトは頷いた。そして、令嬢を守り続けた。
だけど、残念。その令嬢は起きることなく死んじゃった。
元々、病気がちだったその身体、そのまま病で死んじゃった。
それからずーっと、ミッドナイトは守っている。
主である令嬢が死んだことも受け入れられずに、令嬢の命令通りに、令嬢の姿が亡くなって居なくなっても、この街の人たちの眠りを守ってる。もはや、街の人と令嬢の区別もついてないんだ。
だけど、それも仕方が無い。
だって、ミッドナイトには目が無い。口もない。頭がない。
ミッドナイトは死んだあと、デュラハンになっちゃった。
考える脳みそも無しに、夜な夜な現れては令嬢の命令を守ろうとして、街の眠りを守ってる。

……それが、うちの街の伝承。

「どう? 旅人さん。婆ァの話は、面白かったかねぇ」
「ああ、おばあさん。とてもありがたい」
「あんらまぁ、こんなイカした顔のお兄ちゃんにお礼を言われるなんて、婆ァの人生も捨てたもんじゃないかねぇ!」
「ああ、長生きしてくれ。美しいおばあさん」
「ヒャッヒャッヒャッ。口が上手い旅人の兄ちゃんだこと」

お喋りなお婆さんと別れて、街並みを見渡す。
どこか見覚えがある……うん、間違いない。
僕は、この光景を知っている。
来たことが無いはずの、この街の光景を。

おそらく——僕が、令嬢の生まれ変わりだ。

ずっと、ずっと夢に見ていた。何か大事な事を忘れている、と。
それをようやく思い出せた。そんな気分。

「もう、いいんだよって言わなきゃな……」

あの律儀で優しくてバカ真面目な騎士を開放してあげなきゃ。

……ただし、問題が一つ。
今世の僕は、男なんだが……果たして令嬢と認識してくれるのだろうか??

「前途多難だ」

一難去ってまた一難ではないけれど、一つ解決したと思ったら変わるように出てきた問題に僕は肩を竦める。お手上げだ。
でも、やるしかない。

「これが、僕が生まれてきた意味だと思うから」

僕はジッと目の前の光景を睨みつけ、自身の頬を軽く叩いて気合いを入れると一歩足を踏み出した。

……続かなーい。
おわり

1/27/2026, 4:06:04 AM