『吹き抜ける風』
心に吹き抜ける風が、どうにも嫌いだった。
こんな言葉、表現を聞いたことはないだろうか。
彼の言葉により、私の鬱屈とした心の中に、まるで一陣の風が吹き抜けたように晴れやかになった、……と。
私はこんな言葉が大嫌いだった。
昔から、自分主義で自分勝手で、とにもかくにも自分で決めなければ気がすまないたちであった。
だからこそ。
『君の主張は間違っているよ、だって僕らは――■■じゃないか』
そう言われた事が、そう言われて自分の心に吹き抜ける風が訪れてしまったのを感じたとき……私は殺さなければならないと、決めた。
「それが、あなたが十年以上も続いた親友を殺した理由なの? 意味が分からないわ!!」
「ふふ、女刑事さん。それは君が健全に生きてきた証さ。世の中には私みたいなのが隠れてゴロゴロ居るもんだ。お気をつけなさい」
――人が人を殺す理由なんて、誰にも分からない。
おわり
『記憶のランタン』
ジャック・オー・ランタンのランタンの中には何が入っている?
それは魂さ、と君が言った。
それに僕はこう返した。それは、本当かい? と。
そして、こう続ける。
「ジャック・オー・ランタンのランタンの中に入っているのはね、実は記憶なんだよ」
と。
人間はみんな死ぬとランタンを渡されるのさ。
そして、肉体と記憶を含む精神に分けられる。
そして、冥界で手続きを受けて、次の世界に羽ばたくのさ。地獄とか天国とか、異世界とかね。
でも、たまに居るだろう? 地獄入りを断られたジャックや、死んでる事を認められない幽霊や悪鬼が。
そして、彼はランタンを無くして、自分がなんでこの世を彷徨って居たかも分からずにウロウロし続けるのさ。
ね? 言っただろ?
ジャックのランタンは、記憶のランタンなのさ。
だからこそ、ハロウィンのかぼちゃに炎を灯すときは気をつけて。
それは先祖の記憶かもしれないし、別の悪鬼の記憶かもしれない。
記憶の炎があれば、そこに亡き魂がやってきてしまうからね。
おわり
『冬へ』
冬へ、また一歩近づいた。
少しずつ、少しずつだが、確実に。
日本の四季から、冬というものが消えてどれくらいの月日が経っただろう。
およそ10年前に起きた人災により、今や子供は雪や冬といったモノすら見たことが無いだろう。
「俺も、見たことが無いんだよなぁ……冬」
諸事情があり、俺も冬を見たことが無かった。
唯一、昔兄さんが俺に持ってきてくれた小さな小さな雪で出来た雪うさぎだけが、俺が知る冬だ。
「見たい、見たいなぁ……兄さんがはしゃいで俺に教えてくれた冬」
いつか、お前の体調が良くなったら一緒に雪遊びしような!!
……そう言ってくれた兄さんの姿は、どこにもない。
10年前の人災により、兄さんは行方不明になってしまった。
そういえば、もしかしたら……。
いや、きっと気のせいに違いない。
俺は頭を振りかぶって、足元に落ちていた『冬の欠片』を大事にしまった。
砕け散った冬……各地に散らばった冬の欠片を集めれば、再び日本に冬が戻る。
そう政治家からニュースで発表されてから、冬の欠片というものは高値でやり取りされるようになった。主に政府が高く買い取ってくれる。
小さな小さな冬の欠片。
きっと本体はもっともっと大きいのだろう。
それでも、一歩は一歩だ。
「いつか。必ず、兄がいってた冬を、俺は見るんだ」
固く誓ったそのときだった。
「ごめん! どいてどいてどいてぇぇえーー!!」
「え……!?」
上から女の子が降ってきた。
ちょっと何を言っているか分からないと思うが、俺も意味が分からない。
これは、突如空から降ってきた美少女と、冬を求める俺の……冬を手に入れる代わりに『何かを失う』物語。
……続きとかは、ない。
おわり
【君を照らす月】
君を照らす月を、僕は食べたいと言った。
すると君は笑って、僕にこう言った。
「お腹空いてるの? 仕方ないなぁ、ほら月見バーガーだよ」
毛むくじゃらの狼男が血走った目で、ヨダレをぼたぼた垂らしながら空腹を訴える発言は、聞く人にとっては見も毛もよだつような恐怖を与えるだろう。
しかし、目の前の天女の生まれ変わりかとも思えるズレた感じの人間は、どうにも掴めない性格で、こちらの狂気が宥められるのを感じる。
俺は大人しく、小さな小さなな手から唾を飲み込んで目を離し、小腹をも満たせないようなバーガーが一口で胃に入れる。
「どう? 美味しい?」
「…………うん」
「あは! やっぱり、秋になったら一度は月見バーガー食べなきゃ、秋って気がしないよね!!」
とある月下で。
狼男としての呪いに悩まされる男と、天女のような不思議な人間が出会うことにより、新たな物語が始まる。
――これは、食べたくないものが、泣きながら食べることになる話。
……続かない。
おわり
『木漏れ日の跡』
「木漏れ日の跡って知ってる?」
「なんだそれは」
「この世の中にはね、妖精さんっていう者が居てね……!」
「お……おう?」
「その中に、木漏れ日の妖精さんが存在するんだって!」
「お、おぉ?」
「木漏れ日の妖精さんはね、木漏れ日から木の下を歩く人間たちを見ていて、これだ! と思った人に付いていって、幸せを届けてくれるんだって! でも、木漏れ日の妖精さんが着いてるかどうかは、着いてる本人には分からないの!」
「あー」
「でも、たまに『あれ? なんか自分ちょっと運いいな、この頃』って思うことあるじゃん? それが木漏れ日跡現象、通称木漏れ日の跡って、訳!」
「……そうか」
「あーあー、僕にも木漏れ日の妖精さん、ついて来ないかなぁ! 妖精さんと一緒に暮らしたーい!」
「なぁ、一つ聞くが」
「なに?」
「その妖精さんとやらは、宿主に一緒に居るのがバレると居なくなってしまうとかいうシャイな一面は合ったりするのか?」
「いや、聞いたことないけど? なになに、誰かと一緒に居るの見つけたの!? 誰誰? 教えて教えて! 僕も妖精さん見たーい!!」
「……お前は、無理じゃないか?」
「な! なんでそんな酷いこと言うのーー!?」
「いや、だって……妖精さんが着いてるの、お前だぞ?」
「…………へ?」
おわり
なんか今日は地の文書く気になれなかった。